徒然日誌

映画、演劇の感想はおそらく例外なくネタばれ注意!です。

タンゴ・冬の終わりに/シアター・コクーン

2006-11-11 | 演劇等(舞台もの)
蜷川幸雄氏演出の「タンゴ・冬の終わりに」という舞台、堤さん出てるし、秋山さん出てるし、毬谷さん出てるし…ということでどうしても見たいっ!と思いながらも、チケットメイト、堤 真一の会等々で全敗、おろおろしてるうちに各プレオーダー系もし損ねて、もうあかん!てな感じで諦めモードだったときに友人からの天の声が!というわけで、一緒に観劇と相成りました。ラッキー。

舞台は日本海側にある小さな映画館北国シネマ。突然引退宣言をした俳優 清村 盛は、弟が経営する小さな映画館へと引きこもっている。妻ぎんとともに。そこへ昔の俳優仲間であった名和水尾とその夫 連がやってくる。そして、水尾が見たものは、すっかり狂気にとりつかれた盛の姿だった。かつて水尾と盛は不倫関係にあった。しかし、そんな水尾をこの辺鄙な場所に呼び出したのは、盛の妻 ぎんだった。そして、彼らの関係は…。

幕が開いてまずはあまりの人の多さに驚く。舞台の上にたくさんの観客がいるのだ。映画館の客席。階段状になった古い客席で、若者達が映画を観ながら騒ぎまくっている。…いやいや、映画って観てるとき騒ぐことってないでしょ…とかって突っ込むのはいけないんだろうけど(苦笑)。オートバイに乗った旅をする若者たちの話。そして、最後には悲惨な結末が。観客の反応を見ているだけで、それがわかるって結構すごい(笑)。観客後ろから映画は上映されているのだけど、ライトの具合が微妙にゆらゆらしているのは、もしかしたら本当に映画を上映していたのかも。客席をちらっと振り返ったけど、そこらへんはよくわからなかった。最後の方でエンドロールは舞台側にも流れていたから、もしかしたら、舞台側にも映し出されていたのか?なんて思ってみたり。とすると、この幻の観客は、もしかしたら自分たちも含めてすべての観客をさしているのか?とかさ。上映されている映画はパンフを見ると「イージーライダー」らしい。観たことがないので、よくわからないけど。

この舞台、84年に上演されたものの再演らしい。当時とはだいぶ時代が変わった分だけ、テーマ自体は変更されているのだろう。では、何がテーマなのだろう?
突然引退宣言をした俳優の清村 盛。引退宣言をしたくせに、カムバック要請を待っている。いつまでも自分は必要とされていると思っている。後ろ向きに内にこもりながらも。映画館のシートにうずくまっている姿は、妙に他人を拒絶しているように感じる。
彼の求めているものはいったい何なのだろう?孔雀の象徴するところは。美しいもの、美しく見えるもの。見せ掛けの。欺瞞?疑惑?嘘?虚像?夢を追い求めていた少年時代、孔雀は夢の象徴かな?夢、自分の欲するもの、手を伸ばしても届かないもの…。夢を手に入れたとき、自分の思い描いていたものとのギャップに思い悩んだ…それが、引退の背景?とかね。うーん、想像力だなぁ!(爆) ギャップ、実像と虚像の違い。それが最後に登場する孔雀の正体。孔雀は俳優である自分自身。夢をつかんだ自分自身。実像と虚像。孔雀が偽者であることを指摘しなかったぎんと指摘した水尾。つまりは、本当の盛の姿を指摘した人、しなかった人。というより、本当の盛の姿が見えていた人、見えていなかった人。水尾と愛し合うことで盛は本当の自分を見出していったのかも。そして、水尾は本当の盛の姿に気づいていたのかも。だから、一瞬でも自分を取り戻すことができたのか?なんてね。
自由を追い求めて放浪した挙句、悲惨な最期を遂げる「イージーライダー」こそが、盛の象徴なんだろうね、やっぱり。盛、というか、青春、若者、自分自身?それを熱狂で迎える幻の観客。それは情熱という名の若さ、なのかも。

さてね。舞台は古い映画館の客席で蜷川さんお得意の階段形式。こういう舞台は見やすくていいよね?(笑) 蜷川さんの舞台で思うことは、配置の美しさ。どのカットをとっても絵になる。そして照明の美しさ。最後の桜のシーンは圧巻。桜とも雪ともとれる紙ふぶき。最初にわぁーっと客席の方まで風で煽っておいてあとは舞台上だけにハラハラと舞うように落とす。その計算された美しさに感動(笑)。そして、幻の観客の熱狂で始まり、また熱狂で終わる。最初に妊婦だった女性は最後には子供を生んでたりして芸も細かい(笑)。孔雀のシーンは孔雀の声がうるさかったのと、孔雀がちとちゃちかったのが残念。羽根の舞い方は美しかったから、それだけに絞ったほうがかえってよかったかな。孔雀の姿は観客の想像に任せてもよかったかもね。

さてさて。出演は清村 盛役が堤 真一さん。いやー、すごいね、堤さんは。本当に頑なな子供のようだったよ。シートにうずくまった背中が。最初は普通だったのがだんだん子供に戻っていく様子は、なんだか怖いくらい。ただ、今回は少し姿勢が悪かったのが…。堤さんってすごーく姿勢のいい人なので、その意味を図りかねた。脱力、だろうか?後ろ向きの象徴だろうか?あるいは狂気。この人の声は聞きやすいし、心が子供に飛んじゃってる様子はかわいいとさえ思えたのが不思議。
妻ぎん役には秋山菜津子さん。この人も姿勢がよくってねー。かっこいいよねー。秋山さんの語りで始まって語りで終わる印象さえある、かなり重要な役。えー、なんで3番目なの?と思わずにはいられない。その存在感が特に。ま、役の重要度で言ったら、やっぱり真実の姿を気づかせる水尾の方が上なのかもだけど(…ってそれは私の感じたストーリーか)。最後、自分の目の前の通路を通って会場から出て行くのだけど、秋山さんはトレンチコートが似合う!(笑) 盛に対する愛情で怖いくらいだったけど、秋山さんらしい感じだったよね。
水尾役は常盤貴子さん。最初に西部劇のヒロインの話の振りから白いワンピースで登場!っていうのはなかなかインパクトがあってよかった。立ち姿がきれいだしね、やっぱり絵になる女優さんって感じ。だけど、声がねー。舞台向きぢゃないよねー、この人。特に声を荒げるところ。映画とかテレビとか普通に見ててもそんなに好きではないにしても気にはならないんだけど、舞台で声をしっかり出そうとすればするほど割れちゃって何を言ってるのかよくわからん。もともとの声が悪いせいだと思う。発声もちょこっとよくないかも、もしかしたら声の出し方次第で治るのかな?…ま、そんなこともあるんだけど、盛を愛するあまりに興奮しすぎてちょこっと空回りしちゃってないかなー、常盤さん。と思わなくも無い。一度演技してる自分の声を聞いてみたらいいのに。出し方もそうだけど、抑え方とか、自分の持ってる声をうまく使う方法とかわかると思うんだけど。あの演技はちょこっといただけない気がする。とはいえ、決して彼女が下手なのではなく、まわりが上手すぎる、というのもある。まわりの役者からレベルが一段下がってるせいで、そんなに悪くないのかもしれないけど、少し悪く見えてしまう、そんなからくりかな。ステップアップのチャンス!(つうか、余計なお世話か(苦笑))
盛と水尾のタンゴ、かっこよかった。堤さんと常盤さんってやっぱり絵になると思うんだよねー。だけど、今いちタンゴのときも堤さんの姿勢がちょいと気になった…というか、二人の空間?離れ具合?かな。タンゴってもっと接近しないかな、普通。それも計算された演技なのか?(笑)
水尾の夫 連役は段田安則さん。いやー、おっさんだったなー。ちょっとくたびれた感じ、かなー。水尾はなんで連と結婚したんだろう?自分を包んでくれる愛情とか、そういうこと?好きだったのは盛だけど、盛と別れて安らぎを求めたのかな?水尾に対するしつこいほどの愛情は感じたし、でもくたびれた感が強かったのは、いい加減そんな関係に本当に疲れていたのかも?とか。すごい猫背だったんだよね。段田さんのすごいところは、なんであんなに食べながらきちんとセリフがしゃべれるのか、ってところ。そして、さりげない動作が面白い(笑)。この人、やっぱりうまいよねーと思わせる自然さ。
盛の弟役は高橋 洋くん。高橋くんは軽快でいいね。パワーがあるし、オーラもある。表情も豊かだし、いいよね。しかし、相手役の信子役は毬谷さん(笑)。この歳の差はいかに?(つうか、天保もこの二人がカップル役だったか?(笑)で、その毬谷友子さんの役どころに驚いた。信子という役は本当に出番も少ないのだけど、セリフがもっと少ない(苦笑)。地味な役でなんで毬谷さんなの?という疑問が。もったいないよー。毬谷さんの使い方、間違ってない?と。毬谷さんの魅力は、その声にあるのだ。あの役じゃ、全然彼女の魅力が出し切れないじゃんかー。まあ、地味ながらそれなりに存在感は示していたし、それは毬谷さんの見せ所なのかもしれないけど、ちょっとね。個人的に言わせてもらえば、後半変身したところはもっともっとかわいくしちゃってよかったかも。ギャップは大きいほど、あの場合いいんじゃないかなぁ、なんてね。
あとは新橋耐子さん、いい味出してたし、叔父さん役の二人がまたよかった。テンポとリズム。全体でも、いい流れを作ってたと思う。
月川くん、中学生くらいにしか見えなかった。あの子、いくつ?って思ったら、芸能活動20周年って(苦笑)。少なくとも20歳は越えてたのね(爆)。

あー、あかんあかん。書き出したら止まらないらしい。
そんなわけで、いろいろと考え出したら止まらないなんか奥行きのようなものを感じた舞台だった。
観に行けてよかったなー。ありがとう!




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4 コメント

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細かいところまで・・・(^^; (Okky)
2006-11-19 09:33:11
 おはよう~

 舞台に関しては初心者のOkkyです。(^^;
コンサートの後もそうですが、舞台を観た後に色々とお喋りをするのは楽しいですね。
僕はいつも聞き役ですが、相手が夢中で話しているのを見ているのも楽しいものです。(^^)
まあここ数年は年に何度かお芝居を観ているので俳優や演出家の名前と顔も何人かは覚えましたが・・・なかなか話しについていけません。(^^;
今回は初めてsachiさんと一緒に観劇出来て、感想を直に聞けたのは良かったと思います。
でもみんなホントに細かいところまで見ていますね。
僕の連れの人も自分と同じように(それ以上かな?)舞台が分かる相手がいて、いつも以上に喋っていましたね。(^^)
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どうもっす。 (sachi@管理人)
2006-11-22 22:32:55
Okkyさん、こんばんは。
先日はどうもありがとうございました。楽しかったです。
舞台のあとに感想を言い合うのはとても楽しいですね。ディスカッションは好きなほうですので、意見交換ができるのは楽しいと思います。
お連れのAさん(仮名(笑))とは好みがすごーく似ていることがわかったのでまた是非ご一緒したいっすね!本当に細かく見てるなーって思いました。実は妊婦の件は、私は気づいてませんでした(爆)。

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こんにちは (よーりん)
2006-11-28 19:03:22
色々、検索していて、こちらにお邪魔させて頂きました。
私も興味あるキャスティングだったので、観たいと思っていましたが、都合がつかず、断念してしまいました。
常盤さんは舞台向きではなかったという話はチラホラ聞きますが、このブログを読んで、やっぱり観たかったなぁと思いました。
読み応えのあるブログでした。
ここではないのですが、TBさせて頂きました。ちゃんとTB出来ているといいんですが…。
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はじめまして。 (sachi@管理人)
2006-11-30 00:49:36
よーりんさん、いらっしゃい。
なんか嬉しいコメント、ありがとうございます。
結構長文で力が入っちゃうほど、みごたえのある舞台だったんですよ。残念でしたね。
常盤さんはねー。最近、それでも舞台の仕事を結構やってるみたいなので、もう少し経ったら、また違った味が出るかもしれませんよね。共演者たちから刺激を受けてほしいですね。

コメント、ありがとうございました♪
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