大泉ひろこ特別連載

大泉ひろこ特別連載です。

人口問題に挑む(22)明治は古典的、昭和は昔

2022-12-27 09:52:21 | 社会問題

 現在の義務教育の教科書では明治の文豪は古典に入ると言う。団塊世代の筆者が中学生の頃は、夏目漱石や森鴎外は現代作家として読んだのとは大違いだ。確かに旧仮名遣いであったが、街には至る所に旧仮名遣いがあふれていたし、それほどの違和感を持たなかった。もう明治は、筆者らが古典と考える源氏物語や枕草子と同じく、古典カテゴリーに入る時代になったのだ。確かに明治が終わってから百十年経っている。

 戦後の昭和は、よく「明治は遠くなりにけり」の言葉が流行った。明治生まれの将校に駆り立てられ、戦争に行った多くは大正生まれであったが、敗戦で世の中が一変すると、それまで連綿と続いてきた明治の文化・社会に哀愁をもって懐かしむ年寄りが増えた。その明治は、よく知られるように、維新のときの3,300万の人口が明治45年には5千万人を超えた。まさに多産多死の時代であり、人口爆発しているが、多くの乳幼児が夭折した時代でもある。速水融慶大教授(故人)によると、明治には、既に、疱瘡とコレラは克服したが、赤痢やチフスは撲滅できなかった。わが家の歴史でも、大正生まれの父は6歳のとき腸チフスで生死をさまよい、父の妹はスペイン風邪で生後6か月で亡くなった。

 その後の日本を襲ったのは肺結核であるが、これは、アメリカ統治下に入ってきたペニシリンによって撲滅された。この後はガンが死因一位の病となったが、ガンは感染症ではなく、生活習慣病であり、ある意味では寿命の延びと共に避けられない疾病でもある。だが、思わぬ伏兵がやってきた。新型コロナである。感染症である新型コロナによる累計死亡者は55,561人(2022.12.26)であり、1918-20年に流行ったスペイン風邪の死亡者数38万から45万人(推計)と比較すると極めて少ない。しかし、政府のコロナ対応とマスコミが人々を恐怖に陥れるような方法であったため、出生率に大きく響き、20年87万人、21年81万人に続き、22年は77万人程度になると見込まれている。もはや、我々団塊世代が年270万人生まれていたのに比べると4分の1近くになってしまった。恐ろしや、である。

 一方で、今年、世界人口は80億に達し、2011年に70億であったから、激しいスピードで増加していることが知られる。言うまでもなく、アフリカの増加が著しい。だから、日本は人口増加する必要がないという議論もあるが、国力、別の言い方をすれば、経済力と国際地位の低下を看過する考えだ。しかし、それならば、政治はいらない。国益とは経済力と国際地位を保つことにある。経済の生産性を上げ、より具体的には先端技術を駆使した産業を発展させ、一定の人口を持つことが政治の役割なのだ。国民国家を維持するのであれば、その政治を実現しなければならぬ。

 明らかにその必要性が政治にも社会にも共有されていない今日、我々は、古き良き時代に浸って斜陽の日々をのんびりと過ごさねばならぬのであろうか。近代化を遂げた古典的な明治をたたえ、経済と日本文化(別名昭和元禄文化という)を豊かにした昔の昭和を懐かしんでいればよいのか。それに続く平成は専ら下り坂、令和は転落の時代だ。だがよ。下り坂と転落は、明治の近代化にも、昭和全盛期にも織り込まれていたのだ。明治の近代化は藩閥政治によって行われ、ネポティズム(縁故主義)がはびこり、利権政治の構造を作った。だから、この国にフェアというものはない。昭和はアメリカの支配下に置かれてから、アメリカの掌に載せられ、はみ出すようになったら厳罰を受けるようになった。「車を造るまではいい、飛行機はダメだ」「アメリカの軍需産業に忖度せよ」「概念的な教育をいつまでも続け、いい人材が出ないような教育をやれ」「人口は一定程度にとどめよ」「与党のみならず野党もアメリカの傀儡となれ」。

 討幕は、幕府がフランスと組んでいたのに対し、イギリスが薩長を後押しした。明治時代には、日英同盟が、イギリスの最大の敵であるロシアと戦争をした日本を後押しした。戦後は、アメリカの戦争に巻き込まれ、朝鮮戦争とベトナム戦争では、日本は儲けたが、第一次湾岸戦争では、1兆円余も払いながら、金ではなく軍を出せと叱責された。イラク戦争、アフガン戦争、そして今回のウクライナ戦争まで、日本は徐々に実戦に加われるような法改正をしてきたが、ついに防衛費倍増を受け入れた。

 筆者は150年以上にわたるアングロサクソンとの付き合いを否定するのではない。むしろ、フランスなど家族の価値や人権を重視する国よりも、英米のようなアングロサクソン文化の合理性の方が明快で受け入れやすいと思う。フランス人のように一日かけて料理を作ったりするよりは、英米のように、ローストビーフやハンバーガーで瞬時腹を満たす人種の方が近代化や国際化を俄かに達成するのに参考になった。ただ、一つ落とし穴がある。アングロサクソンには、根っこに人種差別主義がある。黄色人種が世界を制覇してほしくない、イエローぺリル、黄禍論がある。

 アメリカの対日占領政策で最も忌むべきは、1948年の優生保護法法制化へのバックアップであり、これが、1950年以降、実出生の7割にも及ぶ堕胎をもたらした。朝鮮戦争が始まる前のアメリカは日本を徹底的につぶすことに眼目があった。また、教育においても六三三四制を強要し、高等教育を短くして大衆化させ、エリートづくりを廃した。なぜ、占領政策に人口や教育まで対象にしなければならなかったのか。人口の量や質は国民国家が自身で決めることであろう。しかし、アメリカは、その時点では、日本を潰したかっただけだ。

 日本が今やるべきは過去の過ちを是正することだ。明治時代の殖産興業・富国強兵は、日清戦争のみならず、日露戦争に向かわせ、勝利した。イギリスが驚いたのは天敵ロシアをまさかの黄色人種が負かしたことだ。昭和時代、日本がジャパンアズナンバーワンと呼ばれ、マンハッタンのロックフェラーセンターを買収したことはアメリカ人にとって許せないことだった。だから、年次教書を以て毎年アメリカの要望に応えるシステムをつくった。英米人の腹の内まで知りながら、国益だけは守る政治が日本には必要である。それには、明治、昭和を思い出すことから始まる。明治のように人を増やし、昭和のようにナンバーワンを目指すことを忘れたか。今こそ人口を増やす政策を打ち出せ。そして、大学を淘汰し、授業料を無料化し、学問と実践の豊かな時間が過ごせる教育制度に変えよ。それこそ戦前の帝国大学の方が、戦後の新制大学よりもはるかに優れていたのだから、取り戻せ。エリートを輩出する教育を取り戻せ。

 明治と昭和、英米人の嫉妬を買った日本が今日まで彼らにいびられている状況から脱し、明治や昭和に手にしていた国益を回復するのは、人口の量と質に関わる政策を成功させるのが一番早い。

 

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