【人生をひらく東洋思想からの伝言】
第11回
「ゆく河の流れは絶えずして、しかも もとの水にあらず」(「方丈記」鴨長明)
「方丈記」は 昔からこの冒頭の名文句によって 愛されてきたので、
どこか 馴染みがある文言かもしれません。
冒頭の文言の続きを紹介すると、
「よどみに浮かぶ うたかたは、かつ消え、かつ結びて 久しくとどまりたる例(ため
し)なし。世の中にある、人と栖(すみか)と、またかくのごとし。」
味わい深く心に染みるような言葉ですね。
この冒頭の文章だけで 鴨長明のいいたいことは、自然と伝わってくる気がします。
存在するいかなるものも ひとつも同じ状態でいることはなく、
自然も人事も 万物は必ず流転してゆく。無常、すなわち常なるものは
何もないということ。
そこのことを、鴨長明が心の底から真実として、伝えようとしていることがわかります。
仏教に、「諸行無常」という言葉がありますが、まさに同じような意味合いです。
我々、日本人の中には四季があるように、この感覚が体に刻まれています。
でも、知らないうちに、当たり前だったことが 当たり前にできなくなると、
「今まで できたのに、なぜできないのか?」と
いろいろな面で 執着するこころが出てしまうのが、私たち人間です。
これからの時代を どのように生きていけばいいのかを、
私たちはこの瞬間瞬間 問われていますが、
このような無常観をもっていると、多少はこころが楽になると思います。
移りゆく 変わりゆく その時々で、楽しめるこころを持ちたいものですね。
参考文献 『すらすら読める 方丈記』(中野孝次著 講談社文庫)