大泉ひろこ特別連載

大泉ひろこ特別連載です。

エージングパラドックス(57)グローバリゼーションの終焉

2020-05-29 20:35:31 | 社会問題

 寿センター将棋室。「やあ、秋夫君、日常が戻ってきたね、まだ完全ではないけれど」「有難いことだ。昨晩、電話したんだが、君は電話に出なかったね。俺、久しぶりに君と飲もうと思ったのにさ」「バーお多福でか」「そうだよ。君がいないから,仕方なく一人で行ったら、客は俺一人だった」「はは。ママと懇ろになったろう」「あのお多福みたいなママと一対一だとちょっと気持ち悪かったな。あんなブスでも二人だけの世界になると女に見えちゃってな」「秋夫君、君も枯れてないな」「君は何していたんだよ」「俺は映画館に行って、俺もまた三百席の中でたった一人の観客だった」

 「へえ。VIP扱いだな。で、何を見たの」「ベン・ハーさ」「ああ。ローティーンのころ見たことある、古い映画だな」「そうそう。1959年の映画。アカデミー賞11部門受賞のド迫力の映画さ」「当時、アメリカの総天然色ってすげえなと感心したが、ローマ時代の話で、イエス・キリストの原罪がテーマで、よくわからなかったな。主演のチャールトン・ヘストンの、ミケランジェロの彫刻みたいな肉体とローマの競馬だけが頭に残っている」「当時は、アメリカの映画というだけで、日本はかなわない、ケチな国だと思っていたが、俺も、一体あの映画の意味は何だったのだろうと思いついてね、衝動的に見に行ったのさ」

 「俺は、春男君みたいな偉そうな考えはないから、あれは元祖アクション映画としか見てないね。チャールトン・ヘストン演じるベン・ハーが罪人となってガレー船を漕いだり、ローマの司令官を海で救ったり、白馬を駆って落馬しながら競馬に勝利したり、心臓がドキドキしっぱなしだったな。でも、当時、日本人は肉を十分食べていなかったから、あんなすごい男の筋肉や、あんなエネルギーを出すことなんか現実に考えられなかった」「そのベン・ハーを駆り立てたのがユダヤ貴族である彼を陥れた、幼馴染みのローマ役人に対する復讐だ。キリストとの出会いにより、キリストが処刑されるときに、すべての人の罪を背負うと知って、ベン・ハーは憎しみから解放されると言うストーリーだ」

 「なんだよ、お前。急にキリスト教徒みたいになっちまって」「いや。正直俺には原罪意識なんてものは分らない。欧米人は2千年もその宗教を大事にしてきたんだぜ。儒教は社会の統治、仏教は心の統治、その穏やかな哲学で育ってきた俺たちには、そんな血なまぐさい、激しいものの考えはできないと思う」「そうだよ。今回のコロナ対策だって、日本は生ぬるいと言われているけれど、欧米のように、都市のロックダウンみたいなことできないもんな。俺たちは、生まれながらに罪を負っているとは考えられないから、コロナはいつか通り過ぎていくと楽観視するところがある。神に罰されるとは考えないからな」

 「秋夫君、世界中で、疫病対策をするという珍しい年になったが、コロナをめぐっても、米中対立は激しくなり、世界の企業が倒産の危機に瀕し、国々は鎖国状態だ。グローバリゼーションと資本主義の終焉かもしれないぞ」「株価は持ち直しているが」「株価は人々の希望値であって、俺は、秋夫君、キリスト教徒とイスラム教の戦いよりも、今後は、キリスト圏とアジア価値の戦いのほうを恐れるね」「俺たちは、キリスト教徒でもなければ、中国の価値を体現するわけでもない」「ということは、日本は早く、日本独自の価値を世界にアピールすべきじゃないか。グローバリゼーションと従来型資本主義の次に来る時代に備えて」

 「やだな、春男君、あんな古い映画見て興奮してしまって」「年寄りである俺達こそ原点に帰るべきだ。ポストコロナ世界は確実に変わる」「何でもいいから、早く将棋を始めよう」

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エージングパラドックス(56)コロナと宗教

2020-05-23 10:28:53 | 社会問題

 寿センターの将棋室は、窓を開け放ち、座席は一人置きにすることによって、再開された。「久しぶりだなあ、春男君。日常に帰れるってこんなにうれしいとは思わなかったよ」「秋夫君、そうは言っても、家族の中だけで暮らしていたせいか、我が家はギクシャクしたままだね」「どうしたんだい」「女房がね、長男の嫁に腹を立てている。子供の学校が休みだからと毎日孫を連れてきて、おまけに、お義母さんの家は汚いだの、孫の洗濯物は汚れが落ちていないだの、文句だらけなんだそうだ」「ははは。嫁姑の関係だな。今始まったことではあるまい」「だが、コロナで家族が密着したおかげで、距離が無くなって、かえって関係が悪くなったね」

 「そうか。うちは女房が死んで、考えてみれば、関西に住んでいる息子夫婦は葬式以来一度も来てないな」「君が再婚相手に夢中なんで、遠慮しているのではないか」「いや。うちの嫁は女房を嫌っていて、闘病中も一度も介護にやってきたことがない。女ってどうしようもないと思っていたよ」「秋夫君、それは違うよ。女だからではない、日本は嫁入り婚が圧倒的だから、嫁姑関係が悪いと言われるが、婿入り婚のポーランドでは、婿舅の関係が悪いと読んだことがある。つまり、外から来たものは、生来のルールと婚家のルールとぶつかり合うんだ」

 「確かに。俺の母は、俺が結婚した当初、女房の作る味噌汁がしょっぱいと怒って、女房を実家に帰せと叫んだよ」「これって、敷衍すれば、移民の問題までつながるな。人種差別や性差別、貧乏人蔑視は、みな俺たちの心に潜んでいて、口だけきれいごとを言っているんだよな」「春男君、俺は否定しないよ。俺だってそうだ。だが、問題は、若い娘たちが親の世代を見て、苦労して結婚したくないと思ってしまうことなんだ」「若い男もそうだよ。家族を作るのは、どのみち、新たなルールの中に入っていく。家族のルールというのは、結婚してみないと分らなくて、それが夫婦げんかのもとになる」

 「孔子様が儒教で、家族や社会の秩序を作ったのは、家庭と社会の安寧のためで、賢いことだ。アジアの国々が家族志向であり続けたのも儒教が一役買っている」「秋夫君よ、その儒教の2500年の歴史が、今崩れ始めた。日本だけではない、儒教の本流と思われていた韓国もそうだ。中国では、儒教は文化大革命で否定され、今は戻ってきたが一人っ子政策の弊害もあって君に忠、親に孝ではなくなっている」「春男君、儒教は、言ってみれば、家庭や社会の内部統治のための宗教なんだな。それが崩れると家庭も社会もばらばらになる」「言いえて妙だ。儒教精神が無くなって、わがまま、つまり自分のルールしか認めなくなったのが少子化の一つの原因だ」「確かに。世間では、乳幼児死亡率の低下、女性の社会進出などを原因にしているが、そもそも論として、社会の豊かさは、わがままルールを可能にし、家族なんて厄介なことに関わらなくなるんだ。それが少子化の原因のひとつだ」

 「コロナ災禍は教えたね。ステイホームで家族と密着したが、家族があってよかったと思う人と、家族とは面倒くさいと思う人に分かれた。仮にそれが半々とすると、コロナ経験をした子供半分は、家族の価値を低く見て、結婚しないかも」「逆にステイホームで寂しい思いをした若者は結婚を願望するかも」「ということは、コロナは、来年の出生率に影響するし、将来の日本社会にも影響するってことだ」

 「春男君、儒教を取り戻すってのはどうだ。年功序列で考えると、嫁姑の争いはなくなるよ。何事も年上の言うことが正しいと思わせるんだな」「ダメだよ、科学技術の発展が早い世の中では、老人は馬鹿にされる傾向だ。おまけに、昔は認知症になる前に死んでいたが、認知症になって、、ますます若者は年寄りを馬鹿にするよ」「じゃあ、俺達って、役立たずなのに、なぜ生きているんだ。年頭には、誰も、コロナが鎖国をするとも、オリンピックが延長になるとも考えた人はいなかった。若者がどんなに合理的になっても、想像を絶することは起きるわけだ。その時は、過去の経験を持っている年寄りから知恵をえるべきじゃないか。俺達だって、結核で亡くなった人をたくさん知っているし、小児まひや日本脳炎を恐れて生きた。そういう経験を語り継げば、役に立つ」

 「秋夫君、欧米でもキリスト教離れが止まらない。それでも、アメリカ大統領の就任式には、必ず聖書に手を置き、神に誓う。我々は基本的には無宗教だ。しかし、現世的宗教の儒教は沈潜しているものの存在はしている。もしかしたら、コロナ効果で大きいのは、前代未聞の現象に宗教の力が、あるいは、宗教的な慰めが必要だと多くの人が感じているのではないか」「ポストコロナ儒教もありか」「うん。ほら、ポストコロナ王手だ」

 

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エージングパラドックス(55)老人とファッション

2020-05-16 10:18:38 | 社会問題

 「寿センターは、緊急事態宣言解除を受けて、来週から開館するそうだ」「じゃあ、春男君、今日はひとまず俺の家で将棋を打つか」秋夫の家で、将棋盤を前にするなり、春男が言う。「それにしても、レナウンの破産は驚いたな」「レナウンの宣伝歌は、青春の歌だったよな。レナウン娘がわんさかわんさか・・ってさ」「コロナの影響で上場企業も大打撃だ。出歩かなくなると、衣食住のうち、一番いらなくなるのが衣服だもんな」

 「春男君、老舗のファッション業界はそもそもうまくいってなかったんだよ。そこに、コロナが追い打ちをかけたってことだろう」「そうだな。ファッション業界はユニクロがダントツで、次にシマムラ。この二つが若い人のカジュアルを席巻した。老舗は付いていけなかったんだね」「オンワードも大リストラが始まっているぞ。昔は、オンワードの紳士服に憧れたがね」「秋夫君、そもそも俺たちが服を買わないから老舗がやっていけなくなったんだよ」「退職者に服はいらないもんな」

 「俺の彼女も君の奥さんも、若い人ほどじゃないが、それなりに身だしなみは整えている。だけど、俺たち世代の日本の男っておよそファッションに興味ないんだよな」「秋夫君、しょうがないよ。俺たち、格好悪いんだから、どんないい服着たって似合わない」「昔、日本人はアフリカの部族ホッテントットの次に格好悪いと書いて、アルゼンチン大使がクビになった事件があったな」「なんで真実を書くとクビになるのかわからなかったよ。彼の本を読んだが、背が低くて、足が短くて、鼻が低くてという件、俺のことが書かれていると思ったね」

 「若い奴らが安いカジュアルでも着こなしているのは、確かに背は高くなったし、足も長くなったし、鼻は相変わらず低いが、俺達より格好良くなったからだ」「そうだよ、秋夫君、俺たち世代の男をイタリア人の男みたいに格好良くしてくれない神様のおかげで、老舗ファッション業界がつぶれることになったんだ」「神様のせい?春男君、俺達、老人の夢を持って生きているのだから、格好悪いのは宿命だなんて考えずに、どうだい、お互い着飾ってみないか」「ばか。服買う金なんかないよ」

 「だって、今度10万円の給付金が入るじゃないか、春男君」「それは、網戸の張替えと、水漏れする蛇口の付け替えと、壊れたドアの取っ手を直すとなくなってしまう」「確かに。年金は衣食住の食しかカバーできないし、住居に関することは、こうした臨時収入でもなければ金は使えないし、衣服の出番はないな」「年金生活者や公務員はコロナの影響がないから給付するなとコメントしていたやつがいたが、政府としては、年金生活者を除外すれば、次の選挙は危ないからな」

 「そうだ。コロナは図らずも政治の姿を浮き彫りにしたな、春男君。昨年の消費税引き上げで既に第4四半期GDPが7%マイナスになっていたところに、コロナはさらに10%以上引き下げると言われている。消費税デフレは人為だが、コロナデフレは天災だから、文句は言えない。失政をうまく隠したことになる」「10万円一率給付は、そうしないと選挙が怖いからだ。これも政治家の責任逃れ、失政隠蔽と言える」

 「にもかかわらず、これまで次期総理候補に名が上がっていた政治家は何も声を上げない。コロナの行き先が分からず、官僚答弁も書けない状況だからだ。下手を言えば、あとで叩かれる。野党もコロナに独自の筋書きがなく、検事定年延長に話題をすり替えようとしているが、これまたコロナで活動できない芸能人の追い風頼みという無能さ。野党は無能の隠蔽だね」「今回権限が与えられて、政府の先を行った知事の中から、新たな政治が生まれてくるかもしれない。コロナ転じてコロッと令和革命が起きるかも」

 「老人のファッション改革はあきらめるが、政治のファッション改革には期待しよう」。二人は、おもむろに勝負にかかった。令和革命は近い、不格好な日本の政治は、古い衣を脱ぎ捨てるはずだ、新たなファッションを求めて。

 

 

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エージングパラドックス(54)コロナと藩閥政治

2020-05-10 11:03:26 | 社会問題

 「やれやれ、寿センターは閉館のままだ。今日は俺の家で将棋をやるか、春男君」「今日は俺の家でやろう。秋夫君に見せたいものがあるんだ」「なんだい、それは」。春男は押し入れの中から古い封筒を取り出した。「これはね、父の戦死の知らせを受けて、おばあちゃんが母に送った手紙だ」「ほう。なんて書いてる」「恨み節だね。おばあちゃんは会津生まれの士族で頑固な会津っぽ。長州人が嫌いで嫌いで、明治維新なんて言葉は絶対に使わなかった。瓦解の時と言っていたね」「明治生まれで、よく字が書けたね。しかも、達筆だ」「東北人は教育に熱心なんだよ」

 春男の祖母の手紙は、息子を戦争で失ったのは、藩閥政治のせいだと書かれていた。「瓦解の時は尊王攘夷と言い、その後お雇い外国人や鹿鳴館に象徴される西洋志向だった日本が、再び攘夷に戻って戦争を仕掛け、我が息子の命を奪った。許せぬ、筋の通らぬ藩閥政治」

 「おばあちゃんは、明治に始まった学校教育で使われてきた教科書は、藩閥政治を称賛するための嘘だらけの内容だと言っていた。天皇を抱いて有栖川宮を先頭に錦の御旗を掲げた長州の官軍に対し、東北北陸諸藩は奥羽越列藩同盟を結び徳川幕府方について国賊だと教えられたが、錦の御旗そのものが長州人の作ったにわかの偽物で、それこそ国賊だと」「会津っぽなら、そう言うだろうな」「おばあちゃんはもともと長州政治は嘘が多いと嘆いていた」「それを言うと、春男君、今の安倍総理だって長州出身だからな、その伝統を継いでいるってことか」「おばあちゃんが生きていればそう言っただろうな」

 「春男君、確かに、明治以来、東北は冷や飯を食わされてきたことを実感するよ。新幹線だって高速道路だって東海道から始められ、東北は長く置き去りにされた。学校や病院のインフラ作りや工業化は西日本に後れを取ってきた。150年の間に総理大臣は、岩手の原敬と鈴木善幸だけだしな」「その岩手は、今度のコロナ騒ぎで一人の感染者も出さなかった」「東北全体が感染者が少ないね」「戦前は昭和5年を始め冷害で娘を売ったこともあったし、戦後最大の東日本大震災の復興もままならぬ東北は、自力で疫病と戦い、底力をみせている」「で、春男君は、今こそ東北の時代だと?」

 「そうなんだ。急におばあちゃんの声が古い記憶の中から聞こえるようになったんだ」「やめてくれよ、お前も黄泉の国から呼ばれているみたいじゃないか」「呼ばれてもいい、もうそろそろそんな時期だ。藩閥政治の伝統を担う安倍さんの顔からは精気が失われている。安倍総理の本来の仕事は、戦後レジームの変換、つまり、国体の改造だ。コロナや少子化や経済政策は、庶民の仕事だ。庶民的な職業経験を経た者が志を持って働くべき時なのだ」「確かに。コロナ大臣と言われる西村経済再生相は長州から嫁を貰い、これも藩閥政治の雄だ」「志ある在野の者に政治を譲渡すべき時だ」

 「そんなこと言ったって、春男君。今の野党じゃ、選挙のやり方ばかり学んできた、君の言う庶民的な職業経験もない、志もないサラリーマン政治屋ばかりで、藩閥政治にも劣ると思うよ」「誰が既存の勢力を応援しろと言った。コロナ後は、東北から、思いもよらぬ志高い政治家が出てくるだろう。150年の藩閥政治をやめ、オールジャパンの政治ができる強者を期待したい」「その時には、藩閥政治の雇われ者も一掃してほしいな」

 「秋夫君、それはどういう意味?」「今の藩閥政治を支えるテレビのコメンテーター。専門性が疑わしい連中が多い。それに、藩閥政治の風刺もしない、タレントばかりのクイズ番組。専門や芸をおろそかにし、変な第三次産業を作りすぎだ」「そうだ、政治家も専門性や芸に欠ける。それこそが藩閥政治の特徴だ」「春男君、君が言うように、コロナ後は、コロナにうまく対処した地域から、庶民の政治意思を知り、専門性と芸が大事にされるような社会が実現できるとしたら、ちょっと夢があるな」「それじゃ、おばあちゃんの手紙をしまって、将棋に移るか」

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エージングパラドックス(53)なれ合いのアジア

2020-05-04 12:49:15 | 社会問題

 新型コロナの流行で外出自粛が続く中、今日は、春男宅で秋夫との将棋の勝負が始まった。隣室では、春男の妻が、DVDの映画を鑑賞し、時折笑い声やため息が漏れ聞こえる。「春男君の奥さんは何を見ているんだい?」「たしか北京バイオリンとかいう中国のドラマだと言っていた。立派なバイオリンと一緒に捨てられていた赤ん坊を拾い、その子がバイオリニストとして成功するストーリーだと」「君の奥さんの世代だと、中国より韓国にはまる人のほうが多いがね」「女房曰く、韓国ドラマは人間関係が甘ったるくてまどろこしくて、泥沼にはまるような感覚で脱け出せないんだそうだ。そこへ行くと、中国ドラマはリアルに話が展開していくので、良くも悪くもわかりやすいそうだ」

 「ふうん。実際の政治でも、文在寅の革新政権は内外政策いずれもまどろこしいが、共産国家を操る習近平は中国の世界制覇を明確に打ち出しているな」「秋夫君、そういう君は本当に両国の政治が分かっているのかな」「分かっちゃいないよ、君だって同じだろう」「毛沢東のあとに出てきた人物がどうやって最高指導者にのし上がれたのか、いつも不思議だ。韓国では、大統領になった人間はことごとく、逮捕されたり、自殺したりで、いったい権力者とは何かが分からない」「日本が単純すぎるのではないか。議院内閣制だから、最大政党の党首、つまりほとんどの場合は、当選期数の多い自民党の党首が総理となる。特色を出しにくいよな。しかも、明治以来肥大化した専門集団である官僚を抱え、突出した政策には彼らがブレーキをかける。だから、日本の総理というのは、学級委員長みたいなもんで、中国や韓国のように、権謀術数の限りを使って、他人を押しのけて出てくるのとは違う」

 「どこの国でも有名なトップと、国の最高峰を極めながら忘れ去られてしまうトップがいるんだな」「そうだよ、秋夫君。誰の記憶にも残っているのが、韓国では、李承晩と朴正熙と金大中。中国では、毛沢東と鄧小平だろう。ほかは失礼ながら大物に対する捨てパイかな」「鄧小平は毛沢東の失政にメスを入れ、政治は共産主義、経済は資本主義を採り入れた人だ。春男君、その二人の間に最高指導者になった華国鋒って知っているかい」「ああ、毛沢東にそっくりな人だろう。大柄で、髪はオールバックのハゲ」「彼は毛沢東の遺言で最高指導者となったと言われているが、毛の落胤説がささやかれた。今では、彼があまりにも毛沢東を信奉するからだそうだ。それにしても、共産国家が世襲や血筋を正当化の理由に使うのは、労働者の国家と矛盾するな」

「北朝鮮がいい例じゃないか。共産国家が金王朝になってしまった。だが、日本だって、世襲が一番選挙に強いから、政治家は世襲だらけだ。変な民主主義だ」「秋夫君、それは、アジアの国々の文化からくるんだな。血のつながりを重視し、ひいては出身地域のつながりの重視だ。いわゆるネポティズムで、フィリピンでは当たり前」「敷衍すれば、出身校の重視も入るね。イデオロギーではなく、同じ種類の人間がクラスターを作るのがアジアの社会だ」「仲間内で羽を暖めあうだけでは、いい政治は生まれないね」

 「そう。しかも、アジアのなれ合い文化の代表である中国が、民主主義というイデオロギーのアメリカと対峙し、覇権を争っている。なれ合いの集団がイデオロギー集団に勝てるのだろうか」「なれ合いと民主主義との両方にまたがっている日本は、新型コロナでじっと逼塞しながら、考え抜くことだろう。経済も文化も実は、回復不可能なところまで崩落している。コロナ回復には、新たな『戦後政治』が求められていることは確かだ。日本はアメリカにつくのか中国につくのか避けられない選択が迫られるだろう」「今日の将棋も選択が難しいところにきた」

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