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糖尿病(2)

2006年06月15日 | 科 学

栄養素で血糖値を高めるのは炭水化物だけです。
そこで、糖尿病と炭水化物の関わりを考えてみたいと思います。


<炭水化物は緊急エネルギー源>

体内でエネルギーとなるのは、炭水化物、脂肪、蛋白質、アルコールです。

体を動かすためのエネルギーの他に、非必須アミノ酸15種類の合成や、糖から飽和脂肪酸への合成、ホルモンや免疫物質の合成、脳・心臓の動き、肝臓の解毒や排出など、体内で必要とされるエネルギーなどが、生命維持に重要な役割を果たしています。

安静時や軽い有酸素運動をする時には、体内のほとんどの組織で脂肪がエネルギー源とされますが、緊急に力を出す時にはブドウ糖が使われます。炭水化物はブドウ糖になってからエネルギーになります。脳や目の網膜などはブドウ糖しかエネルギー源として利用できず、ブドウ糖にならない脂肪や蛋白質、アルコールでは代用できません。

また、過剰なブドウ糖は緊急エネルギー貯蔵物質であるグリコーゲンとなって、筋肉細胞や肝臓に蓄えられます。緊急に多量のエネルギーが必要な時には、再びブドウ糖になって消費されます。

グリコーゲンに変換しても余っているブドウ糖は、褐色脂肪細胞に吸収され、すぐに燃やされて発熱して体温を高めたり、白色脂肪細胞に吸収されて飽和脂肪酸に変換され貯蔵されます。一旦脂肪に変換されてしまうと、もう元のブドウ糖には戻れません。

子供には一般に褐色脂肪細胞が多く、大人になると一般に白色脂肪細胞が多くなり、ブドウ糖を脂肪として蓄える=太るようになります。ちなみに、唐辛子などの辛味成分カプサイシンは、自律神経を刺激し、脂肪を燃やして体温を高める効果があります。


<砂糖と果糖>

食品に含まれる砂糖は、小腸でブドウ糖と果糖に分解され肝臓に送られます。ブドウ糖は肝臓から動脈に入り、インスリンの手助けで体内の細胞に取り込まれますが、果糖は肝臓で中性脂肪に変換され、動脈に送り込まれます。

果糖は血糖値を上げませんが、血液中の中性脂肪の濃度を高めます。血液中の脂肪は、筋肉を動かすエネルギーとなったり、脂肪細胞に取り込まれて脂肪として貯蔵されたり、燃やされて熱となったりします。

果物はブドウ糖と果糖の両方を含みます。果糖を多く含むのはリンゴやナシです。その他の果物や蜂蜜は、ブドウ糖と果糖をほぼ同量ずつ含みます。蜂蜜が低温で白く濁るのは、約5℃でブドウ糖が結晶化するためです

果糖は結晶しにくく、低温でも甘さを強く感じるので、冷やした時にさっぱりした甘みがあります。果糖は、ソフトドリンク類やコーンシロップなどの加工品に添加されています。コーンシロップはケーキやマフィンの甘味料としても使われます。

砂糖や果物がご飯やパンなどの澱粉に比べて太りやすいのは、果糖を含むため脂肪になりやすいことが原因と考えられます。お菓子や果物、ソフトドリンクを夕食後に摂取すると、血液中の中性脂肪が高くなり、夜寝ている間に太ります。

砂糖やブドウ糖はすぐに吸収され、血糖値を急激に上げ、膵臓を刺激してインスリンを噴出させるので、特に空腹時に砂糖やブドウ糖を含む食品のとりすぎると膵臓を傷めます。


<食物繊維と血糖値>

食物繊維とは、人間の消化酵素で消化されない食品の成分のことです。水に溶ける食物繊維(ガム、粘質物、藻類、多糖類、ペクチン、ヘミセルロース)は、過剰な糖や脂肪を溶かして体外へ排出してくれます。また根菜や果菜、果物に含まれる水に溶けない食物繊維(寒天、ぺクチン、ヘミセルロース、セルロース、キチン、リグニン)には、大腸内を効率的に掃除して排便を促し、便秘を改善する作用があります。

澱粉は、水とともに加熱されて初めて消化酵素の作用を受けます。米や麦など穀物の澱粉は消化されやすく、ジャガイモやニンジンなど野菜類の澱粉は少し消化されにくく、豆類の澱粉はさらに消化されにくいのです。このように同じ澱粉でも食品によって形態が異なり、消化される速度や消化率が違います。

食物繊維が少ないと、炭水化物の吸収速度が高まり、血糖値が急激に上昇します。玄米や全粒粉のパンなど精白度の低い穀物食品や食物繊維の多い野菜を一緒に食べると、血糖値の上昇速度が遅くなります。


<グリセミック・インデックス(GI)>

食品により血糖値がどれくらい上がるかを、ブドウ糖を100として比較し、パーセント(%)で表した数字がグリセミック・インデックスです。なお、この数字は、調理方法や被試験者によって、多少変動があります。

→ 穀類(小麦白パン 91、白米 81、うどん 80、ラーメン 73、パスタ 65、ライ麦パン 58、玄米 50)

→ 野菜(ジャガイモ 90、ニンジン 80、サツマイモ 55、タマネギ 30、トマト 30、レタス 12)

→ 肉類(約45)、乳製品(約35)、豆類(約15)、アルコール(0)


<糖尿病と食事療法>

これまでの糖尿病の食事療法は、食品のカロリー計算をし、カロリーを制限することが主眼でした。しかし前述のように、脂肪、蛋白質、アルコールは、カロリーは上げても血糖値を上げません。

最新の糖尿病の食事療法では、食後血糖値を急激に上げないことを主眼とし、カロリー制限は比較的寛容にという方向に変わって来ています。 

ジャガイモやニンジン以外の野菜や、魚、肉、乳製品、豆類はあまり血糖値を上げません。また、アルコールも、糖分を含んでない蒸留酒やワインは、飲み過ぎなければ血糖値を上げません。

玄米は白米に比べるとGI値が格段に低いのですが、これは被試験者によって変わってきます。噛むという動作は、自律神経を刺激し、澱粉消化酵素を含む唾液やインスリンの分泌を促します。ですから、玄米は噛めば噛むほど消化率が上がり、GI値が白米に近付いていきます。

おそらくこの、玄米のGI値50という数値を得たときの被試験者は、普段あまり玄米を食べ付けておらず、あまり噛まなかったと考えるべきでしょう。糖尿病患者には、玄米でさえ食後血糖値を危険な値まで高めてしまうという報告があります。


<グリコーゲン・ローディング(カーボ・ローディング)>

グリコーゲン・ローディングとは、スタミナ(筋力と持久力)を必要とするスポーツ選手が、試合の数日前からパスタやパン、ご飯、バナナなどの炭水化物を主体とした食事をして、徐々に練習量を減らして、試合当日に向けてエネルギーを蓄える高炭水化物食のことです。

普通、食事に含まれるカロリー(エネルギー)の構成割合は、炭水化物:脂肪:蛋白質=50%:30%:20%が理想ですが、この場合、炭水化物:脂肪:蛋白質=70%:10%:20%まで炭水化物を増やします。

このようにすると、筋肉に含まれるグリコーゲン量を、通常の2~3倍まで増やすことができるそうです。

農業などスポーツ選手並みに激しい肉体的重労働をしていても、日常の仕事で筋肉量を増やし、高炭水化物食でグリコーゲンを蓄えれば、長時間働いても疲れない体力が得られます。

昔の日本人の食事は、ご飯を主体とした高炭水化物食でした。これを毎日食べていても、スポーツ選手なみの活動量があれば問題はないのですが、運動不足になると、とたんに筋肉が失われ、血糖値が高くなり、糖尿病になりやすくなります。

肉体をあまり使わない仕事をしていたり、引退して活動や運動が少なくなったら、炭水化物を控え目にしたほうがいいでしょう。その場合でも、脳はエネルギーを一日に約400キロカロリー(炭水化物約100g)を消費するので、一日最低これだけの炭水化物は摂取する必要があります。


<食事によるエネルギーの配分>

食事から摂取するエネルギーは、年齢と体重、活動の程度によって変化します。あまり活動しないのに必要以上のエネルギーをとると、太ってしまい、糖尿病の原因にもなります。たくさん炭水化物や脂肪を摂ったら、たくさん体を動かさないとなりません。食事の際に、食物繊維をたくさん含む野菜や果物を摂取すれば、胃の満足感が得られ、炭水化物や脂肪の摂取過剰、血糖値の急上昇が防げます。

体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値をBMI(Body Mass Index)といいます。この値が17以下では痩せ過ぎ、18~19では適正だがやや痩せ気味、20~24は適正、25~29では太り過ぎ、30以上は肥満となります。例えば、身長160cmで体重が60kg なら、BMIは23.43で、適正の範囲内です。

太り過ぎや肥満では糖尿病の危険性が増し、痩せ過ぎでは、免疫力が落ちてしまいます。糖尿病になると、インスリンが出なくなってどんどん痩せてくるので、痩せ過ぎもまた注意が必要です。

健康な人の食事によるエネルギーの配分を考えてみましょう。

【朝食】
これから活動するためのエネルギーを補給しなければならないので、消化の良い炭水化物(ご飯、粥、パン、ロールドオーツ、果物、ジャム)や脂肪を含む食品がおすすめです。

【昼食】
午後の活動のためのエネルギーとなるので、簡単に用意できる消化の良い炭水化物(白米、パン、うどんやパスタなどの麺類、芋類)や脂肪を含む食品がいいでしょう。デザートに甘い物を少量取るのも可。

【夕食】
食後にあまり活動しないので、炭水化物(ご飯、麺類、甘いもの)を控え目にし、かわりに血糖値をあまり上げない魚、肉、乳製品、豆、野菜で腹八分目に。筋肉は夜寝ている間にアミノ酸から合成されます。

【夜9時以降の食事】
血糖値が上がり、脂肪が蓄えられて太りやすくなるので、夜食はなるべく避けましょう。特に、寝る直前に炭水化物(ご飯、ラーメン、うどん)を摂取すると、睡眠中はインスリンの分泌が少ないため、血糖値が高くなり、毛細血管を傷つけてしまいます。

【地中海式の食事】
心臓病や糖尿病の発生が少ないというので、注目を浴びていますが、カロリー比率では、炭水化物40%、脂肪40%、蛋白質20%程度でしょうか。地中海式の食事では昼食が重視され、オリーブオイルとチーズがたっぷりのパスタやサラダを、比較的時間をかけて摂取します。この方が、夕食を軽くすませることができ、体のためには理想的と考えられます。


(海波農園 菅波 任)


(参考文献)

「あなたの体も危ない!」
 アントニオ猪木、館一男著、PHP、2005年9月刊

「主食を抜けば糖尿病は良くなる!」
 江部康二著、東洋経済、2005年1月刊 

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