ヨシキリ(葭切)の異名である。この名前は、ギョギョシ、ギョギョシ、ギョッ、ギョッという鳴き声から来ている。ウグイス科の鳥で躰はそれほど大きくはないが、とにかくやかましく鳴くのである。葭の茎に横どまりする。昼夜を分かたず鳴くので、その鳴き方に注意が行くようだ。
葭切の上下に揺れる昼の月 中村草田男
この句は珍しいと思えるほど行々子の鳴き声には触れていない。それは葭切と言うだけで十分にわかるということであろう。葭切が葭の茎を上下することによって昼の月が上下するように見えるというのである。葭切の運動は鳴き声ほど激しくはないが、大きな鳥ではないから葭の茎を上下する鳥の動きが月の上下となるのだ。ここでは「揺れる」と言って上下するとは言っていないが、葭が揺れることで月も揺れるのである。
何匹もゐると見せかけ行々子 尚山和桜
これは久米田池へ吟行したときの句である。池の岸辺には一部ではあるが葭原があって行々子が鳴いていた。彼はそれをじっと見ていたのである。とにかく鳴き声があまりにもやかましいので、いったい何羽の行々子がいるのかと思って観察したのである。葭の茎につかまっているのはどう見ても一羽しかいない。その結果こういう句になったのだが、行々子の特徴をよく捉えたと思う。鳥だから何羽という意見もあろうかと思うが、匹という数詞は獣、鳥、魚、虫などを数えるのに用いられるのだ。
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