【人生をひらく東洋思想からの伝言】
第8回
「道徳なき経済は経済にあらず、経済なき道徳は道徳にあらず」 (渋沢栄一)
2021年NHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公でもある、渋沢栄一。
渋沢栄一が設立に関与した会社は、なんと500社以上を超えています。
29歳で大蔵官僚となり、国立銀行設立を指導して、
33歳で第一国立銀行(第一銀行、第一勧業銀行を経て・現みずほ銀行)の頭取に就任。
「王子製紙」をはじめとする製糸業、「東京海上保険」の保険業、
「日本鉄道」(JR東日本)をはじめとする鉄道業、「帝国ホテル」などのホテル業、
「東京石川造船所」などの造船業、「大日本麦酒」などのビール業、など枚挙にいとまがありません。
渋沢の経営に対する考え方は、自著「論語と算盤」でも説いた上記の言葉にも集約されています。
明治から昭和の初めにかけて、「道徳と経済の両立」という理念をもった会社が、
これだけの数存在していたのです。
その結果、日本の国力を高めていったこともあり、
まさに「日本近代資本主義の父」と言われる人物の偉業です。
渋沢は、武蔵国血洗島(埼玉県深谷市)の豪農の長男として生まれました。
5,6歳から父親に「四書五経(中国古典)」を習い、
7歳から従兄尾高惇忠(おだかあつただ)に師事して「四書五経」を学びました。
ここで渋沢が言っている「道徳」とは何かといえば、2つの意味があります。
私たち人間は、いわゆる「天地人」の関係で、天を学んで生きているわけです。
まず、天に学ぶべきは「秩序」の形成で、天には無数の星が輝いています。
さらにそれらは静止しているのではなく、動いています。何千何万という、
これだけの数の星が動いているわけですから、あちらこちらで衝突がおこり、
爆発が生じても不思議ではないのですが、これがない。
すごい「秩序」が生じているわけで、これを人間社会も学び、真似しなくてはならない。
そのためのものが、「礼」です。非礼、無礼になると秩序が保てないわけで、
天から学ぶ「道徳」としては、このことがあります。
今の時代で一般的に言われている道徳は、その本質も伝えきれていませんが、
ここで終わっているので、私のこの次を知ったときに、道徳の本義はこちらかと感じました。
天の恵みの最大のものとは何かといえば、それは一刻の休みもなく、
この地上にありとあらゆる物を生み出し続けている活動です。
それを「生成化育(せいせいかいく)」といいます。
生み成長させ、化というのは松は松、竹は竹、人は人という特性を発揮することで、
そうして育成されていくという意味です。
これこそが天の最大の働きで、道徳のもう一つの意味は、この「創造」にあります。
「動態的で精力的な創造活動」、これこそが道徳の意味です。
つまり、「道徳なき経済は経済にあらず」という言葉には、
「新たな価値を生み出さなければ、それは経済ではない」という意味も含まれています。
参考文献「リーダーの指針 東洋思考」(田口佳史著 かんき出版)