寿センター将棋室は、コロナ後ほぼ以前と同じ利用者が集まるようになってきた。どこも行き所のない年寄りたちであり、開館を長らく待っていたのだ。春男と秋夫も日参する毎日が続く。「それにしても、春男君、梅雨は嫌だね、じめじめして」「まるで今の政治だね」「コロナがゴキブリみたいに時々顔を出すし、給付金委託問題といい、河合法相夫妻逮捕と言い、じめじめ要素がいっぱいだな」
「秋夫君、考えてみれば、安倍政権は不正だらけだ、小渕優子、甘利明、菅原一秀なんかは、魔の三期と言われる若手議員の不倫や禿げ頭発言と違って、政界重鎮の不正だ。それが曖昧のまま、本人たちは知らん顔して公に出てきている」「そういう意味じゃ、モリカケを曖昧にしたトップの安倍さん自身が限りなくグレーだ」「一連の不正事件を曖昧にしてくれた黒川東京高等検事長を検察のトップに据える案は潰されたし、今後は河合法相問題で、検察が政府におもねる体質を覆してみせるかどうかが焦点だ」「検察というと、俺たちには馴染みがないが」「秋夫君、検察官は司法界の行政マンなんだよ。モリカケを曖昧にした財務省や文科省、安倍政権の一番のお気に入り経産省のアベノミクス失敗、官邸に主導権を握られてしまった本来ならコロナ対策をリードすべき厚労省などは、もう期待できない。官邸主導が各省の専門性を奪い、人事ばかり気にして官邸を忖度する行政が今の霞が関の特徴だ。検察が行政マンとして、今回どこまでやれるかが、霞が関役人の最後の復活チャンスだ」
「春男君、この政権持つかな」「支持率は大幅に落ちて、コロナ対策は失敗、オリンピックは無し、自民党の金権体質丸出しだから、今やマスコミも、石破なのか、岸田なのか、はたまた新星現るなのか、後継者議論に移ったね」「アメリカも、トランプが再選危なくなっている。トランプ無しでは、安倍さんはやっていけないだろう」「民主党のバイデンは、オバマの副大統領だから、オバマケアやパリ協定など、元に戻すだろうな。ただ、伝統的に民主党は中国寄りだったが、米中の覇権争いを止めるわけにはいくまい」「なぜ」「国民がそれを支持しているからだ。トランプの政治は、弱い白人を守るためだったが、米中戦争は、弱い白人に対して、竜のごとく登ってきた黄色人種との戦いだ。この構図は、民主党も否定できない」
「じゃあ、安倍さんは、白人側について、同じ黄色人種を敵にするのか」「いや、安倍さんは中国にも配慮しているね。安倍さんは、心中では脱アメリカをして自主憲法とやらを持ちたいが、それはできない、また、嫌共産主義だが、中国の大規模市場を考えると無下にできない。どっちつかずなのさ」「春男君、アジアは世界の人口の6割、37億人がいる。中国だけでなく、市場がでかい」「そうさ。確かに、コロンブスがアメリカ大陸を発見した15世紀から今まで、未知に挑戦してきたのは、白人、つまりヨーロッパ人だったが、21世紀はいよいよアジアの世紀になるよ」
「そうかなあ。俺は春男君ほど勉強はしていないけど、ヨーロッパで発展した民主主義や資本主義や科学は素晴らしいと思うが、中国の孔子の思想や、今の共産主義や、秩序を重んじる割には秩序の内部では無秩序で、中はごちゃごちゃだと思えてしょうがないんだ。香港のことだってそうだ」「確かに、金の力と人口の力と開発独裁の政治体制で大いにメリットはあるけれど、世界のリーダーになれるかは疑問だね。ただ、秋夫君、中国を追い上げる、もともとはアーリア人、つまりヨーロッパ人のインドもアジアにあり、人口が3億に迫ろうとしているインドネシアもある。アジアは中国がリードするかどうかは分らんが、間違いなく、21世紀の覇者になるね」
「そこに日本はリーダーとして登場できないのか」「秋夫君、それ、それだよ。500年にもわたって、新大陸を見つけ、資本主義と民主主義を発展させ、科学の大進歩をもたらし、植民地支配や世界戦争もやってのけたのはヨーロッパだ。しかし、明治維新に、旧弊をすべて捨ててヨーロッパの作り上げた科学や文化をあっという間に吸収した日本だ、アジアの世紀でも、リードできると思うよ。今度もまた、これまでの日本をかなぐり捨て、中国たすインド割る2に化粧しなおし、世界に躍り出る令和維新を実現すべきだ」「春男君、俺は反対だね。今のままのほうがいいよ。アメリカとアジアの間にいて、両方の言うことを聞きながら漁夫の利を得るんだ」
「秋夫君、君のような、いつも現状を変えたくない奴が多いから、日本は一番になれないんだ。結局、政権が変わるとしても、大多数の国民が君みたいな人ばかりだから、似たような政権ができて、また不正を繰り返すんだろう」「それでもいい。だって、与党だけでなく、野党も事務所不正問題やら、内輪もめで離党だのとくだらないことを繰り返している。天地ひっくり返すようなことはこの国にはできないよ」
「秋夫君、王手。どうだ、この天地をひっくり返すような手は」