深夜でも番組内容自在に
中年女性、仕事・家事終えお買い物
テレビ通販最大手のジュピターショップチャンネル(東京・中央)が四十―五十代の女性をつかんで成長を続けている。二十四時間生放送のもと、リアルタイムで集まる注文状況に応じた機動的な番組編成と、彼女らのニーズにこたえた独自企画商品が強み。膨張するネット通販を横目に、「二十四時間無休のセレクトショップ」の地位を築きつつある。
「柔らかいイタリアンウール一〇〇%のプルオーバーが五千円以下ですよ!」。午前零時、その日一番のお勧め商品を紹介する生放送の人気番組「ショップスターバリュー」が始まった。この日の商品は価格四千九百三十五円のジップアップのプルオーバーセーター。番組開始から五十五分で四千着を販売、オフホワイト色の商品は全サイズが売り切れた。
同社は以前、週末を除く深夜は、録画した番組を放送していたが、昨年九月末からは二十四時間生放送を開始。働く女性や日中忙しい女性らにも臨場感あふれる番組を届けられるようになった。現在、一日平均三万五千件の電話件数のうち、約二割が午前零時から一時に集中する。注文の最大のピークだ。
同社の中心顧客は四十―五十代の中年女性で全体の五割を占める。仕事や家事に追われ、平日の昼間は百貨店などに買い物に行く時間が少ない人も多い。「就寝前にショップチャンネルで買い物を」というわけだ。
「いまネイビーが売れ切れました。ほかの色も残りわずかなのでお早めのご決断を」。出演者がスタジオにリアルタイムで伝わる注文状況を見ながら視聴者に訴える。平日の深夜や早朝でも注文件数を画面に表示し、視聴者の購買意欲を刺激。反応を見ながらその場で臨機応変に番組内容を変更する。この点が最大の強みだ。極端な例だが、ショップスターバリューの番組表には商品ジャンルさえ載せない。
売れ行きを見ながら紹介する商品や放送時間を決められる体制が整ったため、在庫管理も効率化。棚卸し資産回転率は十九・四回転と、カタログ通販大手に比べ約一・五倍の水準だ。
「これを着てゴルフに行くのが今から楽しみです」。実際に商品を注文した中年女性の電話の声をスタジオにつなげ出演者との会話を紹介する点も顧客の共感を呼ぶ。
注文の第二のピークは午前十時ごろと午後十時ごろ。この時間帯にゆとりのできる専業主婦たちを中心につかんでいる。CATV(ケーブルテレビ)やCSに自社チャンネルを持っており「洗剤一つでも一時間かけて説明できる」(高島純司マネージャー)のが特長だ。丁寧な商品説明が時間に余裕のある顧客らに受け、独自のヒット商品を生み出している。
従来型のテレビ通販企業であれば、在京キー局で三十分数百万円とも言われる番組枠を購入して放送しており、時間に限りがある。
ショップチャンネルは十月十日に乗馬のような形でエクササイズを楽しむ松下電器産業の「ジョーバ」を紹介。約一時間かけ、効果を示す科学的データやダイエット成功者の声を出演者二人が商品にまたがりながら説明した。十一万八千円で販売したところ、都市部の大手家電量販店でも一日数台売れれば御の字の商品だが、放送日一日で百七十台を売り切った。
深夜に働く女性向け、朝晩に比較的時間のある人向けといった具合に、対象顧客別に番組編成を工夫した点も奏功。二〇〇五年十二月期の売上高は前期比四〇%増の七百億円を見込む。
独自品5割、40―50代に焦点
・丈やウエスト大きめ
・くすんだ肌用化粧品
中年女性にターゲットを絞った商品政策も好調さの背景にある。マーチャンダイジングの佐藤多世子マネージャーは「総合スーパーのいわゆる中年向け商品では満足しない顧客に訴求する」と話す。
同社の主力商品は衣類、アクセサリーと化粧品。一週間に紹介する商品は約七百点だが、毎週約半数を入れ替える。約五割がメーカーと共同企画した独自商品だ。オリジナルブランドも七つ展開する。いわば二十四時間オープンのセレクトショップだ。
カラフルなデザインも多いが、国内大手メーカーの製品に比べてウエストや丈を数センチ大きめに作るなど、顧客の体形に合わせた配慮も行う。通常商品には無いLLサイズを特注することも多い。
化粧品も色素が沈殿してきた中年の肌に合うように工夫。色をメーカーと共同企画したメークセット「小林照子のポイントメイク」は、九月十九日の発売から一週間で二千を売り切った。
商品を紹介する際には「四十代からの」や「中年向け」などの言葉は一切使わない。だが、モデルは四十歳前後を中心にそろえ、顧客が商品を使った時をイメージしやすいように配慮する。
「せっかくおしゃれをしても出かける場所が無いのでは寂しい」。こうした顧客の声をきっかけに、旅行やチケットの取り扱いも開始。カナダのサーカス集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」による「アレグリア2」の十月二十五日の公演を独占販売、二千七百席の会場は満席になった。
「キャスト」と呼ばれる番組の出演者と一緒に行く海外旅行も好評。五月二十九日出発のフランス周遊七日間の旅は五十四万八千円と、大手旅行会社の高級ツアーの約二倍の価格だったが、参加者は二十人に上った。瓜生田光義最高経営責任者(CEO)は「モノにとどまらず、中年女性のあらゆるニーズを満たせる企業になりたい」という。
(長谷川由宇)
成長メディア活用課題
ネットや「ワンセグ」台頭
CATVの放送範囲の拡大に伴い、視聴可能世帯数も二〇〇五年六月末時点で千九百万世帯を突破。五年間で約二倍に増え、全国の総世帯数の四割に達する。同社の成長は視聴可能世帯数の拡大が引っ張ってきた面もあり、今後は世帯数の伸び率鈍化への対応が課題となる。
テレビ通販業界にも「通信と放送の融合」の波は及んでいる。来年四月には携帯電話向け地上デジタル放送「ワンセグ」が始まる。放送中の商品を携帯から簡単に買える時代が到来する。しかし、当初は地上波の番組と同じ内容の放送が予定され、ケーブルテレビとCSでしか放送していないショップチャンネルはワンセグの恩恵を受けられない。
地上波に番組を持ち、ワンセグを最大限活用できるジャパネットたかた(長崎県佐世保市)などに遅れまいと、昨年末からは同業他社に先駆けて携帯向けサイトで動画配信も開始。地上波とは異なる番組の放送が解禁される〇八年までのつなぎとする考えだ。
膨大な品ぞろえを誇る通販サイトの登場に伴い、紹介できる商品に限りがあるテレビ通販の限界を指摘する声もある。日本経済新聞社の〇四年度調査では三二・四%と急成長するネット通販とは対照的に、テレビ通販市場の成長率は七・二%にとどまった。
スティーブ・ホフマンCEOは「ネット上に商品があふれている時代だからこそ、我々のように商品を選んで消費者に提示するという役割が必要」と強調する。
瓜生田CEOも「これまでもこれからもテレビというメディアが当社の核をなす」と指摘。一方で、「改善の余地がある点はまだ多い。伸縮性のある素材をできるだけ使ってサイズ違いの返品率を下げるなど、地道な努力で成長を続けたい」という。
テレビ通販市場への参入は後発ながら、同じく二十四時間生放送に取り組むQVCジャパン(千葉市)が売上高四百四十九億円(〇四年十二月期)と猛追する。視聴可能世帯数や生放送時間の拡大が難しい中、高い成長率を維持するためには顧客の囲い込み、テレビ以外のメディアとの連携による販路の拡大が不可欠といえる。
中年女性、仕事・家事終えお買い物
テレビ通販最大手のジュピターショップチャンネル(東京・中央)が四十―五十代の女性をつかんで成長を続けている。二十四時間生放送のもと、リアルタイムで集まる注文状況に応じた機動的な番組編成と、彼女らのニーズにこたえた独自企画商品が強み。膨張するネット通販を横目に、「二十四時間無休のセレクトショップ」の地位を築きつつある。
「柔らかいイタリアンウール一〇〇%のプルオーバーが五千円以下ですよ!」。午前零時、その日一番のお勧め商品を紹介する生放送の人気番組「ショップスターバリュー」が始まった。この日の商品は価格四千九百三十五円のジップアップのプルオーバーセーター。番組開始から五十五分で四千着を販売、オフホワイト色の商品は全サイズが売り切れた。
同社は以前、週末を除く深夜は、録画した番組を放送していたが、昨年九月末からは二十四時間生放送を開始。働く女性や日中忙しい女性らにも臨場感あふれる番組を届けられるようになった。現在、一日平均三万五千件の電話件数のうち、約二割が午前零時から一時に集中する。注文の最大のピークだ。
同社の中心顧客は四十―五十代の中年女性で全体の五割を占める。仕事や家事に追われ、平日の昼間は百貨店などに買い物に行く時間が少ない人も多い。「就寝前にショップチャンネルで買い物を」というわけだ。
「いまネイビーが売れ切れました。ほかの色も残りわずかなのでお早めのご決断を」。出演者がスタジオにリアルタイムで伝わる注文状況を見ながら視聴者に訴える。平日の深夜や早朝でも注文件数を画面に表示し、視聴者の購買意欲を刺激。反応を見ながらその場で臨機応変に番組内容を変更する。この点が最大の強みだ。極端な例だが、ショップスターバリューの番組表には商品ジャンルさえ載せない。
売れ行きを見ながら紹介する商品や放送時間を決められる体制が整ったため、在庫管理も効率化。棚卸し資産回転率は十九・四回転と、カタログ通販大手に比べ約一・五倍の水準だ。
「これを着てゴルフに行くのが今から楽しみです」。実際に商品を注文した中年女性の電話の声をスタジオにつなげ出演者との会話を紹介する点も顧客の共感を呼ぶ。
注文の第二のピークは午前十時ごろと午後十時ごろ。この時間帯にゆとりのできる専業主婦たちを中心につかんでいる。CATV(ケーブルテレビ)やCSに自社チャンネルを持っており「洗剤一つでも一時間かけて説明できる」(高島純司マネージャー)のが特長だ。丁寧な商品説明が時間に余裕のある顧客らに受け、独自のヒット商品を生み出している。
従来型のテレビ通販企業であれば、在京キー局で三十分数百万円とも言われる番組枠を購入して放送しており、時間に限りがある。
ショップチャンネルは十月十日に乗馬のような形でエクササイズを楽しむ松下電器産業の「ジョーバ」を紹介。約一時間かけ、効果を示す科学的データやダイエット成功者の声を出演者二人が商品にまたがりながら説明した。十一万八千円で販売したところ、都市部の大手家電量販店でも一日数台売れれば御の字の商品だが、放送日一日で百七十台を売り切った。
深夜に働く女性向け、朝晩に比較的時間のある人向けといった具合に、対象顧客別に番組編成を工夫した点も奏功。二〇〇五年十二月期の売上高は前期比四〇%増の七百億円を見込む。
独自品5割、40―50代に焦点
・丈やウエスト大きめ
・くすんだ肌用化粧品
中年女性にターゲットを絞った商品政策も好調さの背景にある。マーチャンダイジングの佐藤多世子マネージャーは「総合スーパーのいわゆる中年向け商品では満足しない顧客に訴求する」と話す。
同社の主力商品は衣類、アクセサリーと化粧品。一週間に紹介する商品は約七百点だが、毎週約半数を入れ替える。約五割がメーカーと共同企画した独自商品だ。オリジナルブランドも七つ展開する。いわば二十四時間オープンのセレクトショップだ。
カラフルなデザインも多いが、国内大手メーカーの製品に比べてウエストや丈を数センチ大きめに作るなど、顧客の体形に合わせた配慮も行う。通常商品には無いLLサイズを特注することも多い。
化粧品も色素が沈殿してきた中年の肌に合うように工夫。色をメーカーと共同企画したメークセット「小林照子のポイントメイク」は、九月十九日の発売から一週間で二千を売り切った。
商品を紹介する際には「四十代からの」や「中年向け」などの言葉は一切使わない。だが、モデルは四十歳前後を中心にそろえ、顧客が商品を使った時をイメージしやすいように配慮する。
「せっかくおしゃれをしても出かける場所が無いのでは寂しい」。こうした顧客の声をきっかけに、旅行やチケットの取り扱いも開始。カナダのサーカス集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」による「アレグリア2」の十月二十五日の公演を独占販売、二千七百席の会場は満席になった。
「キャスト」と呼ばれる番組の出演者と一緒に行く海外旅行も好評。五月二十九日出発のフランス周遊七日間の旅は五十四万八千円と、大手旅行会社の高級ツアーの約二倍の価格だったが、参加者は二十人に上った。瓜生田光義最高経営責任者(CEO)は「モノにとどまらず、中年女性のあらゆるニーズを満たせる企業になりたい」という。
(長谷川由宇)
成長メディア活用課題
ネットや「ワンセグ」台頭
CATVの放送範囲の拡大に伴い、視聴可能世帯数も二〇〇五年六月末時点で千九百万世帯を突破。五年間で約二倍に増え、全国の総世帯数の四割に達する。同社の成長は視聴可能世帯数の拡大が引っ張ってきた面もあり、今後は世帯数の伸び率鈍化への対応が課題となる。
テレビ通販業界にも「通信と放送の融合」の波は及んでいる。来年四月には携帯電話向け地上デジタル放送「ワンセグ」が始まる。放送中の商品を携帯から簡単に買える時代が到来する。しかし、当初は地上波の番組と同じ内容の放送が予定され、ケーブルテレビとCSでしか放送していないショップチャンネルはワンセグの恩恵を受けられない。
地上波に番組を持ち、ワンセグを最大限活用できるジャパネットたかた(長崎県佐世保市)などに遅れまいと、昨年末からは同業他社に先駆けて携帯向けサイトで動画配信も開始。地上波とは異なる番組の放送が解禁される〇八年までのつなぎとする考えだ。
膨大な品ぞろえを誇る通販サイトの登場に伴い、紹介できる商品に限りがあるテレビ通販の限界を指摘する声もある。日本経済新聞社の〇四年度調査では三二・四%と急成長するネット通販とは対照的に、テレビ通販市場の成長率は七・二%にとどまった。
スティーブ・ホフマンCEOは「ネット上に商品があふれている時代だからこそ、我々のように商品を選んで消費者に提示するという役割が必要」と強調する。
瓜生田CEOも「これまでもこれからもテレビというメディアが当社の核をなす」と指摘。一方で、「改善の余地がある点はまだ多い。伸縮性のある素材をできるだけ使ってサイズ違いの返品率を下げるなど、地道な努力で成長を続けたい」という。
テレビ通販市場への参入は後発ながら、同じく二十四時間生放送に取り組むQVCジャパン(千葉市)が売上高四百四十九億円(〇四年十二月期)と猛追する。視聴可能世帯数や生放送時間の拡大が難しい中、高い成長率を維持するためには顧客の囲い込み、テレビ以外のメディアとの連携による販路の拡大が不可欠といえる。