大泉ひろこ特別連載

大泉ひろこ特別連載です。

エージングパラドックス(61)誰に政治を託すのか

2020-06-27 10:43:56 | 社会問題

 寿センター将棋室は、コロナ後ほぼ以前と同じ利用者が集まるようになってきた。どこも行き所のない年寄りたちであり、開館を長らく待っていたのだ。春男と秋夫も日参する毎日が続く。「それにしても、春男君、梅雨は嫌だね、じめじめして」「まるで今の政治だね」「コロナがゴキブリみたいに時々顔を出すし、給付金委託問題といい、河合法相夫妻逮捕と言い、じめじめ要素がいっぱいだな」

 「秋夫君、考えてみれば、安倍政権は不正だらけだ、小渕優子、甘利明、菅原一秀なんかは、魔の三期と言われる若手議員の不倫や禿げ頭発言と違って、政界重鎮の不正だ。それが曖昧のまま、本人たちは知らん顔して公に出てきている」「そういう意味じゃ、モリカケを曖昧にしたトップの安倍さん自身が限りなくグレーだ」「一連の不正事件を曖昧にしてくれた黒川東京高等検事長を検察のトップに据える案は潰されたし、今後は河合法相問題で、検察が政府におもねる体質を覆してみせるかどうかが焦点だ」「検察というと、俺たちには馴染みがないが」「秋夫君、検察官は司法界の行政マンなんだよ。モリカケを曖昧にした財務省や文科省、安倍政権の一番のお気に入り経産省のアベノミクス失敗、官邸に主導権を握られてしまった本来ならコロナ対策をリードすべき厚労省などは、もう期待できない。官邸主導が各省の専門性を奪い、人事ばかり気にして官邸を忖度する行政が今の霞が関の特徴だ。検察が行政マンとして、今回どこまでやれるかが、霞が関役人の最後の復活チャンスだ」

 「春男君、この政権持つかな」「支持率は大幅に落ちて、コロナ対策は失敗、オリンピックは無し、自民党の金権体質丸出しだから、今やマスコミも、石破なのか、岸田なのか、はたまた新星現るなのか、後継者議論に移ったね」「アメリカも、トランプが再選危なくなっている。トランプ無しでは、安倍さんはやっていけないだろう」「民主党のバイデンは、オバマの副大統領だから、オバマケアやパリ協定など、元に戻すだろうな。ただ、伝統的に民主党は中国寄りだったが、米中の覇権争いを止めるわけにはいくまい」「なぜ」「国民がそれを支持しているからだ。トランプの政治は、弱い白人を守るためだったが、米中戦争は、弱い白人に対して、竜のごとく登ってきた黄色人種との戦いだ。この構図は、民主党も否定できない」

 「じゃあ、安倍さんは、白人側について、同じ黄色人種を敵にするのか」「いや、安倍さんは中国にも配慮しているね。安倍さんは、心中では脱アメリカをして自主憲法とやらを持ちたいが、それはできない、また、嫌共産主義だが、中国の大規模市場を考えると無下にできない。どっちつかずなのさ」「春男君、アジアは世界の人口の6割、37億人がいる。中国だけでなく、市場がでかい」「そうさ。確かに、コロンブスがアメリカ大陸を発見した15世紀から今まで、未知に挑戦してきたのは、白人、つまりヨーロッパ人だったが、21世紀はいよいよアジアの世紀になるよ」

 「そうかなあ。俺は春男君ほど勉強はしていないけど、ヨーロッパで発展した民主主義や資本主義や科学は素晴らしいと思うが、中国の孔子の思想や、今の共産主義や、秩序を重んじる割には秩序の内部では無秩序で、中はごちゃごちゃだと思えてしょうがないんだ。香港のことだってそうだ」「確かに、金の力と人口の力と開発独裁の政治体制で大いにメリットはあるけれど、世界のリーダーになれるかは疑問だね。ただ、秋夫君、中国を追い上げる、もともとはアーリア人、つまりヨーロッパ人のインドもアジアにあり、人口が3億に迫ろうとしているインドネシアもある。アジアは中国がリードするかどうかは分らんが、間違いなく、21世紀の覇者になるね」

 「そこに日本はリーダーとして登場できないのか」「秋夫君、それ、それだよ。500年にもわたって、新大陸を見つけ、資本主義と民主主義を発展させ、科学の大進歩をもたらし、植民地支配や世界戦争もやってのけたのはヨーロッパだ。しかし、明治維新に、旧弊をすべて捨ててヨーロッパの作り上げた科学や文化をあっという間に吸収した日本だ、アジアの世紀でも、リードできると思うよ。今度もまた、これまでの日本をかなぐり捨て、中国たすインド割る2に化粧しなおし、世界に躍り出る令和維新を実現すべきだ」「春男君、俺は反対だね。今のままのほうがいいよ。アメリカとアジアの間にいて、両方の言うことを聞きながら漁夫の利を得るんだ」

 「秋夫君、君のような、いつも現状を変えたくない奴が多いから、日本は一番になれないんだ。結局、政権が変わるとしても、大多数の国民が君みたいな人ばかりだから、似たような政権ができて、また不正を繰り返すんだろう」「それでもいい。だって、与党だけでなく、野党も事務所不正問題やら、内輪もめで離党だのとくだらないことを繰り返している。天地ひっくり返すようなことはこの国にはできないよ」

 「秋夫君、王手。どうだ、この天地をひっくり返すような手は」

 

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エージングパラドックス(60)寝ぼけの年齢

2020-06-20 11:13:14 | 社会問題

 寿センター将棋室。窓を開放し、席の間隔を空けるも、勝負に熱が入ってくると、みなマスクを外し、相手と額を突き合わせるほど近づく。「コロナが何だい、将棋のほうが重要だ」「秋夫君、それにしちゃ、今日の君の手は寝ぼけているね、ほら、飛車角取りだ」「待て待て」「待ったなしだよ。いくらコロナが流行っても、都知事選もアメリカ大統領選も待ったなしじゃないか」「春男君はすぐ大きく出るんだから、偉そうに」

 「都知事選は、コロナで連日いわば選挙運動をし続けた現職の勝ちだ」「革新の春男君はそれが気に入らないんだね。だけど、小池さんは、マスクをしている分、目の化粧に余念がなく、普段より目が2倍ほどになったね」「私は寝ぼけていません、目はぱっちり開いていると言おうとしているんだな」「春男君、今日のキーワードは寝ぼけかい?」「うん。トランプが民主党の大統領候補バイデンをスリーピージョー、つまり寝ぼけ男と呼んでいるのさ」「バイデンは78歳だもん、普通なら、一日中居眠りしているはずだもん。だけど、そういうトランプだって74歳、寝ぼけ年齢ではないのか」「考えてみれば、今度の大統領選は俺たち世代が戦っていると言うことだ。俺たちも将棋、頑張ろうぜ」

 「春男君、何でトランプはバイデンを寝ぼけと言うんだい」「発言のミスが多いし中国に厳しくないからさ。トランプの政治は、アメリカファーストだけではない、アンチ中国でもあるんだ。アメリカは、伝統的に民主党は中国寄り、共和党は日本寄りなんだ」「だけど、日本だって、今や、貿易でもアメリカより中国のほうが大きな相手だし、日本ももっと中国に寄った方がいいのではないか」「保守の秋夫君が言うことかね。共産主義を信奉?」「政治は共産主義だけど、国は国家資本主義だ。中国の資本がヨーロッパやアフリカにドカンと行っている」「へえ、秋夫君も勉強したね」

 「だから、春男君、日本は中国を利用すべきじゃないのか」「利用というか、協力すれば、知的財産権は勝手に侵されるし、日本の工業製品は分解されてすぐにイミテーションが作られるし。つまり、恐ろしくチャイナファーストの国で、日本は損するばかりだ。確かに、共産党一党独裁で決断が速いから、今回も、PCRキットをすぐさま大量に作って輸出した」「あれ、新聞で読んだぜ。イギリスが中国製品は使い物にならないから輸入品を全部返品したって」「そうなんだよ、秋夫君、中国はまだまだ分からないことだらけだ」

 「アメリカがアメリカファースト、中国がチャイナファーストだとすると、春男君、日本に欠けている政治姿勢は、ジャパンファーストではないのか」「それだ。日本は明らかにアメリカファーストを支えているし、中国や韓国に対しても、過去のことがあって、ジャパンファーストは言えない立ち場だ」「コロナ後真っ先に入国を始めたのは、ベトナムだし、日本は、ベトナムとかネパールとか当たり障りのないところで、積極的なんだな。この2国が最近一番日本に入ってきている」「介護施設が増え、インド料理店が増えた」「だが、昨年解禁した実質移民法はふるわないね。労働不足解消のためだったが、日本に海外から人が殺到することは起きていない」

 「秋夫君、日本もいい意味でのジャパンファーストをやらないと、中国より賃金の低い東南アジアでも、日本に憧れて行く理由がなくなってしまう」「じゃあ、何をファーストにしたらいいんだ」「コロナで見せた、日本人の公衆衛生意識の高さを応用して、クリーン日本を売り物にすべきだ」「これまで斜陽とされてきた公衆衛生政策に力を入れ、環境政策を徹底するってことか」「そのために公衆衛生税、環境税もいとわない国を目指すんだ」「春男君、前法務大臣の収賄や、検事長のかけマージャンはどうするんだ。司法のクリーンは主張できないぜ」「そうだな。日本はやはり、寝ぼけている」「春男君、君も寝ぼけているぞ。それ、王手」

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エージングパラドックス(59)アフターコロナ

2020-06-13 10:51:17 | 社会問題

 寿センター将棋室。梅雨に入って外は雨がしとしと降っているが、コロナ対策の換気のため、窓は開けられている。「秋夫君、君の将棋、最近、変わってきたな」「どう変わったんだ」「先の読みが甘くて、詰めに弱い」「偉そうなこと言うな。将棋歴は俺の方がずっと長くて、春男君、攻略本使ったお前のヘボ将棋なんかとはわけが違う」「それは認めるけど、君の将棋、コロナで劣化したね。心ここにあらずだからだよ」「確かに。本来やりたいことは、老嬢とのデートや先祖の墓の掃除や家の修理。だけど、自粛続きで何もできず、イライラを将棋にぶつけているんだ」

 「秋夫君、それだよ。君は保守で俺は革新。保守は、元の生活に戻りたいと思う焦りがあって、人間が劣化現象を起こす」「何が言いたいんだよ」「今の保守政治さ。明らかに、コロナ対策は邪魔者で、早く片付けて元に戻りたい、オリンピックもやりたいし、インバウンドの海外客を呼び込みたいし、憲法改正にも手を付けたい、しかし、事情は許さないから、いやいやコロナをやっているので、政治の劣化現象を起こしている」「革新もひどいぞ。検事長のかけマージャンや給付金の委託費問題で保守をやっつけるのはいつもの手で、このときこそ、アフターコロナの積極政策を打ち上げるべきじゃないか。まるで、君の将棋だよ、俺の失敗を待っているだけだ」

 「アフターコロナと言えば、休業していた本屋に久しぶりに行ったら、アフターコロナの特集雑誌で溢れていた」「春男君、俺も、何を買おうかと思ったが、まだすごいのが出ていないな。ジャンルは、大抵、経済予測、医薬開発と予防、それと国際関係だ」「国際関係?」「そうさ。どの国も鎖国している間に、問題は噴き出てきた。米中関係しかり、豪中関係も急に噴き出してきた」「この将棋室にも時々やってくるオーストラリア人が言ってたじゃないか。俺たちの国はいずれ中国人に占領されるって」「春男君、立ち読みしたところによれば、オーストラリア人の海外生まれの一割は中国人で、全人口で見ても5%になるそうだ」

 「中国は中国だけで見ても14億余りの国だが、ほかに中国を外から支える華僑や移民も多いからな」「日本人は日本にしかいないのと違うな。しかも、彼らは、数千年の中国文化を背負っている。儒教の社会や家族の統治哲学や、子供の名前そのものも、先祖から継承していくところも、主に漢民族の一体感、連帯感を生んでいるのだろう」「今は共産主義という一種の宗教にはまった中国で、民主主義の先進諸国に阻まれているが、共産主義以前からの連帯感は世界を支配する勢力となりうる。アフターコロナ黄禍論も出てきている」

「秋夫君、俺たちが黄禍論なんて言っちゃいけないぞ。俺たちもアジア人なんだから。コロナウィルスは、アジア系が弱毒で、欧米系が強毒らしいが、これを機会に、アジアの覇権が進むとみることもできる。日本もうかうかしていると、中国に飲み込まれてしまう」「どうしたらいいんだよ。俺は君が言うように、保守的な人間だから、共産主義はいやだ。自由こそすべてだ」

 「俺思うに、まず、日本の人口規模を保つことだ。戦争後は歴史的に出生率が高まる。コロナを戦争と見立てて、来年をアフターコロナベービーの年にするように仕向けるのだ。そして、憲法改正もオリンピックもどうでもいい。世界一の公衆衛生大国にして、その特色を世界にアピールするんだよ」「それは面白い。日本人は百年前のスペイン風邪以来、マスクの習慣があって、強制でなくても、皆が皆おとなしくマスクをつけるような国民だ。公衆衛生大国の土壌がある」「秋夫君、日本はね、戦後の結核撲滅以来、公衆衛生をがん研究や医療保険財政の問題の下において、軽く扱ってきた。保健所の数も減らしてきたんだ。しかし、反省して、日本ほど清潔な国はないと言われてみたいね」

 「春男君、お前にしちゃ上出来のアフターコロナ企画だ。どの雑誌よりも面白いよ。だがね、お前が俺の将棋を批判したけど、今日の将棋は俺の勝ちだ。王手!」「俺、目先の話に捕らわれすぎた。今の保守の劣化と同じだ、くそっ」

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エージングパラドックス(58)10兆円のからくりとマスクの庶民

2020-06-05 22:36:24 | 社会問題

 「秋夫君、寿センターの職員に、将棋中もマスクを外さないようにと注意されたよ」「春男君、無理だね。こう暑くなってきたら、マスクしていると息が苦しくなる」「アベノマスクもびしょびしょだよ」「市の職員はルールを守らせるのに躍起となってるし、我々日本人はルールをよく守るし」「老人ホームでは、コロナルールのため、家族が面会できないとか、児童館では、ルールだらけで子供が自由に遊べないとか、現場公務員の硬直性には疑問を持つな」「春男君、そうは言っても事件が起きれば、彼らは責任を取らされるんだから」「彼らが負わされる責任は、窓際に送られることくらいで、首が飛ぶことはないだろう」

 「首が飛ぶのは政治家ということになっている。もっとも、最近は政治家の責任もあいまいだね。モリカケの責任は、官僚のトカゲ尻尾切りで終わったし、コロナ給付金の遅れは誰も責任をとってないぞ」「秋夫君、それはこれからの問題だ。給付金の配分に、電通を使って莫大な事務費を払ったり、使途の決まらない10兆円の予備費を計上したりは、明らかに財政民主主義を否定している」「春男君、難しいことはいいから、なぜそうなったのか説明してくれよ」「イギリスのガーディアンという新聞は、日本の電通が裏金を使って、東京オリンピックを誘致したと報道している。そのオリンピックの開催が危なくなってきたので、もしかすると、政府は電通にツケを返そうとしているのかもしれない」

 「くわばら、くわばら。コロナに引っ掛けてそんなことに予算が使われるとしたら許せん」「証拠はないがね。だけど、売り上げ1兆円を超える巨大組織は、俺たちの想像のつかないことをやってると思うよ。だいたい、あそこは、政治家や有名人の子息子女が多く採用されているし、俺たち庶民の知らない一握りの人間が日本のカネと大衆を動かしているんだ」「俺たち庶民はたった2枚のマスクで口を封ぜられているのか」

 「秋夫君、庶民に生まれ、庶民で死んでいく我々には、一部のセレブがこの世を動かすからくりなんか生涯分らずじまいさ。だけど、それは日本だけの問題ではない。トランプは明らかに自分のファミリー企業のために政治を使っていると言われる。だから、彼にとって何よりも大事なのは、企業の価値を表す株価だろ。彼にとって邪魔なのは、国家資本主義の中国と、一見公平そうに見せながら、実は政治偏向丸出しのWHOだ。香港を潰す共産主義の強さや、天然痘撲滅時の勢いを失ったWHOは、企業人トランプにとっては、まっとうな資本主義を汚す存在だ」「トランプのからくりは透けて見えるから、わかるさ。日本の政治は分らないね、春男君」

 「俺たち庶民は、アメリカだって、中国だって、WHOだって、何だっていいと思ってるよ。日本のことをもっと知りたいね。もしかすると、株も、ウィルスも、民主主義という名の大衆扇動も、一部のセレブが動かしているとしたら、俺たちただ働きアリみたいに右往左往して生きているだけで、つまらんな」「有力な野党議員は、少しづつ自民党入りしている。その言い訳が、最近自民入りした参議院議員によると、権力がないと仕事ができないからだそうだ。野党にはからくりが見せてもらえない、ということだ」「だから、秋夫君、野党の詰めは甘いんだよ」「俺、将棋やっている時間がもったいなくなったよ、春男君。野党の質問聞いていてもまったく役に立たない。10兆円のからくりを独力で調べたい」

 「おい、秋夫君、放りっぱなしで帰るのかい。将棋の駒も消毒してから帰ってくれと職員に言われているんだ。マスクも置いていったぞ」。春男と秋夫は、終戦後間もない、幼いころの日本の空気を今感じている。平成30年間で借金まみれの日本を作ったからくりが、さらなる借金を必要とするコロナをきっかけに崩れようとしている。しかし、大衆はマスクで議論が封じられている。

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