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放射線治療と医学物理

放射線治療、特に医学物理に関する個人的記録

術中照射アプリケータ装着時のエネルギースペクトルの変化

2008年08月04日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第32号

Peter Bjork, et al.: Comparative dosimetry of diode and diamond detectors in electron beams for intraoperative radiation therapy, Med Phys, 27, 2000

 シリコンダイオードおよびダイアモンド線量計を用いて、術中照射アプリケータ装着時の線量測定の特徴をまとめた論文です。水の実効原子番号は1-20MeVのエネルギー領域においておよそ3.3であり、ダイアモンド線量計の6、シリコンの14は水に比較的近いといえます。シリコンダイオードを用いた線量計は、有効体積が小さく空間分解能が高いため、一般的に電子線の比較測定に良く用いられており、また電子線測定におけるreferenceとしてダイアモンド線量計も有用視されています。
 水の吸収線量=検出器の実効点における吸収線量×平均制限質量衝突阻止能比(水と検出器)×擾乱係数 で表示されます。この擾乱は検出器の材質、容量、実効原子番号、密度、電子のエネルギー、測定深に依存します。ゆえに一般的に測定時に電子線のエネルギースペクトルや角度分布が認識されている必要がありますが、モンテカルロ法を除いてその状況を認識するのは不可能です。
 一方で術中照射装置を装着した際には通常のアプリケータとは異なり、低エネルギーの電子線が多く含まれ、結果的にその平均的な散乱角は大きく、エネルギースペクトルは変化します。この変化はビルドアップ領域に大きく現れ、術中照射用アプリケータを装着した際にはビルドアップが小さくなります。これらのことから、衝突阻止能比や補正パラメータが測定の環境に依存せずに一定であり、読値が直接水の吸収線量を反映していることが望まれます。
 本論分では、0-20MeVの電子エネルギーにおける水と炭素および水とシリコンの質量衝突阻止能比が示されています。ここでは、1-20MeVの領域において炭素/水はほぼ一定であり、シリコン/水は5MeV以下のエネルギーを除いてほぼ一定の結果が示されています。
 
 ここではp-typeシリコンダイオード、NACP平行平板型電離箱、ダイアモンド検出器が使用され、下記について調べています。
1. シリコンダイオードおよびダイアモンド線量計の方向依存性
2. シリコンダイオードおよびダイアモンド線量計の線量率依存性(NACPで規定)
3. 上記3種類の線量計におけるPDD, profile

 結果は下記です。
1. 方向依存性はシリコンダイオードに比較してダイアモンドが低く、6MeVの電子線において±140度の領域の方向依存性は96%-103%(ダイアモンド)、92-102%(シリコンダイオード)と報告されており、これはエネルギーが高くなるに従い小さくなる傾向にある(20MeV: 97%-101%(ダイアモンド)、96-100%(シリコンダイオード))。術中照射用アプリケータを装着した際の電子線エネルギーは浅い領域において、より低いエネルギーの電子を多く含んでいる。これらの領域では方向依存性が小さいことが特に望まれることから方向依存性は重要である。しかし、結果的には両方の線量計において小さな値であることが確認された。
2. NACPの再結合補正は2点電圧法で確認され、全てのエネルギー、高線量率において0.4%以下であることが確認された。そのNACPの電離値を基準とした、シリコンダイオードおよびダイアモンド線量計の線量率依存性は、ダイアモンド線量計において線量率が高くなるに従い感度が減少し、シリコンダイオードは線量率の増加に伴いわずかに増加していることが確認された(20MeVで最大1%)。(PDDやprofileの測定ではダイアモンドによるこの値は補正)
3. 3種類の測定器により比較された6MeVのPDDは、線量の低下領域において±1%、0.5mm以上の相違が生じている。これは20MeVになると±1%、0.5mm以内の相違となっている。これは水と炭素および水とシリコンの質量衝突阻止能比が低いエネルギーにおいて乖離していることに起因にしている。また、水の表面においては3種類の線量計で値が異なっているが、これは空間分解能の違いに起因すると記載されている。しかし吸収線量の比較測定において質量衝突阻止能比の違いによる影響は小さいと筆者は記している。

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 術中照射のアプリケータを使用する際、電子線のスペクトルの変化を理解することが重要である。この変化が線量計に及ぼす影響を考慮し、測定結果を理解することは重要と思われる。

詳細は論文で。