大泉ひろこ特別連載

大泉ひろこ特別連載です。

エージングパラドックス(71)コロナ時代のアダルトチルドレン

2020-09-15 09:29:00 | 社会問題

 寿センター将棋室。コロナ予防のため開けっ放しの窓から涼しい風が入ってくる。「いよいよ秋だな、春男君」「老人にはあの暑さはこたえるね。これで、しばらく命が続く」「それにしても、一か月前には、菅総理が誕生するなんて思いもよらなかった」「秋夫君、国民の関心は菅さんに向いてしまったから、忘れられているけれど、安倍さんの辞任は、病気にかこつけた敵前逃亡ではないのか」「相変わらず春男君はきついこと言うなあ。そうだとしても、うまくやったじゃないか。第一次安倍内閣の時と反対に、病気の総理に同情が集まって、低迷した内閣支持率が上がった。これも作戦かも」

 「秋夫君、ただひとつだけ菅総理誕生でいいことあるね」「何だ」「東北出身の総理は、原敬を始め岩手に4人いるが、他では初めてだ。菅さんは秋田出身」「なぜそれがいいことなんだ」「明治維新以来、藩閥政治は綿々と続いてきたから、その慣習を破ったことになる。石破も岸田も長州の近辺出身だから、発想が似たようなものだからね」「春男君、その意味じゃ、二世議員でなくなったのもいいことだね。石破も岸田も世襲で面白みがないからな」「まあ、そうだな。今後、河野太郎や小泉進次郎が出てくるとまたぞろ世襲になるから、ちょっとの間でも、世襲にできない、人のためになることをやってもらいたいものだ。ただね、政治の世界の裏人脈というのは意外なところがあるから、菅総理が藩閥政治とつながっていないとまでは言えないけどね」「確かに、闇の世界のつながりや金のつながりは我々には分らんからな」

 「秋田と言えば、典型は、酒に強くて色白美男子。春男君、新総理は違うね」「菅さんの政治の師は、梶山静六で、茨城出身だろ。昔、茨城の佐竹氏がお国替えで秋田に赴いたときに随伴した家系ではないか。もしかして彼のルーツは茨城かもしれないぞ。茨城県人は秋田県人に比べ背も低いし」「ま、風采はこの際関係あるまい。彼のいいところは、思いつめたところがない、つまり何かにとらわれていないフリーハンドのところだ」「秋夫君、本当のところは分らないが、確かに、安倍さんは岸信介の遺言にこだわり、小泉純一郎は郵政への怨念にこだわり、トラウマを感じさせたが、新総理にそれはないね。ひょっとしたら、期待できるのかも」

 「話は変わるが、春男君、近頃の若い奴、俺たちから見ると20代30代ばかりでなく、40代も入るんだが、どうも、そのこだわりというか、トラウマがあるように思えてならないんだ」「40代は就職氷河期のトラウマではないか。人生も社会も冷え込んでいる」「社会が問題というのもあるが、親の過保護だったり、まったくその反対にネグレクトだったり、親が原因で独立心が育っていないような気がするんだ」「秋夫君、そんなこと、心理学者にでも聞かなきゃわかるまい」「俺は学者ではないが、90年代に流行ったアダルトチルドレンという言葉を思い出すね。悪いのは親のせいというやつが多すぎる」

 「確かに、若い奴は幼いなあ。俺たちが年取ったからではなく、彼らが育つ時代が提供した経験や文化が貧しいものだったのではないか。国を挙げて戦後の復興とか、高度経済成長で世界一になろうとか、そういう国民が乗れるような目標もなくなったし。いじめや隠れた貧困、歪曲されたフェミニズムやLGBTQが彼らの文化なのだろう」「昔なら社会の中枢にあるべき年代の連中が、これから襲うコロナ後ハイパーインフレや、弱者を救わない政治やらで、ますます脆弱な姿を現していくだろう」「彼らは、トラウマが大きくて、人の親となりたくないから少子化はますます進むね、秋夫君」

 「じゃあ、春男君、これからの日本は何もいいことがないんだな。菅さんも悪い時に総理を引き受けたね」「彼が貧乏くじと分かるときには、日本は産業がつぶれ、雇用が激減し、ハイパーインフレでその日の食材も買えず、万札は紙切れになり、IT部門資産売却で儲けた孫正義だけが高笑いしているぞ」「ああ、われらが日本はどうなる・・・仕方ない、王手だ」

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エージングパラドックス(70)安倍首相辞任

2020-08-29 23:21:44 | 社会問題

 「ついに来たな」先手の春男は飛車の上の歩を上げて言った。「ああ、安倍さんのことね」対する秋夫は香車の上の歩を上げるのがいつもの手だ。「それにしても、春男君の8年前の予想は当たったね。安倍さんは再び潰瘍性大腸炎で辞任するぞと予言した」「多くの人がそう言ったから、俺も言ってみたまでだ」「なぜ多くの人が言ったんだ?」「仕事がいやになったから腹が痛くなる、腹が痛くなったから仕事を止める、卵が先か鶏が先かわからんが、それが安倍さんのレガシーってやつさ」

 「ずいぶん厳しいね。今回は、8年もご苦労様と、むしろ同情のほうが多い感じだ」「前回と違って、一定の仕事をしたからな。日米同盟を堅固にし、株を上げたし大企業に利益をもたらした。だが、秋夫君、それは、日米関係を悪化させ、株価は最低で円高を許した民主党政権の負の遺産の処理でしかない」「確かに、安保の岸、高度経済成長の池田、日中国交回復の田中、国鉄民営化の中曽根というような、冠付きのレガシーがないな」「アベノミクスはコロナで帳消し、拉致被害者は進展なし、積極外交は、韓国とロシアがマイナスになってプラマイゼロだ。強いて言えば、国民のほとんどが知らなかった日本語、忖度の言葉を広めた」

 「春男君、君は左寄りだから、何を言っても政権批判になるんだな。だけど、保守にとってもいやなのは、次に来る総理に期待できないことだよ」「手垢のついた連中ばかりが名乗り上げているね。それも二世がほとんどだ」「二世は一世と違って、その人生に畏敬の念を抱けないんだよな。最初から下駄をはかされて高みから出てきた連中ばかりだから」「春男君、菅官房長官は二世じゃないよ」「彼はあまりにも普通の人間だ。彼が総理になったら、海外の領袖との付き合いや重要案件の決断に危惧を覚える人が多いね」「だが、テレビで、石坂浩二が菅がいいと言っていた。安倍路線をそのまま継承できるからと」「秋夫君、あれは言わされているね。誰かが糸を引いている。そもそもタレントがそんな政治発言していいものか。石坂は一昔前は今の堺雅人くらい人気があったんだ。知性を備える役者としてな。今でも、彼が言うなら正しいと早飲み込みする人がいるだろう」

 「春男君、今の政治家は、すごい人生をやって出てきたのではなく、選挙のノウハウを学んで出てきた連中ばかりだから、有名な役者やスポーツ選手の宣伝力を使わないと人々の関心が集まらないんだね」「そのとおりだ。だから、桜を見る会に招待して芸能人集めをやるわけだ」「そうか。俺は保守だが、今回の総裁選はつまらなくなってきたな。疫病対策は半ば、経済復興の道は見えていない、おまけに官僚は忖度集団と化している。誰もこの国を率いていけそうもない。かといって、最もダメなのは野党だ。二党合流してまたぞろ前の民主党に還るのはもっぱら民主党時代に使い切らなかった政治資金のためだ。相対的に保守が選ばれる時代が続くだろうな」

 「秋夫君、俺が恐れるのは、今後、また総理が1年ごとに代わる日本になっていくような気がするんだ。日本は、ダボス会議などではもう経済的には駄目な国と思われていたかもしれないが、安倍さんは国際社会に日本の顔を表してきた。そのことだけは日本の財産だった」「では、総理がコロコロ変わるコロナの時代の到来ってことか?」「ダジャレはさておき、秋夫君、この勝負、君はコロッと負けたね、ほれ、王手」「ちょっと待った、そのダジャレこそ受け入れられない」

 

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エージングパラドックス(69)総理のダークホース

2020-08-22 11:02:04 | 社会問題

 コロナ第二波が来たとして、市では、寿センターの入場者数を制限している。そのために、春男と秋夫は朝早く来てセンター前に並ぶようになった。「涼しいところで一日将棋を指せなくなったら、その日は絶望的だからな」「我々戦中生まれにとって、並んで待つなんてことは日常茶飯事だったし、苦にもならないよな、春男君」「それにしても、地方公務員は、何でも国の方針だ、知事の方針だと言い張って、市民を苦境に陥れるのが好きだな」「裁量権をわざと使わず、現場管理を杓子定規にするんだ」「客本位の民間ではないからしょうがあるまい」

 センターが開館すると二人はすぐに勝負を始める。「そういえば、わが県の国会議員の中にも、地方公務員に批判的な奴がいたっけな、え~と、名前は出てこないが」「もしかして茂木敏充?」「そうそう。民主党政権の時に、彼は、国家公務員に準じて地方公務員の給与も下げるべきだと主張したよな。自治労バックの民主党ではできまいと息まいた」「そうだ。大した奴と思ったね。言いにくいことを堂々正論として言える数少ない国会議員だ」「だが、春男君、彼は、総理にすべきでない国会議員のニ位に挙げられているぞ」「知ってるよ。一位はダントツの稲田朋美。そして二位は茂木と枝野幸雄がタイだ」

 「枝野は福島原発問題の時の官房長官で、人命に問題はないなどと発言した対応を批判されたからわかるけど、茂木は失政がないだろう。なのに、何で嫌われているんだ。当選回数9回で主要大臣も経験し、総理になってもおかしくない人物じゃないか」「秋夫君、彼の後援会に入っている近所の爺さんの話では、他人に厳しくて人望がないんだと」「あの顔じゃ、ありうるな」「顔は関係ないだろう」「春男君、政治家はね、顔も問題なんだよ。茂木は確かにTPPを成功させたり、経済も外務も堂に入っているが、眠たそうな顔にチビだ。姿が映えないんだね」

 「そうかもしれないが、外務大臣の時も、TPP交渉の時も、特に欧米人と並ぶと彼はダントツにチビだけど、英語も流暢で引けを取らない感じだったな。確かに、昔欧米の漫画に描かれた滑稽な日本人に似てはいるが」「中曽根さんや安倍さんは背も高く、顔も目鼻立ちがはっきりしている。その点では欧米人に引けを取らないが、本当の交渉力を持ったのは、チビの宮沢喜一や茂木なんだよな」「秋夫君、彼が嫌われる本当の理由は、眠たそうな顔とかチビとかではなく、人から好かれない、威張りたがり人間なんじゃないか」「会ったことないから分らないが、確かに、人望がないからという理由がいつもマスコミに書かれている」

 「しかし、秋夫君、今望まれるリーダーは人望とか何とかいうよりも、仕事を自ら理解して、作り出して、邁進できる能力を持った奴だ。人柄に拘泥していては、国のかじ取りはさせられないぞ」「確かに、アメリカでも同じで、いくらトランプが嫌われているからと言って、78歳で三回も脳手術をしたバイデンのほうが人間がましだと言うのは危ない。その理由で、バイデンが勝つ見込みが高いとされているのは問題だ」「そうだ、官僚の世界でも、政治家に忖度ばかりしていて、自ら仕事を作り出せない任務懈怠の輩が多いと聞く。官僚の中で力のあるやつは、収賄だ、セクハラだと言う理由で排除されてきたからな」

 「じゃあ、岸田、石破よりも、俺たちの結論は茂木ということのなるのかな」「秋夫君、岸田、石破をいじくりまわすのは、手垢がついて飽きた。ちょうど、立憲と国民がまた合流して旧民主党を作るかどうかで協議しているのが、実は国民の笑いものになっているのと同じだ。人柄なんかよりも、この国の方向を定められる人間が総理になってほしい」「ちょっと待て。俺たち、まだ互いに勝負の方針が定まってないぞ」「俺たちも、この国の政治と同じく、手垢のついた人物と方法をいじくり回すヘボ将棋だな」

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エージングパラドックス(68)敗者復活

2020-08-17 10:22:00 | 社会問題

 春男も秋夫も墓参りを済ませ、新たな気持ちで、寿センターの将棋盤に向かった。「秋夫君、俺は、母の墓前で、母の声を聞いたね。戦死した父のあとを受けて、子供三人育てた母だ。末っ子の俺は赤ん坊だったから、母の背中に負ぶわれて、母は風呂屋で掃除婦として働いた。その後俺はその頃少なかった保育所に行ったんだよ」「そんな小さい時のことを覚えているのかい」「後年母に聞かされたんだが、覚えているような、いないような。ただ、母がよく歌っていた、女の道はなぜ険しい、は脳裏に刻んだ」

 「春男君、俺も墓前で父母の声を聞いた。米屋を夫婦でやっていたんだが、その頃、米屋の社会的地位は高くてね。米は主食だし、配給だから、政府のバックアップがあったんだ。米穀通帳は、今の運転免許のように、身分証明書にもなったんだよ。だけど、当時の共働き夫婦って大変なんだよな。しょっちゅう、言い争いをしていたのを覚えている。母が出ていくと言えば、父は出ていけと言い、子供の俺は物陰でおびえていた」

 「日本は見事に敗者復活したんだ。今年は、コロナで戦没者追悼式も簡素化したが、戦後75年、敗者復活の原動力は、俺たちの親、大正生まれが中心だね」「大正デモクラシー生まれは、皮肉にも、戦争に行くために生まれ、戦後の立て直しを任されたんだ。大正生まれはデモクラシーの洗礼を受けたせいか、明治の統治機構に拘泥せず、切り替えが早かったね」

 「敗者復活と言えば、やられたら倍返しの半沢直樹のテレビドラマが大受けだ。証券会社に飛ばされた半沢が古巣の銀行に戻って敗者復活の仕事を見事にやり遂げる」「そのことは、かすかに、大正生まれが敗者復活の仕事をやり遂げたことにつながるね。今は彼らの孫世代が中心だが、戦後の日本人は敗者復活の醍醐味を社会全体として大きな価値として受け止めるようになった」「そうだよ、春男君、敗者復活は、戦後の成功のキーワードだ」

 「いや、秋夫君、それにしちゃあ、個人レベルでの敗者復活は少ないなあ。日本って国は、一度失敗するとその人から皆遠ざかる傾向がある。俺はサラリーマンだったからよくわかるよ。失敗するとその人は最後まで人事で悪く扱われるんだ。欧米が成果主義なのに対して、日本は減点主義だからな」「それじゃ、なぜ日本は戦後、敗者復活できたんだと思う?」「脱皮したからではないか。全体主義の殻を脱ぎ捨て、アメリカ的価値で全身を固めたんだ」「だとすれば、敗者復活できたのはアメリカのおかげで、今更、アメリカの作った憲法を改正すべきだと言うのはおかしいな」「右寄りの秋夫君が言うとおかしいね」

 「安倍さんだって敗者復活した人だ。中曽根さんに次いで国際社会に名の売れた日本の総理だ。そうなれたのも、やはりアメリカのおかげで、戦後レジームの下で作られた憲法改正をやるべきという、安倍さんの発想は矛盾している」「秋夫君、矛盾は今の政治のキーワードさ。与野党いずれも土台の哲学が不明確だ。トランプは曲がりなりにもアメリカファーストの哲学を持っているが、日本は、日本ファーストではなく、日本もまたアメリカファーストなんだよなあ。そこまでまねる必要あるのかな」

 「政治が矛盾だらけになるのは、選挙のための政治であって、選挙に良かれということだけをしようとするからだ。もう国民は、コロナの巣ごもり中にこのことに気づいてしまったが、何せ、野党もまた選挙のためにだけ二党合流しようとしたり、みっともない。残念ながら、野党の敗者復活は全くない」「自民は経団連に資金をもらい、旧民主党系は連合、即ち労組から支援を受け、いつもスポンサーの意見を聞かねば行動できない。そういう意味では、特定の資金をもらっていない、維新、共産、公明のほうがまだましだ」

 「春男君、先刻、脱皮できたから戦後の敗者復活ができたと言ったよな。今の日本に脱皮する方法はあるか」「子供を増やすことだ。大正生まれが戦後の敗者復活を遂げたのも、ベビーブームを作り、新たな日本人を食べさせていくために一生懸命働くことができたからだ。能力がどうというよりも、未来のために、本能で働く日本の姿を見てから人生を終わりたいね」「今日の勝負の終わりのために、王手だ。言っておくけど、敗者復活はないよ」

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エージングパラドックス(67)お盆

2020-08-08 12:02:43 | 社会問題

 「もうすぐお盆だな、秋夫君」「両親も兄弟も亡くなってからというもの、お盆の親戚づきあいは途絶えたな」「そうだな。正月も、七五三も、葬式も簡素化の方向だ。親戚が減っているからな。しかし、この時期になると、何か、両親と話したくなってしまう」「俺もそうだ、春男君。静かに一人で墓参りに行こうかと考えている」「へえ、偶然の一致だね。俺もそう考えて、今日の勝負はそこそこにして、出かける準備をしたい」「俺は勝負を適当にはしないよ。親から習ったのは、商売と勝負は負けてはならぬという哲学だ」

 「君の家は商売を継いだから、つまり、世襲だから、家訓や商売哲学も継いでいるんだな」「そうだよ。サラリーマンの君はどうだい、春男君」「俺は、父が戦死した母子家庭だから、家訓てのはなかったね。ただ、俺の母は、いつもいつも、大津よし子の女の道を歌っていたのが耳に残っている。女の道はなぜ険しい、という歌詞の」「そうか。女手一つで、つらかったろうな。俺の家は世襲だから、資本もあるし、商売のノウハウもあったし、ま、時代とともに需要が変わって、それなりの苦労はしたが、君んちほどじゃないね」

 「商売の世襲はいいが、政治の世襲はやめてもらいたい」「だが、春男君、安倍さんだって帝王学を学んで育ったんだから、メリットもあるだろうよ」「だが、今の時代、しかも、コロナ後の社会に、世襲的感覚の政治はいただけない」「なぜ」「安倍さんの政治は基本的に岸信介のやり残したことの実現、遺言の執行者ってことじゃないか。世の中は変わり、古い価値観を維持していては、コロナ後の日本を立ち直らせることはできまい」「そうでもあるまいよ。この世の出来事は所詮人間社会の出来事で繰り返しさ。歴史に学ぶことは大きいよ。世襲はそういうメリットを持っているんだろ」

 「歴史ったって、固定感を持った歴史認識なら、政治をいい方向に持っていけないさ。今の日本が求めているのは、新自由主義経済の見直しだ。コロナの蔓延も、気候変動も、テロリズムも新自由主義は解決できなかった」「やめてくれよ、春男君。じゃあ、どうしろって言うんだ。トマ・ピケティも格差是正を叫んで一世を風靡したかと思えば消えてしまったし、それで、マルクス主義に帰れとでもいうのかい」

 「マルクス主義を政治体制にしようとするから間違いが起きるのであって、学問としてなら、物事をマクロにとらえる論理はすごいよ」「そうかね。今や、誰も階級闘争なんて信じてないね。非正規雇用がこんなに増えた時代でも、八割の日本人は中産階級意識を持っていて、労働者意識よりも、経営者に近い意識を持っている」「だから、ワークライフバランスとか進まないわけだな。それは、労働組合とか、左翼論客がまるで魅力ないからでもある」「左翼論客は、どの分野にもいるな。彼らは、理屈をこねるが数字で勝負しない」

 「そうではないよ。数字を使うが都合の良い数字ばかり。非正規雇用の割合とかね。だが、中道をいくつもりの経済学者もインチキくさいぞ。経済学も数学をベースにしなければ信頼できないという風潮もあって、誰もかれもが数学を使うが、前提条件はめちゃくちゃだ。数学は、ウェルディファインド、つまり、よく定義されていなければ使うこと自体が間違いだ」「春男君、偉そうなことを言うなよ。君だって、経済なんかちっともわかっていないじゃないか」「あんな学問、疑似科学さ」

 「じゃあ、本当の学問とはなんだ」「歴史なんだろうな。もう一つは宗教学」「え?」「高度経済成長期に、田舎から都会に出てきた青年を巻き込んだのは、新興宗教だった。今は、若い人は宗教離れしている。信徒はみな、二世、三世の世襲ばかりだ。どの宗教も新規獲得はできない。まして、三密を避けるコロナ時代は、宗教の集まりもできなくなったから、廃れるばかりだ。これは、全世界的にそうだ。だが、宗教を学ぶことで、自分が求めているものが明確化する。その意味で、歴史と並ぶ学問と言ったのさ」「俺には、意味不明だ」

 「今日の勝負はどうやら君の勝ちだ、もう詰んだね。お盆に父母と会話しに行く、これは日本独特の宗教ではないか。アニミズムやら仏教やら、明治以降のインチキ神道やらのごちゃまぜで、あの世志向だ。さあ、これから、墓参りとするか」「春男君、ご両親の墓前で言っとけよ、君が高等教育受ける機会があったら、世をリードする学者になっていたかもしれないと」

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