広告内容、媒体別に差
口コミ効果最大限に
商品PRに消費者食傷気味
自然な情報交換促す
インターネットやテレビなど広告媒体ごとにあえて発信する情報に差をつけて、消費者間の口コミを意図的に誘発するマーケティングの新理論「3Dコミュニケーション」が注目を集めている。画一的な広告がはんらんし食傷気味になった消費者の関心を高めるのが狙いだ。口コミが有力な購買動機になりつつある潮流をとらえた戦略だ。
テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアを使った広告には、情報が幅広く消費者に行き渡る利点がある。だが、情報内容は画一的になり、消費者間の口コミによる情報交換は起こりにくい。
これに対し3Dコミュニケーションでは複数媒体を使い分け、伝える情報内容を変える。その結果、製品やサービスに関して異なる知識を持つ消費者間で、双方の知識を補完する口コミ情報の流れが自然に生まれる。3Dコミュニケーションを提唱するのは電通の秋山隆平インタラクティブ・コミュニケーション局長で、情報差からコミュニケーションが三次元になるという意味で「3D」と名付けた。
大塚製薬が食物繊維飲料「ファイブミニ」を若い世代に訴求するため、今年始めたキャンペーンは3Dコミュニケーションの典型例だ。テレビCMに先駆け、四月にはネット上にウェブサイトを開設した。このサイトはファイブミニのロゴなどは掲載されているものの、ファイブミニ自体の情報はほとんどない。それよりも、レタスとレモンを合成した架空の新野菜「レタモン」を紹介する内容だ。
レタモンのキャラクターやテーマソングも作り、煮ても焼いても食ベれない「食べにくさナンバーワン」の新野菜というジョークを普及させるのがサイトの主目的。その後、テレビCMを放映したが、CMはそんな新野菜を食べなくても「早い話が、これ一本」と女優がファイブミニを薦めるだけの内容だ。
一連の広告宣伝の狙いは、サイト閲覧者とCM視聴者の間の口コミ情報交換の促進だ。CMを見てレタモンを初めて知った消費者に、ネットで事前に詳しくレタモンの知識を得ていた消費者が「実はあれはね」と耳打ちするような情報の流れを生み出すことにある。
そうなれば、ファイブミニのテレビCMの意味がわかるようになる。レタモンに関する会話を媒介にして、消費者の間でファイブミニへの認知度が高まる仕掛けだ。
効果はすぐに出た。今年五月にファイブミニの販売本数が約五百万本と前年同月を九%上回った。販売本数が前年同月を上回ったのは今年に入って初めて。大塚製薬の井上将司プロダクトマーケティングマネージャーは「限られた予算で最大限の広告効果を生んだ」と得意げだ。
日産自動車も小型車「TIIDA」の宣伝に3Dマーケティングの手法を採用した。「小型なのに高級車という一見矛盾した概念を伝えるためには口コミ効果の活用が不可欠」(加治慶光マーケティング・ダイレクター)と判断したためだ。
まず、主婦と生活社(東京・中央)と組み、四月にファッション誌で「艶(あで)コン」という流行語を仕掛けた。「艶やかコンパクト」という意味だ。この段階ではTIIDAとの関連は何も知らせない。
次いで五月に「艶コン」を体現する車として、TIIDAのテレビCMを放映した。「艶コンって何」と最初は理解できないテレビ視聴者も、流行に敏感なファッション誌読者から「艶コン」の意味を聞く。その過程で口コミが活発化し、六月のTIIDA受注台数は社内目標値を一〇%程度上回った。
大塚製薬も日産も時間の短いテレビCMでは説明が難しい商品特性を、口コミを使い効果的に伝達した。電通の秋山局長は「現代は消費者が情報過多になりテレビCMだけで商品の印象を残すことは難しい」と説明する。
一方で差別化を図るために商品の高度化や複雑化は進む。そのギャップを口コミで埋め、商品を巧みに消費者全体に認知させるのが3Dコミュニケーションだ。
井上哲浩慶大教授
「多メディア活用 商品理解を促進」
マーケティング理論に詳しい井上哲浩慶応義塾大学教授は「消費者の商品理解を促進するには、特徴の異なる複数メディアを有機的に組み合わせることが有効」と指摘する。3Dコミュニケーションもこの一環で考案されたものだ。
商品の存在を知らせるには、不特定多数に一斉に情報を流せるテレビの訴求力が絶大だが、他商品との違いが明確にならないと購入の動機づけにはなりにくい。購買につなげるには「テレビ以外のメディアも活用し、消費者に商品特性を深く理解させることが不可欠」と井上教授は指摘する。
井上教授が二百七十人を対象に多メディア活用に関する実験を実施したところ、テレビ単体の情報提供では商品理解が促進する効果は得にくかった。しかし、ほかのメディアと組み合わせると結果は変化した。例えばテレビCMに加え新聞広告で商品の社会性を訴えると、テレビ単体より商品理解が促進された。
井上教授の実験では、被験者の評価で新聞はテレビに比べ知識量の多さをさす「テキスト性」が高かった。他方、インターネットは消費者の商品評価など多様な意見を参考にできる「マルチ性」が高く、店頭は売り手との対話のしやすさをさす「双方向性」が高いという結果が出た。井上教授は「組み合わせに唯一の解はない」という。口コミを媒介とする3Dコミュニケーションも、多メディア活用の一つのモデルでしかない。
口コミ効果最大限に
商品PRに消費者食傷気味
自然な情報交換促す
インターネットやテレビなど広告媒体ごとにあえて発信する情報に差をつけて、消費者間の口コミを意図的に誘発するマーケティングの新理論「3Dコミュニケーション」が注目を集めている。画一的な広告がはんらんし食傷気味になった消費者の関心を高めるのが狙いだ。口コミが有力な購買動機になりつつある潮流をとらえた戦略だ。
テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアを使った広告には、情報が幅広く消費者に行き渡る利点がある。だが、情報内容は画一的になり、消費者間の口コミによる情報交換は起こりにくい。
これに対し3Dコミュニケーションでは複数媒体を使い分け、伝える情報内容を変える。その結果、製品やサービスに関して異なる知識を持つ消費者間で、双方の知識を補完する口コミ情報の流れが自然に生まれる。3Dコミュニケーションを提唱するのは電通の秋山隆平インタラクティブ・コミュニケーション局長で、情報差からコミュニケーションが三次元になるという意味で「3D」と名付けた。
大塚製薬が食物繊維飲料「ファイブミニ」を若い世代に訴求するため、今年始めたキャンペーンは3Dコミュニケーションの典型例だ。テレビCMに先駆け、四月にはネット上にウェブサイトを開設した。このサイトはファイブミニのロゴなどは掲載されているものの、ファイブミニ自体の情報はほとんどない。それよりも、レタスとレモンを合成した架空の新野菜「レタモン」を紹介する内容だ。
レタモンのキャラクターやテーマソングも作り、煮ても焼いても食ベれない「食べにくさナンバーワン」の新野菜というジョークを普及させるのがサイトの主目的。その後、テレビCMを放映したが、CMはそんな新野菜を食べなくても「早い話が、これ一本」と女優がファイブミニを薦めるだけの内容だ。
一連の広告宣伝の狙いは、サイト閲覧者とCM視聴者の間の口コミ情報交換の促進だ。CMを見てレタモンを初めて知った消費者に、ネットで事前に詳しくレタモンの知識を得ていた消費者が「実はあれはね」と耳打ちするような情報の流れを生み出すことにある。
そうなれば、ファイブミニのテレビCMの意味がわかるようになる。レタモンに関する会話を媒介にして、消費者の間でファイブミニへの認知度が高まる仕掛けだ。
効果はすぐに出た。今年五月にファイブミニの販売本数が約五百万本と前年同月を九%上回った。販売本数が前年同月を上回ったのは今年に入って初めて。大塚製薬の井上将司プロダクトマーケティングマネージャーは「限られた予算で最大限の広告効果を生んだ」と得意げだ。
日産自動車も小型車「TIIDA」の宣伝に3Dマーケティングの手法を採用した。「小型なのに高級車という一見矛盾した概念を伝えるためには口コミ効果の活用が不可欠」(加治慶光マーケティング・ダイレクター)と判断したためだ。
まず、主婦と生活社(東京・中央)と組み、四月にファッション誌で「艶(あで)コン」という流行語を仕掛けた。「艶やかコンパクト」という意味だ。この段階ではTIIDAとの関連は何も知らせない。
次いで五月に「艶コン」を体現する車として、TIIDAのテレビCMを放映した。「艶コンって何」と最初は理解できないテレビ視聴者も、流行に敏感なファッション誌読者から「艶コン」の意味を聞く。その過程で口コミが活発化し、六月のTIIDA受注台数は社内目標値を一〇%程度上回った。
大塚製薬も日産も時間の短いテレビCMでは説明が難しい商品特性を、口コミを使い効果的に伝達した。電通の秋山局長は「現代は消費者が情報過多になりテレビCMだけで商品の印象を残すことは難しい」と説明する。
一方で差別化を図るために商品の高度化や複雑化は進む。そのギャップを口コミで埋め、商品を巧みに消費者全体に認知させるのが3Dコミュニケーションだ。
井上哲浩慶大教授
「多メディア活用 商品理解を促進」
マーケティング理論に詳しい井上哲浩慶応義塾大学教授は「消費者の商品理解を促進するには、特徴の異なる複数メディアを有機的に組み合わせることが有効」と指摘する。3Dコミュニケーションもこの一環で考案されたものだ。
商品の存在を知らせるには、不特定多数に一斉に情報を流せるテレビの訴求力が絶大だが、他商品との違いが明確にならないと購入の動機づけにはなりにくい。購買につなげるには「テレビ以外のメディアも活用し、消費者に商品特性を深く理解させることが不可欠」と井上教授は指摘する。
井上教授が二百七十人を対象に多メディア活用に関する実験を実施したところ、テレビ単体の情報提供では商品理解が促進する効果は得にくかった。しかし、ほかのメディアと組み合わせると結果は変化した。例えばテレビCMに加え新聞広告で商品の社会性を訴えると、テレビ単体より商品理解が促進された。
井上教授の実験では、被験者の評価で新聞はテレビに比べ知識量の多さをさす「テキスト性」が高かった。他方、インターネットは消費者の商品評価など多様な意見を参考にできる「マルチ性」が高く、店頭は売り手との対話のしやすさをさす「双方向性」が高いという結果が出た。井上教授は「組み合わせに唯一の解はない」という。口コミを媒介とする3Dコミュニケーションも、多メディア活用の一つのモデルでしかない。