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7月の課題本『ことり』小川洋子  例会レポート追記

2018-07-30 11:48:26 | ・例会レポ

 

朝日文庫  626円

12年ぶり、待望の書き下ろし長編小説。
親や他人とは会話ができないけれど、小鳥のさえずりはよく理解する兄、
そして彼の言葉をただ一人世の中でわかるのは弟だけだ。
小鳥たちは兄弟の前で、競って歌を披露し、息継ぎを惜しむくらいに、一所懸命歌った。
兄はあらゆる医療的な試みにもかかわらず、人間の言葉を話せない。
青空薬局で棒つきキャンディーを買って、その包み紙で小鳥ブローチをつくって過ごす。
やがて両親は死に、兄は幼稚園の鳥小屋を見学しながら、そのさえずりを聴く。
弟は働きながら、夜はラジオに耳を傾ける。
静かで、温かな二人の生活が続いた。小さな、ひたむきな幸せ……。
そして時は過ぎゆき、兄は亡くなり、 弟は図書館司書との淡い恋、鈴虫を小箱に入れて持ち歩く老人、文鳥の耳飾りの少女と出会いながら、「小鳥の小父さん」になってゆく。
世の片隅で、小鳥たちの声だけに耳を澄ます兄弟のつつしみ深い一生が、やさしくせつない会心作。(Amazonより)

 

 

例会レポート

小川洋子『ことり』
   朝日新聞出版 2012年11月初版
7月26日 出席者13名 推薦者 講師


小川洋子を取り上げるのは『妊娠カレンダー』以来です。作者にとっては12年ぶりの書下ろし長編。
講師は「きっと絶賛の嵐だろう」との予想でしたが、さて皆さんの感想は・・・

☆静謐な文章の中で、一人一人の人物造形も確か。
 弟の生き方に共感した。
☆本当の幸福とはこの二人のように無欲で、小さな楽しみを重ねていくことではないか。
若い時には気づかないことである。
☆園長先生とは社会そのものであり、小父さんは園長先生と会話することで社会と交流して幸せを感じていたのではないか。
☆兄と弟の狭い関係は孤独ではあるが、自分の置かれた状況をありのまま受け入れて世間と距離を置いて生きるというピュアな孤独で、ある意味強い人々である。
彼らが穏やかな人生を全うできたのは良かった。
☆兄弟の純粋なありように心打たれる。
☆よくわからないけど心に残る。
☆兄弟は理想の生き方にも見える。
☆兄弟の人生と現実との乖離がうらやましい。
 
など、兄弟の生き方への肯定的な感想がある一方で

★ほのぼの系で淡々とした描写の後ろに怖いもの硬いものが見える。それはいわゆる世間というものの恐ろしさ、あるいは寂しさではないか。
★兄は自分の思いのままに生きている〈幸福な人〉のようだが、ただの変な人。
文章の巧みさで二人の生活を穏やかで楽しいおとぎ話のように読ませるが、世間一般から見れば〈怪しい生活、危ないおじさんたち〉である。
★青空薬局のおばさんと兄、図書館司書と小父さんとの交流は淡い恋心のようにも見えるが、彼女たちの接し方は実は〈変わった人たちだけどヘンな人って言っちゃいけないよ〉という世間知からくるものではないか。
★自分の世界のカテゴリ以外の者がたくさん出てきて、気持ち悪い小説。
★他人との距離感やコミュニケーションの壁を乗り越えようとしないで平気な兄弟への苛立ちを感じる。

視点を変えればこういう見方も。

 また、作者のひそかなたくらみに思いを馳せて
〇タイトルは「ことり」と平仮名なのに、本文では「小鳥の小父さん」と漢字表記なのはなぜ?
〇「ことり」は静けさの中で何か硬いもの」が倒れる音、兄と弟それぞれが「ことり」と亡くなる様子。
〇メジロの鳴き合わせの会の場面は俗世間の騒音であり、ひっそりと生きている小父さんの世界との対比である。
〇ミチル商会の社史にある「鳥かごは鳥に小さな自由を与えるもの」が、小父さんと外の世界との関係のようだ。

といった音や響きなど、感覚への言及もありました。

 さまざまな要素についての多様な解釈が可能であるから、逆に「絶賛」することをためらわせる作品であったと思います。


講師のコメント

小川洋子の作品に共通するのは言葉に対する真摯な態度である。
想像力を持った言葉を用いることによって、表現が飛翔して世界を形成する。
また、特定の人名や地名を出さない、匿名性を持たせることで逆に読者もどこにでも行き誰にでもなることができるのだ。
この作品で特に印象深いのは、
兄と小鳥との会話が理解できない母を咎めようとしないところに現れる、
知らないものへの優しさ、
小鳥の小父さんの、疎外を疎外と思わない強さ、
実はいろいろな背景を隠し持つ老人の孤独死、の三点であり、
読めば読むほど含蓄のある作品である。
鈴虫の爺さんの幼女への接し方など出席者と講師とはだいぶ見解の相違があるが、
作者の意図とは異なる読み方をすることも読書の醍醐味なのだ。 


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