放射線治療と医学物理

放射線治療、特に医学物理に関する個人的記録

radiochromic filmを用いた皮膚線量の評価

2008年11月13日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第49号

S Devic, et al.: Accurate skin dose measurements using radiochromic film in clinical applications, Med Phys, 33, 2006

皮膚基底層の深さは目の周囲や足底など部位によって変化する。本来は放射線腫瘍医の関心のある深さの線量評価をすべきであるが、ICRPおよびICRUは実際の線量評価点として70μmの深さを推奨している。実際の皮膚線量測定の際には実効測定点が水等価にて数μmから数mmの線量計が用いられる。これらの領域は荷電粒子平衡が成り立たない領域であるため、測定機器の選択は重要である。

本報告の目的は、荷電粒子平衡が成り立たないビルドアップ領域の最初の数mm以内の線量測定の正確性を調査することである(6MV)。ここではAttix平行平板型電離箱、自作外装線量計、radiochromic film(HD-810、EBT、HS、XR-T)、TLDにて皮膚線量を測定し、その結果をモンテカルロ法と比較している。
ビルドアップ領域に加え、ビルドダウン領域の線量についてradiochromic film EBTにてPDDを測定し、その精度を調査している。

ビルドアップ領域の測定方法
 測定器はSolid water phantom(1.04g/cm^3)の表面に設置。SSD=100cm。referenceとして1.5cm深も測定。LINACはVarian 2300 C/D。

radiochromic filmを含め、論文にて用いられた線量計の実効測定点(radiochromic film はsensitivity layerの中間の厚さ)、および最大深および実効測定点における水と検出器の制限衝突阻止能比は以下のように記されている。
HD-810: 0.0004g/cm^2, 4μm, 0.9996
Attix chamber: 0.0048g/cm^2, 48μm, 1.012
Extrapolation chamber: 0.0069g/cm^2, 60μm, 1.010
HS: 0.0153g/cm^2, 153μm, 0.9993
EBT: 0.0153g/cm^2, 153μm, 0.9997
XR-T: 0.0157g/cm^2, 157μm, 0.9997
TLD-100 (0.15mm): 0.0185g/cm^2, 185μm, 1.002
TLD-100 (0.4mm): 0.0496g/cm^2, 496μm, 1.001

ビルドダウン領域の測定方法
 EBTフィルム(3cm x 23cm)をSolid waterではさみ、6Gy(最大深)照射。照射野10x10cm^2。ガントリー角度90度。PDDを測定。

 照射野の大きさとビルドアップ領域、ビルドダウン領域のPDDの関係
一辺5, 10, 15, 20, 25, 30cmの正方形照射野を使用して、上記影響を調査。

結果
1. ビルドアップ領域における各種線量計の実効測定点におけるPDD値と70μm(皮膚)でのPDDおよび補正係数との関係は以下である。
Skin. PDD 17.0%
Attix. 16.0%, 1.062
EBT. 19.9%, 0.854
HS. 20.0%, 0.850
XR-T. 20.3%, 0.837
TLD(0.15). 21%, 0.810
TLD(0.4). 29, 0.586

2. ビルドダウン領域における各種線量計の実効測定点におけるPDD値と70μm(皮膚)でのPDDおよび補正係数との関係は以下である。
Skin. PDD 32.66%
EBT. 32.75%, 0.997
HS. 32.75%, 0.997
XR-T. 32.76%, 0.997

3. 照射野を変更した場合における、ビルドアップおよびダウン領域におけるEBTの実効測定点におけるPDD値と70μm(皮膚)でのPDDおよび補正係数との関係は以下である。
Entrance skin dose correction
5x5. 0.804, 10x10, 0.854, 15x15, 0.908, 20x20, 0.910, 25x25, 0.925, 30x30, 0.928
Exit skin dose correction
5x5. 0.998, 10x10, 0.997, 15x15, 0.997, 20x20, 0.998, 25x25, 0.997, 30x30, 0.998

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本報告ではガフクロミックフィルム4種類(HD-810、XR-T、HS、EBT)の構造がFig,1に詳しく記載されている。これを確認するだけでも非常に参考になると思われる。またビルドアップ領域では比較的大きな補正係数が必要であるのに対し、ビルドダウン領域ではほぼ1.000であることに注目したい。

詳細は論文で。



水、複雑な照射野、不均質時のAAAの線量評価

2008年10月15日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第43号

Christopher M. Bragg, et al.: Dosimetric verification of the anisotropic analytical algoroithm for radiotherapy treatment planning, Radiother Oncol, 81, 2006

放射線治療における線量投与は高精度であることが望まれ、そのためにはsimulationからplanning、照射までの不確かさを可能な限り低減する必要がある。ゆえに各々のプロセスにおける潜在的なエラーの理解と知識は不可欠である。
治療線量が増加し、複雑性が増すなかで線量計算アルゴリズムの正確性は重要課題である。
歴史的にみても不均一物質の線量計算は電子の輸送コードの困難さゆえに問題視されてきた。

Eclipseに搭載されたAAAは比較的最近開発された治療計算アルゴリズムである。
本報告ではこのアルゴリズムのパフォーマンスを評価するために、水中における簡単なビームジオメトリ、複雑な状況において測定を行っている。

装置: LINAC. Varian 2100C/D, 6 / 10MV
Eclipse (version 7.5.18 / 2.5mm grid)
比較アルゴリズム. PBC-eTAR

Simple geometryとして行っているのは、正方形、矩形、MLC作成照射野、SSD変更した場合、EDWである。
ここでPDDおよびOCRを測定している。

Complex geometryとして行っているのは、asymmetric field (Half field等)、斜入射、後方散乱体の無い場合、接線照射である。

最後に不均質体における評価である。不均質においてはコルクやstyrofoam、骨等価物質にて構成し、PDDを評価している。また、胸部ファントムを用いて、肺や骨髄における線量評価も行っている。

結果は以下である。
1. 正方形および矩形照射野の計算線量に対するPDD測定値の乖離は1.5%以内である(ビルドアップ以下、6MV, 10MV)
2. 正方形照射野のビルドアップ領域、PDDにおいてDistance to agreementは6MVで1.1mm, 10MVで1.6mmであった。同様に矩形照射野であれば2mm以内であった。
3. 検討した全ての照射野サイズにおいて、平均的な乖離はビルドアップ以下において0.2%±0.2%(1SD)、ビルドアップ領域においては0.2±2.1%(平均的なdistance to agreementは0.3±0.7mm)
4. 低線量(CAXの7%以下)領域におけるOCRの最大乖離は2%、30x30cm,10MVの照射野においては約2.5%過少評価(AAAの結果は、照射野外において過少評価の傾向)
5. 高線量(CAXの90%以上)領域におけるOCRの相違は2%より良い。最大の相違は10MV, 40cm x 40cmの照射野において6.7%の過少評価。
6. SSDを90cmや120cmに変更しても差異はない
7. MLC作成照射野においても差異は変わらない
8. Enhanced dynamic wedgeは大きな乖離が存在する(wedgeの高線量部分)
9. Half beamのOCRにおいて、計算と測定の乖離は大部分で2%以内か、2mm以内である。
10. Styrofoam(非常に低吸収)をSolid waterにて挟んだジオメトリにおいては、PBC-eTARよりもAAAがPDDの予想は良い
11. ランドファントムの肺の線量はPBCよりもAAAが正確

線量計算アルゴリズムについては多々報告されており、それらの結果からある程度のcriteriaのコンセンサスが得られると記載されている。そこでは、
・ Low dose gradient regionにおいて2-3%
・ High dose gradient regionにおいて2-3mm
と記されている。
UKにおけるIPEM report 81では
理想として、2%-2mm
受け入れられるものとして、3%-3mm
Van Dykは複雑な状況下においては、単純なビームかつ不均質物質の状況として3%
不均質物質を含んだ複雑な状況として4%-4mmを提案している。

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多くの論文がAAAを支持しているが、各施設で使用前の検証は不可欠である。特徴を得るうえでも論文を参考としたい。

詳細は論文で。

AAAの検証(TG53勧告を用いて)

2008年09月26日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第42号

Karen Breitman, et al.: Experimental validation of the Eclipse AAA algorithm, Am Coll Med Phys, 8, 2007

Varian Medical Systemsから販売されているEclipseに搭載されているアルゴリズムAAAの包括的な評価です。ここでは工場にてコミッショニングされたゴールデンデータを用いて、測定による検証を2施設で行っています。水における基本的なデータ測定からランドファントムによる不均質補正の効果まで幅広く行っており、AAAに限らずTPSの検証の際には役立つ論文です。ここではCriteriaの設定にはAAPM TG53のレポートを使用しています。

装置: Varian Clinac 21 EX. 6MV / 15MV. 120対MLC

検討している内容は以下の3点です。
1. 比較測定
2. 絶対測定
3. ランドファントムを用いた測定

比較測定ではOpen field、拡張SSD下、矩形照射、ウェッジ使用下、コリメータ回転下、マントル照射、斜入、MLC使用下、そして種々の照射野に対してクロスライン、インライン方向にプロファイルを測定しています。(CC13)

絶対測定ではCC13を用いてTotal scatter factorを測定し、AAAとの比較を行っています。
ランドファントムを用いた検討では、ピンポイントチェンバーおよびガラス線量計を使用してファントム内の測定を行っています。

結果はoverall resultsとして表記されており、全てのテストを通過したケース数を全テストケース数で除して評価しており、AAAにおいて良好なモデリングの結果が報告されています。

しかし、絶対測定の項目において、ウェッジ使用下ではエラーが比較的大きく、2%程度のエラーが出ています。この原因として筆者はwedge自身の影響や電離箱の位置精度、そしてエネルギーを変えた際の加速器の焦点の位置も悪化の原因であろうと推測しています。

また、ランドファントムにおけるデータではTG53のCriteriaの7%以下には全て入っているものの、AAAよりもPinacleのCCCアルゴリズムの方が不均質により対応していると報告しています。

最後にVarianから提供されるゴールデンデータはinner beam部分においてTG53のCriteriaには準拠しない可能性があり、測定による検証が重要であると記しています。

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本報告は16枚におよび論文として読むには少々長い。しかし、包括的に記載されており、Criteriaも明らかであるので検証の際には参考になると思われる。

詳細は論文で。










治療計画における電子輸送コードの影響

2008年09月26日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第41号

Mark R Arnfield, et al.: The impact of electron transport on the accuracy of computed dose, Med Phys, 27, 2000

放射線治療領域における空気、肺、骨や他の高い密度を有する不均質領域における線量評価はいまだ議論が続き、線量分布の正確性向上のための努力が続いている。このアルゴリズムの正確性は患者内の不均一性、幾何学的分布、ビームエネルギー、照射野等に影響し、不正確の主な要因は不均一物質の近く及び不均質内の側方電子輸送を適切に扱えるかどうかである。

現在導入されているSuperpositionモデルでは巨視的な電子輸送についてのみ考慮しているにすぎず、電子の輸送は直線的であるという暗黙の想定が行われている。ゆえに正確性においてまだ十分ではなく、異なった密度間においてはエラーを起こす。

本研究の目的は空気や肺等価材質を含んだ自作ファントムにおいてBatho法、Collapsed cone convolution(CCC)法、モンテカルロ法の計算精度を比較することである。

方法
LINAC: 6 and 18MV photon. Varian C12100加速器
Phantom: 1. 水等価材質3cm + 空気2cm + 水等価材質10cm
Phantom: 2. 水等価材質3cm + 肺等価材質8cm + 水等価材質10cm
Detector: 平行平板型電離箱(PTW Markus chamber), TLD(TLD-700), フィルム(Kodac XV-2)
測定によって得られる値は各々のポイントで複数取得し、かつ平均。
測定は異なった日に繰り返し、統計的不確かさは±1%以内(1SD)。
ターゲットに近い面の境界の測定にはMarkus電離箱は逆向けに設置して測定。
(事前にこの逆向け配置の正確性は調査済み。6MV. 2%,18MV. 1%)
Markus電離箱による空気との境界値での測定は側壁からの2次電子の散乱によりエラーが発生するため、その点での検討を行うためにTLDを使用。

測定は水等価材質3cm内、空気と水等価材質との境界(上下)、水等価材質10cm内で行われているが、特に論文において重きをおいているのは境界領域。
結果
Phantom.1(空気)の場合、使用エネルギー6MV, 照射野4 x 4
境界値の値(上: buid-down). TLD 72.5cGy, Ion 79.0cGy, モンテカルロ 72.3cGy, CCC 86.7cGy, Batho 86.5cGy
境界値の値(下: re-buildup). TLD 51.4cGy, Ion 60.3cGy, モンテカルロ 51.0cGy, CCC 68.0cGy, Batho 78.2cGy
電離箱の値はTLDに比較して大きく、またモンテカルロの値はBathoやCCCに比較して随分と小さい。Bathoはほぼ不均質に関して対応できていない。
境界値(下)におけるOCRはモンテカルロとフィルムがほぼ同等の値を示している。CCCはBatho法に比較するとまだ不均質を考慮しているといえるが、それでもかなり不正確である。
TLDに比較してMarkus電離箱の境界値の値は、上で8%、下で15%高い。

Phantom.2(肺等価)の場合、使用エネルギー6MV, 照射野 4 x 4および10 x10
4 x 4 境界値の値(下: re-buildup). TLD 63.0cGy, Ion 63.5cGy, モンテカルロ 63.6cGy, CCC 63.6cGy, Batho 64.1cGy
10 x 10 境界値の値(下: re-buildup). TLD 72.8cGy, Ion 73.5cGy, モンテカルロ 72.8cGy, CCC 73.1cGy, Batho 72.2cGy
CCCとモンテカルロ法に数%の誤差はあるもの良好な結果を示している。Bathoも空気に比較すると測定データに近い。

Phantom.2(肺等価)の場合、使用エネルギー18MV, 照射野 4 x 4
4 x 4 境界値の値(下: re-buildup). TLD 61.0cGy, Ion 63.1cGy, モンテカルロ 62.4cGy, CCC 63.0cGy, Batho 70.6cGy
10 x 10 境界値の値(下: re-buildup). TLD 79.6cGy, Ion 82.6cGy, モンテカルロ 81.5cGy, CCC 83.3cGy, Batho 79.4cGy
高エネルギーかつ小照射野であり、最も荷電粒子平衡が成り立たない状況。
Bathoは不均質に関してまったく対応できていない。
CCCは水等価-肺等価ファントムの境界において過大評価を示し、肺において深くなればなるほど正確となるものの誤差は大きい。
モンテカルロ法は肺野において電子の飛程が伸びることにも対応している。また、そのモンテカルロの結果はTLDの結果とよく一致している。

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本報告では6MV以上のエネルギーにおいてre-buildupは問題となると記載がある。臨床上空気を含む領域でのre-buildupを考慮しなくてはならない状況は少なくない。その際の参考としたい。

詳細は論文で。

モンテカルロ/AAA/PBC-MBPLの比較(Elekta)

2008年09月21日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第40号

E Sterpin, et al.: Monte Carlo evaluation of the AAA treatment planning algorithm in a heterogeneous multiplayer phantom and IMRT clinical treatments for an Elekta SL25 linear accelerqator, Med Phys, 34, 2007

IMRTは3D CRTに比べターゲットへの線量集中性および正常組織への線量低下において非常に優れている。しかし、小照射野や空気のように荷電粒子平衡が成り立たない領域においては、特に優れた線量計算アルゴリズムが必要となる。

従来から使用されてきたアルゴリズムは上記の荷電粒子平衡の成立を前提に計算が行われており、大きなエラーが確認されている。
(本論文ではEclipseのsingle pencil beam convolutoin with modified Batho power lawを指している)
それに対し、AAAは無限かつ均等な物質との光子の相互作用(エネルギー付与)についての関数をモンテカルロ法にて作成して計算に用いており、不均質物質や小照射野においても正確な計算が可能であると報告されている。
一方でモンテカルロ計算はLINACを使用した放射線の挙動を計算することに対して最も有効な手段とされている。

よって本論文ではAAAとPBC-modified batho power law、モンテカルロ計算(BEAMnrc, EGSnrc)との比較である。Varian LINACによるAAAの妥当性の確認は多々報告されているが、ここではElekta LINACでのモデリングについて評価している。

LINAC: Elekta SL25, 6MV (and 25MV), MLC 1cm, backscatter plate有り。
Monte Carlo: BEAMnrc / EGSnrc

測定に用いられた環境は以下である。
1. 水ファントムによるPDD, OCR, Output
 CC13(0.13cc) / NAC microionization chamber(0.007cc)
2. Polystyrene, cork, PMMA, teflonを複合させた自作ファントムによるPDD, OCR
 (2×2cm^2, 6×6cm^2, 10×10cm^2) MU:200(300MU-2×2cm^2),
 OCRはfilm(EDR-2)
3. CTデータ(頭頸部、肺)を用いたIMRTプランの比較

結果
1. depth doseとOCR
AAA: 2×2cm^2の照射野を除いて1%/1mm以内(測定に対して)
モンテカルロ: 2%/1mm以内(測定に対して)
2. output
AAA: 測定に対して1%以内
モンテカルロ: 測定に対して0.5%より良い結果
3. 不均質ファントムでの検討: PDD
AAAは全ての照射野において2%/1mm以内
2×2cm^2の照射野において、肺の線量の計算精度:
   AAA > PBC-modified Batho power law
肺との境界領域において過大評価(2-4%)
4. 不均質ファントムでの検討: OCR
測定データとモンテカルロのデータは2%/1mm以内
6×6cm^2, 10×10cm^2においてAAAは正確だが、Modified Batho Power Lawは過小評価している。
2×2cm^2においてはAAAにおいても過小評価をしている。
5. 臨床における検討
CTデータを水に置き換えて計算した場合、一部Modified Batho power lawは過大評価をしている。
  モンテカルロは忠実に線量分布を表現するが、ノイズが大きくなる。
  肺の臨床例においてモンテカルロのDVHに比べModified Batho power lawは急に線量が下がりすぎる。
  肺の臨床例において、AAAはモンテカルロと同様の形状の線量分布を計算しているが、3%程度過小評価している。

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AAAは線量計算において少々過小評価することが報告されています。またPBC-Modified Batho power lawは不均質に対しては良好な結果をしめしていません。やはりEclipseにおいてもモンテカルロ法を利用した光子の線量計算アルゴリズムの導入を期待したいと思います。

詳細は論文で。


IMRTプランにおけるAAAとPBCの比較

2008年09月19日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第39号

Christopher M Bragg, et al.: Clinical implications of the anisotropic analytical algorithm for IMRT treatment planning and verification, Radiother Oncol, 86, 2008

 Eclipseに搭載されている線量計算アルゴリズムであるPBCとAAAの比較をIMRTのプランにおいて検討した論文です。PBCは肺等の不均一領域や小照射野等の電子平衡が成り立たない状況下において良好なモデリングができないとされています。それに比較し、AAAは電子の輸送コードが優れているため、上記の肺等の不均一領域や小照射野等のモデリングも優れていると報告されています。
 IMRTは側方荷電粒子平衡が成り立たない小照射野の集まりであり、電子輸送コードの正確性が要求されます。そこで本論分ではIMRTプランにおけるAAAとPBCの比較を行っています。

 ここで対象として考えられているのは前立腺、頭頸部、肺の3箇所であり、各々のプランはInverse planningを用いてICRU report 62のtarget coverageを処方の95%-107%の間に適合させ、かつOARの線量を最小にするように設定している。線量計算のアルゴリズムはPBC-eTAR、2.5mm計算グリッドにて行い、その後に同様のMUにてAAAを用いてに計算している(さらにrenormalization後再度AAAで再計算)。

 検討している項目は、PTV dose: minimum, maximum, 95%を受けるPTVの体積率、臨床上重要なOARである。また、conformity index(CI)を採用し、結果を示している。
CI = V(PTV95) / V(PTV) × V(PTV95) / V(T)
V(PTV95): 処方線量の95% 線量を受けるPTVの体積
V(PTV): PTV線量の体積
V(T): 処方線量の95%線量を受ける体積

 線量の検証はanthropomorphic phantomを用いて、各々のプランにおいて3から6ポイント測定し、AAAにて計算した結果との比較を行っています。またDTAの評価はEclipseにて行っています。

結果は以下です。
1. 前立腺や耳下腺において、同じMUの時AAAはPBCに比較してPTVのDmin(%), Dmax(%), V95%(%)がわずかに低い値となる。
2. 前立腺や耳下腺に比較し、同じMUの時咽頭のAAAはPTV. V95%(%)の減少が5%と大きい。
3. 肺のAAAはPTV. V95%(%)が同じMUの時9%減少しているが、脊椎や正常肺の線量は大きく変わらない。
4. 肺のCIはAAAに変更することで大きく減少する=poorer coverage
5. 電離箱による検証の結果により、前立腺、耳下腺プランにおいては3%以内の差、もしくは線量の急勾配部において1.6mmの差であった。同様に肺や咽頭においては3%もしくは3.5mmの差であった。

筆者は結論として、前立腺、耳下腺、咽頭のIMRTのプランにおいて、AAAはPBCと大きく異ならない。しかし、肺においては電子輸送コードの正確性の問題から、PBCに優先してAAAを使用することを推奨している。

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AAAが電子輸送コードにおいて優れていることについては種々報告がなされている。本研究ではAAAを肺の線量計算に使用することを勧めているが、やはり2種類のアルゴリズムを理解し、比較しながら使用することがより安全な方法のように感じた。

詳細は論文で。


LINACを用いた線減弱係数の測定

2008年08月29日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第37号

J Van Dyk, et al.: Broad beam attenuation of cobalt-60 gamma rays and 6-, 18-, and 25-MV x rays by lead, Med Phys, 13, 1986

X線やγ線に対する物質の吸収係数(or HVL)の測定には細いビームが用いられています。これは正確な測定のために必須な項目ですが、一方で放射線治療の状況では理想的な細いビームでの治療はほぼ皆無であり、広めのビームの吸収係数が求められます。特にTBI等で使用する補償体の吸収係数の算出は、均一な照射を考慮するうえで必要な厚さを計算するために必須です。本論分は吸収係数を理論的に計算し、また実測することでその差異を確認しています。

 理論
単一エネルギーの放射線であり、細いビームの場合
I = I0 e^(-μx)
ここで吸収体の存在する場合の強度をI、吸収体の存在しない場合の強度をI0、μは線減弱係数、xは吸収体の厚みです。
広めのビームの場合、散乱が多くなるため複雑になり、散乱線と直線線の強度比は、
S/I = Ne x X0 x σ0
で表すことができます。ここでNeは吸収体中の電子数、X0は吸収体の厚み、σ0は0度と最大散乱角の間の散乱光子の断面積である。この式において、σ0は入射エネルギーと最大散乱角との複雑な関数であり、本論分では詳細には述べられていない。
また、広いビームの吸収は以下に示すことができます。
Ib = I0 x e^(-μbx)
ここで、Ibは吸収体を通過後の強度、μbは広いビームジオメトリーにおける実効線減弱係数であり、
μb = μ + 1/x ln[1/(1 + S/I)]
と表すことができます。
また、スペクトルが正確に把握できている場合、
μb’ = (∫μb N E dE) / (∫N E dE)
ここでNは光子数、Eは光子のエネルギーであり、μb’は加重平均された広いビームの線減弱係数である。

 測定
 上記理論を確認するために実測が行われている。実測の方法は以下である。
1. 細いビーム, focused collimatorを使用(X線のみ), Source-absorber distance. 90cm, SCD. 130cm,
2. 細いビーム, 遠距離法, Source-absorber distance. 90cm, SCD. 170cm
3. 広いビーム, Source-absorber distance. 90cm, SCD. 130cm

Co-60においては、ビルドアップキャップ使用下の空気中での測定, 6, 18, 25MV X線では30cm x 30cm x 30cmのポリスチレンファントムを用いて5cm深での測定を行っている。また用いられているabsorberは鉛である。

結果
1. 全てのエネルギーにおいて、細いビームに比較し、広いビームの透過率が低いことが明らかである。
2. 求められた質量減弱係数は照射野の関数としてleast squares fitにてよい結果が得られている。
3. 理論から計算された結果と比較し、細いビームにおける吸収係数は2.4%の差異が認められた。
4. Co-60において2種類の細いビームでのジオメトリーでの結果は0.5%以内の差であった。
5. 広いビームにおいて測定結果と計算結果との差はフィールドサイズが大きくなるにつれて大きくなる。
6. 40cm x 40cmの広いビームと細いビームの吸収係数の測定結果より、エネルギーに依存して14% - 16%の差が認められた。

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TBIにおける補償体の吸収係数を把握し、適切な厚さを検討することはTBIの成功のために必須である。上記理論式は現場ですぐに使うことのできるものではないが、測定方法および解析手法は非常に役に立つと思われる。測定の際の参考としたい。

詳細は論文で。


術中照射アプリケータ装着時のエネルギースペクトルの変化

2008年08月04日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第32号

Peter Bjork, et al.: Comparative dosimetry of diode and diamond detectors in electron beams for intraoperative radiation therapy, Med Phys, 27, 2000

 シリコンダイオードおよびダイアモンド線量計を用いて、術中照射アプリケータ装着時の線量測定の特徴をまとめた論文です。水の実効原子番号は1-20MeVのエネルギー領域においておよそ3.3であり、ダイアモンド線量計の6、シリコンの14は水に比較的近いといえます。シリコンダイオードを用いた線量計は、有効体積が小さく空間分解能が高いため、一般的に電子線の比較測定に良く用いられており、また電子線測定におけるreferenceとしてダイアモンド線量計も有用視されています。
 水の吸収線量=検出器の実効点における吸収線量×平均制限質量衝突阻止能比(水と検出器)×擾乱係数 で表示されます。この擾乱は検出器の材質、容量、実効原子番号、密度、電子のエネルギー、測定深に依存します。ゆえに一般的に測定時に電子線のエネルギースペクトルや角度分布が認識されている必要がありますが、モンテカルロ法を除いてその状況を認識するのは不可能です。
 一方で術中照射装置を装着した際には通常のアプリケータとは異なり、低エネルギーの電子線が多く含まれ、結果的にその平均的な散乱角は大きく、エネルギースペクトルは変化します。この変化はビルドアップ領域に大きく現れ、術中照射用アプリケータを装着した際にはビルドアップが小さくなります。これらのことから、衝突阻止能比や補正パラメータが測定の環境に依存せずに一定であり、読値が直接水の吸収線量を反映していることが望まれます。
 本論分では、0-20MeVの電子エネルギーにおける水と炭素および水とシリコンの質量衝突阻止能比が示されています。ここでは、1-20MeVの領域において炭素/水はほぼ一定であり、シリコン/水は5MeV以下のエネルギーを除いてほぼ一定の結果が示されています。
 
 ここではp-typeシリコンダイオード、NACP平行平板型電離箱、ダイアモンド検出器が使用され、下記について調べています。
1. シリコンダイオードおよびダイアモンド線量計の方向依存性
2. シリコンダイオードおよびダイアモンド線量計の線量率依存性(NACPで規定)
3. 上記3種類の線量計におけるPDD, profile

 結果は下記です。
1. 方向依存性はシリコンダイオードに比較してダイアモンドが低く、6MeVの電子線において±140度の領域の方向依存性は96%-103%(ダイアモンド)、92-102%(シリコンダイオード)と報告されており、これはエネルギーが高くなるに従い小さくなる傾向にある(20MeV: 97%-101%(ダイアモンド)、96-100%(シリコンダイオード))。術中照射用アプリケータを装着した際の電子線エネルギーは浅い領域において、より低いエネルギーの電子を多く含んでいる。これらの領域では方向依存性が小さいことが特に望まれることから方向依存性は重要である。しかし、結果的には両方の線量計において小さな値であることが確認された。
2. NACPの再結合補正は2点電圧法で確認され、全てのエネルギー、高線量率において0.4%以下であることが確認された。そのNACPの電離値を基準とした、シリコンダイオードおよびダイアモンド線量計の線量率依存性は、ダイアモンド線量計において線量率が高くなるに従い感度が減少し、シリコンダイオードは線量率の増加に伴いわずかに増加していることが確認された(20MeVで最大1%)。(PDDやprofileの測定ではダイアモンドによるこの値は補正)
3. 3種類の測定器により比較された6MeVのPDDは、線量の低下領域において±1%、0.5mm以上の相違が生じている。これは20MeVになると±1%、0.5mm以内の相違となっている。これは水と炭素および水とシリコンの質量衝突阻止能比が低いエネルギーにおいて乖離していることに起因にしている。また、水の表面においては3種類の線量計で値が異なっているが、これは空間分解能の違いに起因すると記載されている。しかし吸収線量の比較測定において質量衝突阻止能比の違いによる影響は小さいと筆者は記している。

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 術中照射のアプリケータを使用する際、電子線のスペクトルの変化を理解することが重要である。この変化が線量計に及ぼす影響を考慮し、測定結果を理解することは重要と思われる。

詳細は論文で。

術中照射用アプリケータの線量の特徴

2008年07月31日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第31号

Edwin C. McCullough, et al.: The dosimetric properties of an applicator system for intraoperative electron-beam therapy utilizing a Clinac-18 accelerator, Med Phys, 9, 1982

 術中照射用ツーブスを装着した際の電子線-線量測定の特徴をまとめた論文です。ここで使用されている直線加速器はVarian Clinac 18であり、6, 9, 12, 15, 18MeVの電子線が照射可能です。構成は以下の3つに分けることができ、カット面までの距離は100cm(FAD)。
1. アクリル製円形コリメータ(4, 5, 6, 6.5, 7, 7.5, 8, 9 cm直径)カット面は水平。
2. 15度、30度に切り取られた円形コリメータ。(15度、30度、5-8 cm直径 0.5cmきざみ)
3. 矩形コリメータ(8x9, 8x12, 8x15cm^2)
 全てのアプリケータは直径10.5cm、長さ24cmのアルミニウム製のtubeに装着することができ、このアルミニウム製tubeがガントリに装着される。
 
 本論分にて評価している線量パラメータは、Given dose / MU, 中心軸の表面線量、Dmax, d90%, d30%、X線含有、Cross fieldのflatness, 照射野、半影である。

 筆者は以下について記している。
1. アプリケータの特徴はJAWの大きさに依存することが考えられる。しかし、4cmφおよび9cmφのアプリケータを装着した際のJAWサイズの変更(5cm, 10cm, 15cm)において表面線量は変化しない。
2. JAWサイズを変更した際のX線の含有は、ほとんど変化しない。しかし、低エネルギー(ここでは6MeV, 4cmφ)ではJAWサイズを10cmから5cmにすると3%程度増加する。
3. JAWサイズを変更した際の出力は、JAWを小さくするにしたがいかなり減少する。それゆえ10cm x 10cmかそれ以上の照射野が好まれる(円形コーンの場合10cm x 10cmの照射野が最適、矩形アプリケータの場合は15cm x 15cmが最適)。
4. 90%の線量となる深さはJAWサイズの変更にともない、エネルギーが18MeVのように高い場合変化する。18MeVにおいてJAWサイズを15cm x 15cmから10cm x 10cmに変更すれば2-3mm増加する。
5. 18MeVのような高エネルギーかつ小さなアプリケータの場合、アルミニウムtubeとアプリケータの接続部からの漏れ放射線が大きく、半影が大きくなる。これを防止するためにはJAWサイズを小さくするか、3mmの鉛を設置するのが有効。
6. エネルギーが12MeVを超えると、アプリケータの直径(JAWは10cm x10cm)に関わらず表面線量は89%を超える。
7. アプリケータの直径(JAWは10cm x10cm)が小さくなるとガントリーヘッド由来の低エネルギー光子の量が減少し、表面線量は下がる。しかし、5cmよりも小さくなるとアプリケータが中心軸に近くなり、このアプリケータ壁からの電子線が中心軸線量に大きく影響するようになるため、表面線量は増加する。
8. 5cmを超えるアプリケータでは90%深は変化しない。それよりも小さなアプリケータでは電子線の飛程にともない減少する。
9. 斜めにカットされたコリメータでの90%深は少し浅くなる。6.5cmφ(実際は6.7cm)、30度のコーンの場合、3mm浅くなっている。
10. 斜めにカットされたコリメータを使用して、斜めに照射しても等線量曲線は表面に平行となる。
11. 斜めにカットされたコリメータでの照射野は通常の円形コリメータに比較し、(cosθ)-1を乗じることにより近似できる。ここでは照射野が67mmのコーンに対して、67mm / cos30°= 77mmという結果が示されている。
12. アプリケータサイズに比較し90%の等線量曲線は少なくなるので、マージンの設定は重要であり、評価された腫瘍サイズよりも少なくとも1cmは大きなアプリケータサイズを選択する必要がある。(斜めにカットされたアプリケータの場合、等線量分布曲線を考慮し、さらに大き目のアプリケータが有効かもしれない)
13. 一般的に術中照射の際にSSDを100cmとすることは困難である。そこでVirtual source locationを使用した距離の逆二乗は有効である。高エネルギーにおいては1%以内の誤差で計算できるが、6MeVのような低エネルギーかつ小さなアプリケータでは1.5cm程度の距離のoffsetにおいても3%程度の誤差が生じる。
14. 中心軸の線量を10%程度に抑えるためには、6MeVで2.4mm, 9MeVで4mm, 12MeVで4.8mm, 15MeVで6.4mm, 18MeVで7.2mmの鉛が必要。照射野の形状を変化させる場合に有効。

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 術中照射時の線量分布の把握は特殊なアプリケータを使用するために、より専門的な知識が必要である。斜めにカットされたアプリケータでのd90%が浅くなる点は重要であり、線量測定の際の参考としたい。

 詳細は論文で。


術中照射用斜カットアプリケータのPDD測定

2008年07月28日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第30号

Robert A. Dahl, et al.: Determination of accurate dosimetric parameters for beveled intraoperative electron beam applicators, Med Phys, 16, 1989

 術中照射のアプリケータにはフラットタイプと斜めにカットされたタイプが発売されています。各々のアプリケータを使用し、正確な照射を行うためには正確なDmax / MUの把握が不可欠です。正確なDmaxの評価のためには照射されたビーム軸にそって測定が得られる必要があります(PDD)。本論文は斜めにカットされた術中照射用のアプリケータを装着した際のPDDを正確に測定するために、水ファントムを斜めに配置し、より正確にPDDを測定できるよう改良したという趣旨の論文です。

 斜めにカットしたアプリケータを用いた際、水ファントムを術中照射用アプリケータのカット部と同じ角度に傾け、ガントリー角度とカウチの高さをアプリケータが水面に平行になるように調整します。ここでは0.3ccの電離箱が使用されています。

 従来斜めにカットされたアプリケータでのdmaxの決定は、各々のエネルギー毎、基準となるアプリケータのdmaxにcosθ(θ: カット角度)を乗じることで得るという手法で行われ、この値の深さにおいてDmax / MUを測定する手法が用いられていました。

 ここではsolid phantomのdmax(standard cone)を使用して計算によって得られたdmaxでのDmax/ MUと水ファントムを斜めにおいて測定したDmax/ MUおよび水ファントムを傾けずに計算により求められたdmaxに線量計を設定して測定したDmax/ MUと水ファントムを斜めにおいて測定したDmax/ MUの比較が示されています。

 結果は以下である。
1. 値の相違はエネルギーが増加するに従い減少する(~12%)。
2. 角度をつけずに配置した水ファントムでの比較結果において、coneサイズが増加すれば相違は減少する。

6MeVや9MeVのようなシャープなdepth dose peakのような状況では、正確なdmaxを得ることは特に重要である。カットされたアプリケータでのcentral axisはファントムの表面に対して角度がつけられており、dmaxの決定は困難である。ここではsolid phantomや傾けずに配置した水ファントムとの比較結果として12%程度の相違が示されている。

線量測定をする際の参考としたい。

詳細は論文で。