放射線治療と医学物理

放射線治療、特に医学物理に関する個人的記録

放射線治療における呼吸移動管理の勧告(AAPM TG76)

2008年06月21日 | Stereotactic Body Radiosurgery
第18号

Paul J Keall, et al.: The management of respiratory motion in radiation oncology report of AAPM Task Group 76, Med Phys, 33, 2006

呼吸性移動による対処方法をまとめたAAPMの報告です。
ここでは、呼吸性移動の問題点、一般的な解剖や移動度合いの把握に関して簡潔に記載されており、後半では呼吸性移動に対する数種類の対処方法を述べている。
最終的には臨床における勧告、治療計画における勧告、スタッフ(特に医学物理士)の仕事配分に関する勧告、QA勧告、そして将来の研究課題を提示している。

呼吸を管理する方法として詳細されているのは下記の5種類である。
1. Motion encompassing methods: 移動範囲包容法
2. Respiratory gating techniques: 呼吸ゲート法
3. Breath hold techniques: 息止め法
4. Forced shallow breathing techniques: 強制浅呼吸法
5. Respiration synchronized techniques: 呼吸同期法
(訳:国枝悦夫, 他.: AAPM Task Group 76報告を中心に, 臨床放射線, 53, 2008を参照)

呼吸性移動に関して、観察および治療前に想定可能な呼吸性移動の一般的なパターンはない。胸壁や横隔膜等による腫瘍の位置の推測は(治療中に腫瘍を直接観察することなく、ビームゲートやトラッキングとして)腫瘍位置のシグナルとして使用されるが、そこには腫瘍や他の器官との間に位置不一致や、位相の不確かさが存在する。圧巻はFig. 4に示されたtumor motionとmarker motionのphase shiftの例である。ゆえに、治療前、治療中の患者毎の評価が不可欠であり、それ自身が重要なQAである。

 上記に示した1-5の方法について、各々のQAの考え方がレポートには記載されているが一般的なQAとして、
1. 頻度:
呼吸性移動管理に関するCT、透視装置、LINACのハードウェアおよびソフトウェアを変更した際にはQAを実施する。さらに装置により慣れるまでは、医学物理士の判断に基づき高頻度のQAが求められる。
2. 患者トレーニング:
外部モニターにより得られた情報から腫瘍の位置をより正確かつ再現性よく得るためには上記1-5の方法に共通して、呼吸の練習が重要である。
3. シミュレーション
  透視、シネCTを用いて患者を観察することにより、呼吸移動の程度、腫瘍位置と呼吸シグナルとの関係を得る必要がある。息止め法においては数回の息止めにおいて、再現性よく腫瘍位置が安定していることを検証する必要がある。
4. 治療:
  治療において、可能であれば1回の息止めでひとつの治療フィールドの照射が終了することが望ましいが、長すぎる息止めは患者負担につながるため、個々のビームに対するブレイクポイントの作成が重要である。
5. 腫瘍位置の安定性を確認するための写真撮影
治療中の腫瘍もしくは代わりとなる器官の頻繁な写真撮影は腫瘍位置の再現性確保のために不可欠な行為である。もし、撮影した写真によりシミュレーションと異なる状況が見つかった場合には、測定結果および治療は医学物理士と放射線腫瘍医により再評価が必要となる。

 移動範囲包容法においてCTの撮影方法にも重要な提言がなされているほか、IMRTに関しても記述が見られるが、呼吸器管理が適切にこなせるのであれば、肺においても応用が可能とされている。

 勧告では呼吸移動により5mm以上の腫瘍移動が見られる場合、もしくは重要な正常組織への照射量の低減が呼吸管理により達成できる場合には、呼吸管理を考慮すべきだとされている。もちろん、治療の目標、呼吸管理の困難度、患者の状態にも大きく依存する。

 Fig. 6のclinical processのチャートおよびすべての呼吸管理に関するQAを考慮し、より保証された治療となるよう心がける必要がある。また、204もの参考文献が引用されており、個々の報告について詳細に調べる際の手助けとなる。

詳細は論文で。


データベース保存ミスによる過剰照射

2008年06月09日 | Adverse event
第17号

U.S. Food and Drug Administration.: Adverse Event Report: Varian Image Systems Vision Radiological Image Processing System, 2005

 13Gy/Fr, 3Fr、総線量39Gyを頭頸部に誤って照射したという報告です。MLCの使用を意図したものでありながら、OPEN fieldで照射してしまったという、いささか信じられない内容です。物理士のQAが不足していたことに加え、2人のセラピストが治療コンソールに示されるOPEN fieldに気がつかなかったということから事故は発生した。
 照射された患者はのどの痛みや粘膜炎を含めた過剰照射の症状を訴えたが、3週間後症状は和らいだと説明している。

 MLCの使用を意図したにもかかわらず、OPEN fieldとなってしまった原因はMLCのコントロールポイントがデータベースに適切に保存されなかったことにある。保存過程で正常動作ではないプログラムの切り離しがあり、このソフトは保存が適切になされていない旨表示していた。これに気がつかなかったユーザのミスだと報告は締めくくっている。

詳細はFDA報告で。 

出力係数入力ミスによる事故

2008年06月09日 | Adverse event
第16号

U.S. Food and Drug Administration.: Adverse Event Report: BrainLAB Novalis shaped beam surgery system, 2004

 ノバリスの出力係数入力ミスによるイベント報告です。物理士が出力係数の測定を行った際に施設が保有していた出力係数よりも大きな値が示された。
 これによると、基準点において1.0cGy/MU (1Gy/100MU)の照射の調節を行った場合、実際の出力は1.5cGy/MU (1.5Gy/100MU)となっており、実に50%の過剰照射となっていたと想像される。
 
詳細はFDA報告で。 

ダイナミックMLCとスタティックMLC選択ミス

2008年06月09日 | Adverse event
第15号

U.S. Food and Drug Administration.: Adverse Event Report: Varian Medical Systems Acuity System, Simulation, Radiotherapy, 2006

 ダイナミックMLCによるプランを作成したが、不注意によりStaticプランに置き換えられてしまったという内容。この結果として、28分割中21回不適切に治療がなされた。患者に照射された線量は計画に比べておよそ8%多いと計算されたが、臨床上は問題ないと判断された。しかし、残りの7分割で超過線量を調節するのは困難であると報告されている。

 製造業者によると、病院スタッフにより2つのとても似通った名前のプランが作成され、ひとつはダイナミックMLCタイプ、もうひとつはそうではなかった。セラピストが治療のためにデータを読み出した際に、誤ったプランを選択したために発生したという内容である。

 いずれにしても、照射プランを保証することは重要であり、2つのデータが照射可能であったことにも問題があると思われる。

詳細はFDA報告で。 

Arc中のMLC動作不良

2008年06月09日 | Adverse event
第14号

U.S. Food and Drug Administration.: Adverse Event Report: BrainLAB M3 (Micro-multileaf collimator) Radiotherapy Equipment, 2006

 2006年1月5日に報告された定位放射線治療装置に装着するmicro-multileaf collimator M3のコリメータ情報伝達ミスの報告です。Conformal arc治療中にガントリー回転に伴うMLCの移動が見られず、最後の0.1度までstart時の形状を保持していたというもの。
 結果的には計画通りには照射されなかったものの、病院内部の調査によると照射された線量は処方変動内であり、臨床上の範囲内であったと報告しています。
 本インシデントは4DワークステーションとMLCコントローラ間のソフトウェアの不備が原因と特定されたようです。

 治療前にQAを実施し、機器が正常動作することを確認することの重要性が最近特に言われていますが、本内容もしっかりとしたQAがなされていれば防げたものだと思われます。

詳細はFDA報告で。 

IMRT MatriXXの臨床線量評価

2008年06月05日 | QA for IMRT
第13号

J Herzen, et al.: Dosimetric evaluation of a 2D pixel ionization chamber for implementation in clinical routine, Phys. Med Biol, 52, 2007

臨床現場でQAするときに使用する2次元電離箱アレイ(IMRT MatriXX)の線量評価です。一般的に治療計画によって計算されたIMRTの3次元線量分布を線量測定として評価、検証することは不可欠であり、主にこれらの行為は治療計画によって計算される2次元線量分布と測定データを比較することによって行われます。従来から行われてきたフィルムは時間が非常にかかるため、これらの2D電離箱は大きな期待が寄せられています。

トリノ大学によってデザインされたIMRT MatriXXは、1020個の平行平板型電離箱から成っており、高さ0.55cm, 直径0.4cm、線量計中央間距離0.76cm、有感体積0.07ccmで最大24cm x 24cmのfieldを測定することができます。また、2つのカウンターが設置されており、dead timeなしで測定することができます。最小読取時間は20msであり、ダイナミック照射の検証にも使用できると解説されています。

実効測定点の測定には、PDDが用いられています。Solid Phantomおよび0.6cc電離箱を使用してPDDを取得し、さらにMatriXXを用いて同様の測定を行うことによって実効測定点を得ており、3.6mm±0.1mmという値が導かれています。

線量、エネルギー依存性の確認として、10cm x 10cmのfieldかつ4MV, 6MV, 15MVのエネルギーにて実験が行われており、全てのエネルギーにおいて線量の直線性、エネルギー非依存性が確認されています。

ウォームアップ時間調査として、100MU, 10cm x 10cm field size, 6MV X線を用いて20回照射し、線量計の振る舞いが調査されています(製造メーカからは電源ONしてから15分以降に照射することが推奨されています)。電源をOFFしてしまえば再度照射してウォームアップしなくてはならないが、電源を切らなければ測定値は安定していると報告されています。ここからMatriXXが安定化するためには10Gy程度のpre-irradiationが必要であろうと記載されています。

MatirXX内電離箱1つの側方レスポンス関数および空間分解能
タングステンで作成された細いスリット(1mm)を利用してLSF(line-spread function)を取得し、側方レスポンスを評価しています。ここではdiagonal方向、cross plane方向各々で値がほとんど変わらないことが示されています。

XiOにて計算された線量分布とMatriXX測定値との比較
上側に5cm, 下側に10cmのsolid waterにてMatriXXを挟み込み、CTを撮影し、そのCTデータに基づき、20 x 20, 15 x 15, 10 x 10, 5 x 5, 4 x 4, 3 x 3, 2 x 2, 1 x 1cm2、各々のフィールドで50MU照射するプランを作成し、ピラミッド型の線量分布で評価しています。測定値および補正された計算プロファイルは最大偏差1%であり非常に良い一致を示しています。
また、IMRTの7つのフィールドでも検証されていますが、ここではガントリー角度0度にて行われています。補正されたプロファイルにおいて、最大の偏差は傾斜のきつい領域において8.4%、傾斜の少ない領域において4.5%であったと報告されています(Gamma indexでの評価はなし)。

 本報告には含まれていないものの、呼吸同期照射の際にはスタートアップの性能評価が不可欠であり、このIMRT MatriXXが有効である可能性が示されています。

MatriXXのような2D 検出器はフィルムでの検証作業の一部に置き換わりつつあります。線量計自体が大きいため自由性は少ないものの、時間浪費の観点から非常に魅力的な線量計であり今後の普及が期待されます。

詳細は論文で。




定位放射線治療用コリメータの設定位置検証

2008年06月05日 | QA for Stereotactic Radiosurgery
第12号

T Falco, et al.: Setup verification in linac-based radiosurgery, Med Phys, 26(9), 1999

定位放射線治療用円形コリメータを装着したLINACにおいて、a-Seおよびフィルムを用いて天井レーザに対するコリメータを補正する方法。また補正後に回転儀(gyroscopic device)を用いてアイソセンターからのガントリーおよびカウチ回転軸の変位を決定する方法の紹介です。

Collimator alignment 
電離放射線および赤色レーザに感度のあるa-Seプレートもしくはフィルムをカウチ上(アイソセンター)に配置し、定位放射線治療用円形コリメータを装着して照射。その後ガントリーを回転させ、天井レーザを照射する。その解析結果(変位)を利用して、コリメータを調整する。調整にはコリメータに取り付けられたマイクロメータにて行っている。
Alignmentの変位をみるアルゴリズムは
① レーザの交差点を計算する。
② 円形ビームにて照射された領域における中央を計算する。
③ 上記①と②の変位量を計算する。
となっている。

Gyroscopic deviceを用いたガントリーテスト
 Gyroscopic device(ガントリーおよびカウチがいかなる角度となっても、アイソセンターにおいて、ビームに垂直となるようにフィルムが配置できる)を用いて、7つのガントリー角度(30, 90, 135, 180, 225, 270, 330度:カウチ0度)時の円形コリメータ中央とレーザ交差点との変位を調べている。その際90度および270度のみ壁付レーザにて行い、他のレーザ焼付は天井レーザにて行い、その変位量を算出している。

Couch rotationテスト
 カウチ上に水平に検出器を置き、カウチ回転軸に伴う安定性を見る試験で、カウチ角度-80度、-15度、0度、35度、60度時に天井レーザにて焼き付ける。クロスヘアの交差点のブレがカウチ回転軸のシフトを示す。

LINACアイソセンター直径
 Gyroscopic deviceにフィルムを装着し、実際に使用する放射線照射および、天井、壁レーザにて焼付けされた交差点との変位量を見ている。また、フィルムの黒化領域のFWHMを測定することによって、ガントリーおよびカウチのぐらつきがあることを証明している。

a-Seおよびフィルムはレーザの位置と放射線フィールドのズレを判定するのに有用であると報告しているが、やはり簡便さからCR(IP)が便利かもしれない。

詳細は論文で。

OBI systemの包括的QA

2008年06月03日 | QA for IGRT
第11号

Sua Yoo, et al.: A quality assurance program for the on-board imager, Med Phys, 33(11), 2006

Varian社から発売されているOBI systemのQuality assurance programです。正直かなり良く考えられた方法で、かつ簡単に施行することができます。また、各々のテストに許容値およびテストの頻度が記載されており、OBI systemのQA入門編といえそうです。

<Safety and functionality QA>
1. Doorインターロック
2. 警告表示
3. 警告音
4. 衝突検出およびインターロック
5. ペンダントの動作チェック
6. X線管のウォーミングアップ
7. 機能チェック

<Geometrical accuracy QA>
 Geometrical accuracy QAはソフトおよびハードウェアの安定性を見るために行います。
1. OBIアプリケーションにて得られるアイソセンターとMVアイソセンターの正確性
2. 2D2D match and couch シフトの正確性
3. SAD, SIDを変更した際の正確性
4. アーム移動における正確性
5. ガントリー回転に伴うOBIアイソセンターの正確性

<Image quality QA>
1. 撮影におけるimage quality (コントラスト分解能、空間分解能)
2. CBCT画像評価
2-1 HUの直線性
2-2 低コントラスト分解能試験
2-3 高コントラスト分解能試験
2-4 HUの均一性
2-5 スライス内空間の直線性
2-6 スライス厚

 筆者はこれらのテストの結果から、OBI systemは機械的に信頼性があり、また安定していると報告しています。上記QAの方法、頻度、推奨許容値は個々の施設に依存するものの、このガイドラインは重要であると締めています。

OBI systemを用いた位置あわせは、照射したい領域と実際の位置ずれが生じている場合に、その位置ずれを少なくするために使用されます。正確に動作しないと、照射したい場所ではなく、正常組織やリスク臓器が含まれる領域にカウチが誘導されることもありえます。やはりIGRTのQAは他のQAと同様重要な項目です。

詳細は論文を。






ウェブカメラを用いたアイソセンターチェック

2008年06月03日 | QA for Stereotactic Radiosurgery
第10号

M. K. Woo, A personal-computer-based method to obtain “star-shots” of mechanical and optical isocenters for gantry rotation of linear accelerators, Med Phys, 29(12), 2002

ウェブカメラを用いてメカニカルポインター(ブロックトレイ部分に取り付ける)、ブロックトレイの中央およびカウンターウェイト付近に取り付けたアルミニウム製のアームに通したナイロン製の紐、古典的なスターショットの比較です。

①メカニカルポインターをウェブカメラで撮像して、スケーリングをポインター直径で行います。種々のガントリー角度に対する取得画像から、アイソセンターの変位を求めています。

②アイセンターを通過するように、ブロックトレイの中央およびカウンターウェイト付近に取り付けたアルミニウム製のアームに通したナイロン製の紐を同様の手技でウェブカメラにて撮影し、同様にアイソセンターの変位を求めています。

③古典的なスターショットを撮影し、①、②、③をPhotoshop version 6にて重ね合わせて評価しています。

 筆者は理想のアイソセンターと放射線の軌跡としてのアイソセンターの一致は非常に重要であり、またテストが容易かつ実際的であることから、この重ね合わせによる方法は有益であると述べています。

詳細は論文で。