人と戦うための槍を俺は知らない。
俺が知っているのは、大物を狩るための獣槍だけだ。だが獣槍は熊や虎をも倒してきた。
槍を構える。
俺の周りを、背後を、剣や棍棒が取り囲んでいる。囲みもまた、狩人の技だ。
「槍を捨てねば殺してでも取り押さえる」
女の声が言う。俺は応じる。
「やってみるがいい」
俺は低く息を吐く。獣息という。それは得物となる弱きものが、強きものへと向かって吹いて見せるものだ。死なば諸共の意を決するのは、人のみではない。獣もそのようにすることがある。囲みのざわめきには、後ろ足で砂を蹴って応じる。
正面に、女の気配をとらえる。獣槍のその先に、鉄の気配と女の気配がある。じわりと地を踏みしめ、女へと向き合う。獣息とともに、体に力を満ち渡らせる。女の吐息がわかる。獣にもわかるのだろうか。女のにおいで、女のことが俺にはわかる。女は汗ばみ、唇を引き結んで、さらににじりよる。恐れてはいないが、侮りがたいとも思っている。こいつは狩りを知っている。いや、こいつは己の手で獲物を捌かぬかもしれぬ。だとすれば、虎のような女だ。
俺を囲む他の男どもで、この女に伍するのは一人くらいだ。老練な犬狼のような男で、俺と女の両方を注意深く見据えているのが俺にはわかる。この群れは、若い女と、老練な男の二人が取り仕切っている。女が先に立ち、男が後ろに立つ。臆病だからじゃない。それが群れの二番の犬のあるところだ。
もし女が危うくなれば、男はどんなことをしてでも救いに切り込むだろう。いや、女が本当に危うくなる前に、男は切り込む。その男の気配は、囲いをぐるり回りこんで、俺の左背後にある。ちょうど肩越しに背中のほうだ。俺が槍を突き放てば、伸びてがら空きになる背中だ。
こころ決めた、そのときだった。
----
いかんね、どうにも荒くなっていて。
俺が知っているのは、大物を狩るための獣槍だけだ。だが獣槍は熊や虎をも倒してきた。
槍を構える。
俺の周りを、背後を、剣や棍棒が取り囲んでいる。囲みもまた、狩人の技だ。
「槍を捨てねば殺してでも取り押さえる」
女の声が言う。俺は応じる。
「やってみるがいい」
俺は低く息を吐く。獣息という。それは得物となる弱きものが、強きものへと向かって吹いて見せるものだ。死なば諸共の意を決するのは、人のみではない。獣もそのようにすることがある。囲みのざわめきには、後ろ足で砂を蹴って応じる。
正面に、女の気配をとらえる。獣槍のその先に、鉄の気配と女の気配がある。じわりと地を踏みしめ、女へと向き合う。獣息とともに、体に力を満ち渡らせる。女の吐息がわかる。獣にもわかるのだろうか。女のにおいで、女のことが俺にはわかる。女は汗ばみ、唇を引き結んで、さらににじりよる。恐れてはいないが、侮りがたいとも思っている。こいつは狩りを知っている。いや、こいつは己の手で獲物を捌かぬかもしれぬ。だとすれば、虎のような女だ。
俺を囲む他の男どもで、この女に伍するのは一人くらいだ。老練な犬狼のような男で、俺と女の両方を注意深く見据えているのが俺にはわかる。この群れは、若い女と、老練な男の二人が取り仕切っている。女が先に立ち、男が後ろに立つ。臆病だからじゃない。それが群れの二番の犬のあるところだ。
もし女が危うくなれば、男はどんなことをしてでも救いに切り込むだろう。いや、女が本当に危うくなる前に、男は切り込む。その男の気配は、囲いをぐるり回りこんで、俺の左背後にある。ちょうど肩越しに背中のほうだ。俺が槍を突き放てば、伸びてがら空きになる背中だ。
こころ決めた、そのときだった。
----
いかんね、どうにも荒くなっていて。