がんばれナラの木

震災にあわれた東北地方の皆様を力づけたくて
The Oak Treeを地方ことばに訳すことを始めました

「ナラの木」絵本

2011年08月03日 | お話
ナラの木
鈴木直(すずき・なおし)(横浜市在住, 山形県天童市出身)
山形県天童版



ある見晴らすのええ山の上さ
どっすり天までとどくようなふといナラの木が一本
ずんとそびえておったど
そすて そのナラの木のまわりでは
いつも子どもやら どうぶつやら とりたちが
楽すく遊んでおったんだど


ある日のこと
きゅうに空がくもり出してよ、
ものすごい風が吹いてきたんだと
ひるも夜もよ ぶっとおす 吹いてよ
ナラの木のほとんどのはっぱを吹ごとばし、
枝をびゅんびゅんとゆすってよ
木の皮さも ひっぺがるほどだったど
子どもだづもどうぶつだつも とりだつも おそろすくって
みんなにげ出したんだど


「やーい、はやぐぶったおれろ!!」
風は歯をむきだすて おそいかかったど
なにくそ、おれは負けんもんか
でも ほんとうは こわくなってきた。
まわりの木はばたばたと みんな倒れてすまったからよ


ナラの木はついに皮をはがれて
まるはだかになってしまったど
それでも地面(づめん)さ すっかりと立ておった。
まわりのほかの木はみんなぶったおれてすまったど。
いくら吹いでも倒れないナラの木を見て
風はくたびれてすまった。
あきらめてすまった風はナラの木さ言(ゆ)ったんだど


「やーい、ナラの木よ
おまえはどんなになっても
まだどうして立っておられるんだ」

そこでナラの木はゆったんだど
「おまえはおれの枝を折ることも
ぜんぶの葉っぱを吹きとばすことも
枝をゆらすことも
おれのからだをぐうらぐらとゆらすこともできるんだべ、
でもよ、おれにはよ
大地さひろがる根っこがあるんだ。
生まれたときから 少すずつ 強くなってきたんだ。
おまえはこの根っこさは ぜったいさわらんない。
わかんねえかよー。わかるべちゃ


根っこはよー おれの一番(いつばん)深い深い大事なとこなんだ。
実はよー 今日までおれは自分(ずぶん)のことが
よくわかっていなかったんだ。
自分(ずぶん)自身(ずすん)がいったいどのくらい
ものごとさ がまんできるんだべがをよ。
それがよ、ありがたいことに
今日わかったのよ。
自分(ずぶん)が知(す)っていた自分(ずぶん)よりも
おれはずっと強くなったんだとゆうことをよ」


そしてあのすごかった風も
今は去ってナラの木のまわりには村の子ども達(だつ)がまた集まり
どうぶつ達(だつ)や小鳥達(だつ)も集まり
楽すく過ごすようになったんだとさ


強いナラの木

2011年08月03日 | お話
強いナラの木
高槻成紀 作

「ナラの木」にインスピレーションを得て

ナラの木が深い山の斜面に一本立っていました。
そのナラの木はとても丈夫で、自信に満ちていました。
強い風が吹くと横倒しになるほど曲がりましたが、それでも大丈夫でした。



「風なんか平気さ。おれは強いんだ!」
そうして少しずつ背が高くなり、幹も太くなっていきました。このナラの木のことをだれともなく「ナラおやじ」と呼ぶようになりました。

 ある日、そのナラおやじのところにシカを狩ってくらすドウゴという名前の狩人が来ました。気難しい男で、ドウゴが笑うのを見た人はだれもいませんでした。
シカを追って疲れたのか、ナラおやじのもとに座って眠りこんでしまいました。



「疲れたのかい?」
ナラおやじは尋ねました。
「ちょっとな。俺も若いころはいくら山を走り回っても、ちっとも疲れなかったもんだが、このごろへとへとになることがあるんだ。歳をとったみたいだ。」
「どうしてシカ撃ちなんかするんだ。町で働いたほうがお金がかせげるだろう。」
「おれは人が嫌いなんだ。とくに人に命令されるのが大嫌いなんだ。」
吐き捨てるように言いました。

 ドウゴにはやさしい奥さんと、ゲンという息子がいました。ゲンはお母さんに似てやさしい心をもつ少年でした。
「おい、ゲン、お前も鉄砲が使えるんだから、シカ撃ちについてこい」
ドウゴがさそいますが、ゲンは動物を殺すのが好きでないので、
「とうさん、今日はやめとく」
とことわりました。
 ゲンはどちらかというと植物や昆虫が好きで、山で小さな木や、ドングリなどをみつけると家にもちかえって庭で育てるのでした。木が少しずつ大きくなるのを見るのが好きでした。



 それから長い時間がたって、ドウゴは72歳で静かに死にました。ゲンも立派な狩人になって山でシカをとって暮らすようになりましたが、生活は貧しいものでした。ただゲンは貧しくても山を歩いて生きるのが好きでした。夏の暑い日に汗をかいて山道を歩き、沢におりて水で顔を洗うのはじつに気持ちのいいものでした。



 秋になるとキノコやさまざまの木の実がなり、それを持ち帰るとニキというかわいい奥さんがよろこんでくれました。



 冬は雪がつもり、山を歩くのはそれはたいへんでしたが、でも狩人にとってはいちばんよい季節です。というのは雪の上には動物の足跡が残るからです。
 狩人は雪の上に残った足跡から、どの動物が何をしていたかを読み取ることができるのです。ウサギは後ろ足が大きいので、足跡ですぐわかります。シカは細い足をしているので、雪の中に深く沈みます。これを追いかけると沢で動けなくなっているシカを見つけることができます。そういうときは確実にシカがとれます。ゲンは少しかわいそうだと思いながらも、狩人ですから生活のためにシカを撃ちました。こうして冬のあいだに動物をとって、それを売って生活のかてにしました。



 でも、なんといってもすばらしいのは春です。雪がとけると、まっくろな地面から植物の芽がでてくるし、木々の枝先からも葉が開きます。山全体が命のすばらしさを歌うようです。ゲンはこういう山のようすを見るのがなによりも好きでした。



 ゲンはドウゴと違って人が嫌いではありませんでした。でもおとなしいので人と話をするのはにがてで、山にいるほうがほっとするのでした。
 山で虫をみているといそがしそうに葉を食べています。
「葉がたくさんあるからこういう虫も生きられるんだ」
 花にハチがきて忙しそうに蜜を吸っています。
「ハチは花があるから蜜を吸えるんだ」
 よく見るとハチの脚に花粉がたくさんついています。
「ハチが花粉を運ぶから花は種を作れるんだ」
 ゲンは生き物のつながりを考えることが好きで、立場が違えばどの生き物にもいいことがあるのだということに気づきました。
 山に行くと、よくリスを見ます。リスは秋になると忙しそうにナラの木のドングリを持って行きます。
「リスはドングリがあるからお腹いっぱいになるまで食べられるんだ」
「でもリスはドングリを運んでやるから、ナラの木が別の場所で生えるのを手伝ってもいるんだ」

 ある日、ゲンがドウゴが眠りこけたのと同じあのナラおやじの根もとに座っていました。そしてドウゴと同じように眠ってしまいました。ナラおやじは言いました。
「俺はお前のおやじと仲がよかった。お前のおやじは強くて誰の世話にもならなかったからな」
 ゲンは黙って聞いていました。
「俺も人の世話になるのは嫌いよ。俺はこうして一人で生きているんだ。風だって、嵐だって負けやしない。絶対倒れない」
 そして続けました。
「だれにも世話にならないし、だれの世話もしない。山の中ではみんな一人で生きるものなんだ」
「そうかなあ」
 ずっとだまっていたゲンがつぶやきました。
「あんたはずいぶん人助けをしていると思うけど」
「なんだって?俺はそんなことした覚えはないぞ」
「だって小鳥に枝を貸してとまらせていたじゃないか」
「なんだそんなことか。そのくらい損にはならないからな。でも得にもなりゃしない」
「そうかなあ」
 ゲンは言いました。
「春になって葉が伸びると芋虫がたくさん葉を食べるだろう」
「そう、俺のいちばん嫌いなことさ」
「その芋虫を鳥が食べてくれてるんだよ」
「そういえばそうかもしれないな」
「その鳥は巣に芋虫をもちかえって雛に食べさせるから、あんたは鳥の雛を育てていることになる。」
「そういうもんかなあ」
「そうだろう。あんたは一人で生きている、だれの役にも立ちたくないというけど、そんなことはない」
「そうかもしれんな」
「ほかにもあるよ」
「そうか?」
「うん、秋になってドングリがなると、カケスやリスがたくさんやってくるだろう」
「ああ、うるさくてかなわん」
「クマだって来るだろ?」
「ああときどき」
「山の動物たちは冬越しがたいへんだから、秋にたくさん食べるんだ」
「ドングリはたくさんできるから、俺もそのくらいの役に立つのはいいと思っている。でもあいつらが俺の役に立つわけじゃあない」
「そんなことはない」
「というと?」
「うん、カケスやリスはドングリを運んであんたの子供が違う場所で芽を出すのを手伝ってくれてるんだ」
「そうなのかい?」
「そうさ、あんたはふたことめには一人で生きてるっていうけど、実はたくさんの動物にも植物にもとても役に立っているし、そういう仲間に助けられてもいるんだ」
「そんなふうには考えたことなかったなあ」
「考えてなくてもそうしてたのさ」
「お前はおもしろい奴だ。ドウゴとも気があってたけど、あいつとは全然違う話をしてた。俺たちは一人なんだ。人を助けるなんて馬鹿なことだってな。」
 ゲンはだまってほほえんでいました。
「俺はこれからも強く生きるけど、強いという意味を少し考えてみることにしたよ」
 ナラおやじが話すのを聞きながら、ゲンはゆっくりと山を下りていきました。



イラストは浅野文彦さんのご協力をいただきました。写真は高槻です。

大きなナラの木

2011年08月03日 | お話
大きなナラの木
高槻成紀 2011.4.18 
立木浩子さんによる方言指導

「ナラの木」にインスピレーションを得て

とても明るい光が降り注いでいました。
そこにはドングリがたくさん落ちていました。
そのうちのひとつのドングリが言いました、
「ああ、いい気持ち。君は?」
ととなりのドングリに聞きました。
「うん、私もとってもいい気持ち」
そこはなだらかな山の中で
ドングリたちの上には
それはそれは大きなナラの木がありました。
その木は傘のように枝を拡げ
その枝には小鳥が来ることもあれば
リスがぴょんぴょんと跳ねて
となりの枝に飛び移ることもありました。



ある秋の日、夏から少しずつ育っていたドングリが実りました。
リスは忙しそうに木の下に落ちたドングリを拾って
口にくわえてはぴょんぴょんと走って
土の中に埋めました。
そのとき、珍しいお客さんがありました。
大きなクマがドングリを食べに来たのです。
その秋は山にドングリがあまり実らなかったのです。
それでお腹がぺこぺこになったクマは
この大きなナラの木まで歩いて来たのです。
クマの食べること 食べること
ドングリをムシャムシャと食べ、
それでもまだやめないで食べ続けました。
たくさんのドングリのおかげで おなかいっぱいになったクマは
岩のあいだで眠り込んでしまいました。
その眠りは次の春まで続いたのでした。



このナラの木を昔から知っているゲンじいさんが言いました。
「おらが若(わげ)ぇ頃は こったな でげぇ木ぃ いっぺぇあったったじゃ。
んだども、だんだんと木ぃ切るようになってぇ、
山さ木ぃねぐなってしまったもや」
ゲンじいさんは山を眺めながら続けました。
「んだども、太(ふって)ぇ木ぃだけは切らねがった。
神様みでなもんだがらな。
んだがら、なんぼ木ぃねぐなったったって、
こったな木ぃ切ってぇなんねぇじゃ」
ゲンじいさんの じいさんの、またそのじいさんも、
このナラの木を知っていたのです。
そのじいさんの孫の、その孫が生まれるずーっと長いあいだ、
ナラの木は、暑い夏の日も、秋の嵐も、長くて寒い冬ものりきって、
しっかりと大地に立ってドングリを実らせてきました。

ドングリが聞きました。
「ナラの木さん、嵐ってこわいの?」
「んだなぁ、怖(こえ)ぇってば怖んだども、大丈夫だ。
おらだづナラの木ぃは お前(め)だづが思(おべ)でるよりも
ずっと強(つえ)ぇがら」

明るい日差しの中で、小さなドングリたちはそのナラの木と楽しげにお話を続けるのでした。