新潟久紀ブログ版retrospective

財政課29「掟破りの異動内示」編

●掟破りの異動内示

 中期財政計画の策定と当初予算編成作業を終えて、その記者発表が過ぎると、待ち構えている年度最後で1か月に及ぶ長丁場の2月議会対応が大変なのではあるが、後は暦を日めくりするように例年3月半ばの異動内示の日を意識するようになる。
 係長格の財政調整員という役職も3年を経たところであり、私くらいの年頃では大抵2~3年の在職で異動することを考えれば、いよいよ適時の到来だ。当時の財政課は、各部局の予算査定や懸案事項の集積地であることによる膨大な仕事量に伴う残業の多さに加えて、右肩上がりの経済成長に伴う税収の安定贈嵩基調の時代をとうに過ぎて、減りゆく財源の一方で肥大する行政ニーズとの調整の難度が年々高まっており、体調を崩す職員が出てくる状況になっていた。特定職員への過重を避けるための人事の健全な循環という意味でも長くは配属させられないのではないという傾向もあろうと、手前勝手に胸算用したものだ。
 3年務めた係長職相当である財政調整員には"居成り"であったので、主任で財政課に配属されてから通算7年。思い起こせば、最初に配属された総務班では、異例の特命対応を課せられた末に部長から叱られるという不条理で幕を開け、2年目には職員人生一二を争う「公共の場での土下座事件」でトラウマが刻まれ、3年目は行財政の基本中の基本であり最もオーソドックスな制度である交付税の担当として、腰を据えて仕事できるかと思いきや、地方財政制度の大改革に見舞われてイレギュラーな経験となり、4年目の土木部予算担当では、最重量級の懸案を引き継いで着任早々猛ダッシュの挙げ句、大豪雨水害に大地震、豪雪と続いて担当する土木部予算の査定でてんてこ舞い、5年目から7年目は、知事の交替に伴いクローズアップの極まった中長期財政計画の初策定、地方公務員なのにメガバンクとの金融交渉に関わり、最後は大赤字が続く県立病院担当部局との大喧嘩だった。特に最後の病院局とのついこの間まで繰り広げられたやり取りは後味が悪い。「赤字の立て直しを理屈通りにやれると思うものなら財政課のあんたがここに来てみてやってみればいい」との相手方の課長補佐の捨て台詞は消えずに耳に残っている。
 しかし、何もかもが過ぎた事だ。もう異動すれば一義的には関係の無い話になるのだ。同じ職場に、しかも過酷な財政課に、続けて7年勤務は長いものだ。それだけでも周囲の哀れを買うのだから、次の職場は希望を叶えてやりたい、そうでなくても、少しは今より楽な職場で元気回復させたい…というのが"人事"の親心ではないか…と勝手な思い込みが高まる。県庁は多種多様な業務分野がひしめくいわば「仕事のデパート」であるし、できれば未経験の分野でリフレッシュしたいもの。過去の財政課OBで、財政調整員で転出して財政課に戻った人は特殊事情下での一名しか居ないことも調べあげてある。ここで転出すれば二度と財政課に戻ることもあるまい。この春から先は明るい気持ちで臨める仕事生活が待っているのだ。
 遂に異動内示の当日。例によって課内は僥倖を求める気持ちを皆が胸に秘めて静まりかえる。比較的早い段階で私が呼ばれた。想定どおりとは言え、毎度気分が高揚するものだ。意気揚々とする気持ちを押し殺して努めて冷静に課長の前に歩み寄って直立不動の"気を付け"をした。
 「あなたは4月1日付けで病院局総務課の経営企画員になります」。
 課長の発言に耳を疑い、頭の中が一瞬パニックになる。当初予算を査定した部局には異動しないという暗黙のルールがあった筈ではなかったか。なぜならば、財政課査定担当というのは、1月過ぎまでギリギリと喧嘩腰のやりとりをして部局の予算要求内容にケチをつけ…いや、根拠と妥当性をもって指摘を重ね、部局にとっては少なからず不平不満を必ず残してしまうのが必然の仕事なのである。それは査定担当への属人的な遺恨にすらなる。そんな酷い人間関係が和らぐ間もなく当該の部局に異動になることは、もはや人道的にも問題があるとさえ言えるのではないか。
 どうしてこんなことになったのか。言い渡した目の前の課長は国から出向してきている若いキャリア官僚であり、我々プロパー職員の個別の処遇について分かるはずもなく、問い質すのも詮無きこと。呆然として踵を返し、肩を落として席に向かい始める私に、課長は慰めか励ましかの言葉を掛けてくれたようであるが、もう耳には入らない。席に着いたら着いたで周りの同僚から異動先を尋ねられて一々答えるのさえも心痛で、「それはないよなぁ」と同情の声がけも何の気休めにもならない。
 呆然とする中で、病院局課長補佐からの捨て台詞が改めて思い起こされる。「赤字の立て直しを理屈通りにやれると思うものなら財政課のあんたがここに来てみてやってみればいい」。やらせたいならやって見せてみろとは山本五十六の世界だ。県庁一二を争う苦難の財政課から離脱しても、更なる難局が待つ病院局という職場へ送りこまれるとは。今まで幾度となく想定外の展開に見舞われる度に「気持ちの切り替えの早さが取り柄」と記してきたが、流石に今回はキツい。この日一日は終日精神的に立ち直れず、有給を取って帰宅したのだ。

(「財政課29「掟破りの異動内示」編」終わり。「財政課30「【番外編】財政課担当エレジー(その1)」編」に続きます。)
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