放射線治療と医学物理

放射線治療、特に医学物理に関する個人的記録

強度変調全身照射の臨床結果

2008年09月11日 | TBI
放射線治療と医学物理 第38号

Ralf A Schneider, et al.: Long-term outcome after static intensity-modulated total body radiotherapy using compensators stratified by pediatric and adult cohorts, Int J Radiation Oncology Biol Phys, 70, 2008

 骨髄移植および幹細胞移植は成人および小児における血液悪性疾患の治療に用いられています。その際全身照射や抗癌剤治療にて体内の血液悪性疾患を根絶し、かつ免疫不全状態を作り出すことが不可欠です。
 照射方法はさまざまな論文で報告されているように数々の方法があります。本論文では補償体を用いた強度変調全身照射の長期結果報告です。
 全身に放射線を照射する際には、全身が不均一な物体であることから、線量分布上でcold spotおよびhot spotを可能な限り少なくし、またOARの線量を制限することが重要です。そこで著者らは補償体にて強度を変調させた全身照射(sIMRT)を施行しています。この方法は1983年に開発され、論文作成時までに500例以上治療をおこなったと記述されています。

 方法は以下です。
 全身のCTスキャンを行います。その後Styrodur材質をくりぬき、Sn granulesを流し込みます(完成まで300min)。
 測定は以下の6ステップです。
1. 補償体のX線撮影
2. 水ファントムにおける透過測定(中央線上の数々のポイントにおいて測定を行い、一致したdepthにおけるPDDの検討)
3. 中央および肺野における吸収線量および線量率の測定
4. 中央かつ中心線上の交差点における1Gyに相当するMUの計算
5. 電離箱を大腿部の間に挟み、in-vivo測定
6. 補償体に対する患者の正確なポジションをフィルムにて確認

患者のセットアップは臥位で行い、焦点-患者中心までの距離は390cm。焦点-補償体間距離は80cm-100cm。コリメータは最大開口かつ45度回転、15MV X線を用いて12-15cGy/min、12Gyを3日間で6分割されている。45人の患者には全身が均一となるよう工夫した上で12Gyを照射、212人の患者には肺野での線量を11Gyに減少させるような強度変調を行っている。

 本論分の趣旨はoutcomeであるため医学物理の内容からは少しずれていくため割愛するが、肺の線量を12Gyから11Gyに減少させることでinterstitial pneumonitisの発生率を大幅に減少させることができ、TBIの成功につながると報告している。その他、veno-occlusive disease, Nephrotoxity, GVHD, central nervous system, bone and joint injures, thyroid gland disorders, growth retardation, sterility, secondary malignanciesについても記述されている。

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単純な補償体を使用することは従来からも良く行われた方法ですが、補償体を患者毎に作成するIMRTはすごいですね。
非常に素晴らしい線量管理の手法だと思います。

詳細は論文で。


CTを用いたTBIの線量分布

2008年08月26日 | TBI
放射線治療と医学物理 第36号

Susanta K. Hui, et al.: CT-based analysis of dose homogeneity in total body irradiation using lateral beam, J Appl Clin Med Phys, 5, 2004

TBIは従来TPSを使用せずに処方線量を計算し、体幹部線量の不均一性を補償体にて調節、かつ水晶体および肺の防護に遮蔽体を挿入するという手法が用いられてきました。その後さまざまな手法が開発され、生存率の増加が可能となり、同時に短期および長期副作用の評価やQOLが研究対象として重要な項目となっています。骨髄幹細胞に対する不十分な線量もしくはcritical organにおける過剰な線量、その他の線量の不均一性はTBIの失敗に起因しうる項目です。なかでも肺炎は重要な線量の制限となっており、CTを用いてTBI時の臓器線量を把握することは重要との主張です。

 本論分において、CT密度データを用いたTPSの線量比較はRando Phantomを用いて行われています。Rando Phantom内にTLDを挿入し、10MeV, SSD.300cm, 照射野全開(40cmx40cm)、コリメータ45度、側方ビームにて照射、TLDでの測定結果とTPSでの計算結果を比較しています。

 TLDの測定結果から上胸部(肩部入射)や肺の線量は処方(臍の位置)に比較して25%程度の線量の低下が認められています。またこのTLDの結果はTPSにて計算された臓器線量との比較にて非常によい一致が認められています。

 Rando Phantomの検討により、処方に比較し上胸部(肩部入射)は20%以上の低下、肺の線量は25%程度の低下(腕で遮蔽されている)、その他は5-10%以内で照射されている。しかし、腕で隠されていない部分の肺野は非常に高い線量(30%程度)を受けている他、頭部におけるアクリルの補償体にも関わらず水晶体の位置で10%程度高い線量が照射されており、やはり補償体、遮蔽体の有効活用は必要である。

 肺の線量を補償体や遮蔽体で制御する際に、骨髄線量が減少してしまうことを防ぐため、また種々のcritical organの線量、線量分布およびDVHの評価は重要である。

詳細は論文で。


立位ポジションでのTBI

2008年08月21日 | TBI
放射線治療と医学物理 第35号

S V Harden, et al.: Total body irradiation using a modified standing technique: a single institution 7 year experience, Br J Radiol, 74, 2001

Long SSD法を用いた全身照射法を立位ポジションで行った場合、setupに時間がかからず、他の患者に対する通常の治療に迷惑をかけることなく行うことができることを示した論文です。

TBIの照射方法は種々提案されていますが、線量の均一性、正確な照射、再現性、setupの容易さ、照射野の限界、部屋の大きさ、使用する装置がTBI専用装置であるか否かが重要な項目となります。この施設では1991より前、側方向ビーム(臥位)にて治療がなされていたようですが、setupに時間がかかり、ボーラスバッグが必要、線量の均一性のために注意深いポジショニングが必要であり、また肺の線量を正確に測定することが難しいという難点を抱えていました。そこで照射をAP方向とすることで肺の正確な測定が可能となり、また線量の均一性も向上したと記しています。

 治療装置はスウェーデン製の直線加速器(Asea Brown Boveri LA20)、アイソセンターにて40cm x 40cmの照射野を作成することができ、患者のポジショニング位置(5m)にておよそ2.0m x 2.0mの照射野を得ることができます。治療エネルギーは16MV、線量率は300cGy/min at 1m、5mにて12cGy/minとなっています。

 患者のポジショニング位置の前には2cmのPMMA衝立、肺には鉛の補償体、首の前側にボーラスを配置する以外には、特に目立った工夫は行われていません。肺の補償体は0.5mm厚の鉛シートを重ね合わせることで作成され、ポータブルフィルムを参考に補償体の大きさを決定しています。その際、患者の動き、心臓や腹部の吸収効果を加味しつつ、最も必要な部分で7mm程度、その外側は4.5mmの鉛で作成されています。その後照射時にTLDを貼り付けることで線量を把握し、処方量の確認と鉛の量を調整しています。

 この方法によるSetup時間はおよそ10分、全ての工程が25分で終了すると記載されています。また、TLDによる様々な位置の測定から頭部および体幹部において処方線量の±6%以内、踵の領域において処方線量の10%増、首の部分において5%増、肺は処方線量の±5%で照射されていることを確認しています。

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 容易なsetupにて正確な線量が把握でき、またそれが良好な再現性、均一性の優れた照射ができるのであればその方法に切り替えることを躊躇うことはないのですが、いずれにしても自施設での確認は不可欠であると思います。照射時の参考としたい。

詳細は論文で。


大照射野におけるファントムサイズと散乱の関係

2008年07月01日 | TBI
第20号

E.B. Podgorsak, et al.: The influence of phantom size on output, peak scatter factor, and percentage depth dose in large-field photon irradiation, Med Phys, 12, 1985

TBIの基礎データを測定する際に巨大な水ファントムがあればよいのですが、実際にはそれを用意することは困難であり、多くの場では日常使用する大きさのファントムを使用して基礎データ取得が行われます(large field / small phantom)。しかし、このデータはAAPM report No. 17でも記載されているように、十分な散乱を加味したものではなく、full scatterを反映した水ファントムのデータに変換する必要があります。

本論分ではコバルトによるγ線、6MV-X線、10MV-X線の3種類の線質における出力係数およびPDDを利用して、日常使用するファントムから無限大の大きさのファントムへの換算係数を与えてくれます。

TBI測定環境における後方散乱係数の増減は重要なファクターのひとつですが、一般的にビームエネルギーの増加に伴い後方散乱の効果は少なくなります。本論分では拡張SSD(およそ4m)におけるデータとして、壁から線量計までの距離を70cmとしたと記載されています。

実際のPDD測定における換算係数の例として
照射野全開、コリメータ45度の10MV-X線、ファントムサイズ 30 x 30 cm2にてPDDを測定した際、50 x 50 cm2のファントム時の10 cmおよび20 cm深における値を推定する。
① 出力係数比: 0.997 / 0.985 =1.012
② PDD比: 84.5 / 83.8 = 1.008 (10 cm), 63.0 / 61.3 = 1.028 (20 cm)
① x ②により10cm深における換算値は1.021、20cmにおける換算値は1.040となる。

 同様に、照射野全開、コリメータ45度の10MV-X線、ファントムサイズ30 x 30cm2にてPDDを測定した際、75 x 75 cm2のファントム時の10 cmおよび20 cm深における値を推定する。
① 出力係数比: 1.000 / 0.985 =1.015
② PDD比: 84.6 / 83.8 = 1.010 (10 cm), 63.1 / 61.3 = 1.029 (20 cm)
① x ②により10cm深における換算値は1.025、20cmにおける換算値は1.045となる。

10MV-X線においては、75 x 75 cm2のファントムと無限大の大きさを持つファントムでは出力係数およびPDD値は同一であることが示されている。ゆえに、本データを使用すれば比較的大きなファントムを用意することなく測定が簡易的に行えると思われる。

詳細は論文で。


AAPMによるTBIに関する勧告

2008年07月01日 | TBI
第19号

American Association of Physicists in Medicine. The physical aspects of total and half body photon irradiation. AAPM report No. 17. Colchester, VT: American Institute of Physics, c/o AIDC, 1986.

1986年に発刊されたTBIにおける諸問題解決のためのAAPMの報告書です。
ここでは照射方法、基本的なファントムでの測定、患者での測定、および勧告が示されています。最後に勧告されている内容は非常に吟味されたものですが、実行はかなり難しい面が多く施設内での十分な議論が求められます。

1. 照射方法の選択
 もっとも重要な決定項目は、①使用するエネルギー、②治療距離、③体位(AP、LAT、またはその複合)、④線量率である。
使用するエネルギー選択の際の一助として、より高いエネルギーがより線量分布の均一化に役立ち、体位がLATの場合は特に高エネルギーが線量分布の向上に役立つ。ここではビルドアップは考慮されていないが、ビームスポイラーや電子フィルタ等のcompensatorにより線量分布の向上が可能である。また、Pulmonary toxicityと線量率に因果関係があることは証明されており、注意が必要である。

2. 基本的なファントムでの測定
 測定対象は水とし、最小サイズは30 x 30 x 30cm3とする。このような小さなファントムは散乱の欠如のために補正が必要。一般的な線量測定は次の3ステップからなる。
① 大照射野、ファントム(通常使用するような大きさ)を用いてビームの吸収線量への校正を行う。
② 全ビームが十分にカバーできるようなファントムによって得られた線量、かつ十分な散乱が得られる深いファントムでの線量に①の線量を変換する。
③ 個々の患者において、患者の厚み等を加味して補正を行う。
すべての照射野の外側に5cmのマージン、測定器配置の最大深より下に10cmのファントムを考慮すると、およそ200 x 50 x 40 cm3(400kg)となり、実際にファントムを用意することは難しい。ゆえに②を測定しようとすると、①に換算係数を用いて②を算出することとなる。
 測定器はエネルギー依存性の少ない検出器、基本的にトレーサブルな電離箱を用いる。照射野が大きい場合、照射されるケーブルも長くなり、放射線誘発電流も多くなる。この割合は、1ccの電離箱において1mのケーブルが照射された場合に、電離電流の1-2%に相当する。これを考慮するためには、照射されるケーブルを最小とすること、ケーブル内の電子平衡を十分担保するためにケーブルをビルドアップ材質でカバーすること、なるべく小容積電離箱は使用しないことがあげられる。
 線量の校正においては、
① 距離および照射野サイズは大照射野に合致させる。
② 大照射野における線量計のfactorを使用する。
③ 最小でも30 x 30 x 30cm3の水ファントムを使用する。
④ 測定値は十分な散乱状況下の値に補正する。
⑤ 遮蔽のためのトレイやcompensator、ビームスポイラーを日常使用するのであればこれらを装着して線量校正を行うべきである。
 大照射野において距離の逆二乗テストは実施すべきであり、計算値からの乖離が2%を超えるようであれば線量の校正は多くの距離で行うべきである。
 
3. In vivo測定
 In vivoでの測定はTLD等を用いておこなうべきである。その際、十分なビルドアップ材質を確保することが重要である。

 一方でFaiz M. Khanが書籍The Physics of Radiation Therapyの中でTBIの計算式を示している。
D/MU = k x TMR(d, re) x Sc(rc) x Sp(re) x (f/f’)2 x OAR(d) x TF
D: dose in cGy, k: 1cGy/MU(基準点)
TMR(d, re): 深さd, 等価照射野サイズ(re)におけるTMR
Sc(rc): アイソセンターに投影された照射野サイズにおけるコリメータ散乱係数
Sp(re): 等価照射野サイズにおけるファントム散乱係数

もちろん、アイソセンターにて取得されたTMRのデータや距離(f)の逆二乗が利用可能かどうかは検証する必要があるが、ここでは誤差が2%以内であればTBIで用いられるかもしれないと記載している。

 測定を行う際の参考としたい。

詳細は論文で。