浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

チーム0・F・INF 助走5

2015-11-10 20:50:20 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 「いいですよ」
 有田君は、驚くほどあっさりとうなずいてくれた。
 地方大会のことだ。3人一組のチームで、店舗代表になって出場する、アレだ。いや、俺はそれ以外のことをほとんど知らなかったんだが。
「いいの?受験、あるでしょ」
 玉田が案じ顔で問う。有田君は答える。
「いまさら勉強したって、たかが知れてます。焦っても仕方ない時期です。だからストレス貯めすぎないようにしたいだけです」
 大人だ。ガキに交じってガンプラバトルに夢中になった挙句、地方大会に興味が出た俺は、うなだれるしかない。
「でも、ガンプラ、止められてるんでしょ?」
「ちがいます。止めてるんです。僕は意志が弱いから、逃避でなんとなく作ってしまわないように」
 大人だ。ものすごい大人だ。俺と玉田ちゃんで二人して、しゅんとしてしまうくらいだ。
「でも、なんで?受験も近いのに、俺らの遊びに付き合ってくれるなんて」
 俺がそう問い重ねると、有田君は、すこしはにかんだような笑みを浮かべた。
「だって、順番待ちの子のために、わざわざこんなところで時間つぶしをするなんて、いい人たちだから。だから、同じチームで、やれる気がして」
 なんという出来た子だろう。俺は心からウルウルし、人目と通報の危険さえなければ、有田君を抱きしめてしまいそうだった。まあ、そんなことをしたら玉田ちゃんに色々とネタにされそうだが、玉田ちゃんのほうも、俺と同じくらいウルウルした顔をしていた。
「ええこやな」
「ほんまええこや」
「僕、帰りますよ?」
「いや、待ってくれ」
 俺は引き止める。
「店長にエントリーフィーを提出してからにしてくれ」
 その店長の方は、少し驚き、続いて「そうか、じゃあ、僕も動かないとな」と言い出した。店の奥からクリアファイルを取り出してくる。
「紙申請なの?」
「いや、申請はこっちの端末でやってもらうんだけど」
 店長がクリアファイルから取り出して見せたのは、地方大会のポスターだった。RX-78、元祖のガンダムがシード撃ちしてる。
「おお」
 西東京地区連合主催、GPバトル西東京地方大会。
「ウチの店から、誰か出るって言い出したら、いちおう、公平のために貼っておかないとね」
 集まるガキどもは、すげー、かっちょえー、とか言っている。
「店の代表、一チームしか出られないんすか?」
「たぶん、大丈夫のはず。ただ推薦模型店みたいな形で、ウチの名前がくっついてゆくんだと思う。チーム何々、飯郷模型店推薦、みたいな」
 入口のサッシ窓にぺたぺたとポスターを貼った店長は、振り返って俺たちを見た。
「で、どうするの?チーム名」
「ソレスタルビーイング」
「駄目なんだよ」
「駄目です」
 店長と有田君の声が二つ重なる。作品系の頻出単語オンリーだと区別がつかなくなる。その場合は店の名前が後ろに強制的にくっつけられちゃうという。
「ソレスタルビーイング飯郷模型店」
「うう、なんか人類に平和が来たあと、暇になったライルがいそうだ」
「ライルの模型店。なんか、俺、その名前、激しく良い気がしてきた」
「お二人が良いなら、いいですよ」
 有田君がうなずく。
「駄目だ」
 俺は強くかぶりを振った。
「ロマンが無い」
「飯郷模型店にはロマンがあるだろう」
 珍しく店長が抗う。だが俺はかぶりを振る。
「必要なのは、俺の、俺たちのロマンです。俺たちのガンダムなんです」
「そうか。俺たちのガンダムか」
「そうだよ玉ちゃん。ゼロから始まる俺たちのガンダム」
「刹那から始まり聖永に至る」
 横目に見える店長は呆れ顔だ。けれど、有田君は違った。
「やりましょう。0からインフィニティへ」
「それだっ!0・F・infだ」
 刹那の名と同じだ。ゼロ・フロム・インフィニティ、
「決まった」
 おー、俺たちは盛り上がり、ガキどもが店内でぱちぱちと手を叩く。有田君は苦笑交じりの息をつく。文法的には全然違うんですが、と。それだと無限からのゼロなんですが、と。それでも有田君には、俺たちの気持ちが通じているらしい。見返してきて、笑みを見せる。
「だが、いいと思います。チーム・ゼロフィンフ」
「有田君、君とも気持ちが通じた気がしたよ」
「トランザムバーストだな」
「僕はちょっと自信が無いです」
 はっはっは、と店長が笑う。
「チーム戦用のガンプラだと、これまでとはちょっと仕様を変えないとね」
「お?商売人モード?売っちゃって売っちゃって。俺たち買っちゃうから」
「どんな戦術にするんです?」
 有田君が冷静に突っ込む。さすがは俺たちのチームのティエリア役だ。冷静だ。玉ちゃんが腕組みをする。
「一番信頼できるのが有田君だからな。有田君の狙撃能力を生かすチーム編成だろ」
「でも、それだと狙撃と相性の悪い敵には、手が出ません」
「狙撃に相性の悪い敵って?」
「高機動タイプ。重装甲タイプ」
「機動なら任せておけ」
 俺は胸を張る。アイハブコントロール。玉ちゃんは、ん~?それはどうかなあ、などと笑う。
「俺はセラヴィーで。これで重装甲タイプと、相馬ちゃんの高機動タイプがあるから、大抵の相手には対抗できるだろ」
「はい。それに、普通の敵なら、相馬さんが突っ込んで敵のフォーメーションを崩して、玉田さんが壁役、僕が一機削れば、残り二機の内の一機を数で囲める。勝算が立ちます」
「頭いいねえ、有田君」
「マジティエリア」
「普通じゃない敵には、玉田さんのセラヴィーのバーストモードで」
「お、メメントモリ戦だね」
「あれか。でもバトルだとトレミーが無いからな。GNアームズ、いっちゃう?」
「・・・・・・」
「むしろ俺らのジェットストリームアタックで」
「電池さん、今度は先頭で」
「・・・・・・」 
「電池言うな、電池」
「ん?どうしたの、有田君」
「・・・・・・」
 有田君は、動かずまっすぐに、店長の方を見ていた。
 正確には、店長の背後にある、さっき貼られたばかりのポスターの方だ。そこに影が差している。店長も振り返る。あ、と小さく声を上げる。
「やあ、久しぶり。元気だったかい」
 店長は言う。その先に立つ、男の影は、俺たちと、それから有田君とを見る。


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