百億の星ぼしと千億の異世界

SF、ファンタジー、推理小説のブログ。感想を出来る限りネタバレしない範囲で気ままに書いています。

上田早夕里 『華竜の宮』(2010)

2012年10月13日 | SF 地球

SAYURI UEDA The Ocean Chronicles
Cover Illustration◎山本ゆり繪
Cover Direction & Design◎岩郷重力+S.I
(早川書房 124653)


ホットプルームの活性化による海底隆起で、多くの陸地が水没した25世紀。未曾有の危機と混乱を乗り越えた人類は、再び繁栄を謳歌していた。陸上民は残された土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は海洋域で<魚舟>と呼ばれる生物船を駆り生活する。陸の国家連合と海上社会との確執が次第に深まる中、日本政府の外交官・青澄誠司は、アジア海域での政府と海上民との対立を解消すべく、海上民の女性長・ツキソメと会談する。両者はお互いの立場を理解し合うが、政府官僚同士の諍いや各国家連合の思惑が、障壁となってふたりの前に立ち塞がる。同じ頃、<国際環境研究連合>はこの星が再度人類に与える過酷な試練の予兆を掴み、極秘計画を発案した――。最新の地球惑星科学をベースに、地球と人類の運命を真正面から描く、黙示録的海洋SF巨篇。


いやぁー……当初は"な~んだ、海洋SFか~……"と思いつつも、一度読み始めたらやめられない止まらないかっばえびせん状態のビターSFでした。凄いなコレ。緻密に構成された見事な世界観、これでもかと次々繰り出される新たな仕掛け、交渉上の裏読みと駆け引き、謀略、裏切り……恋愛無し、正義感有り。タイフォンとツェンの別れ、ツキソメと育て親エドとの物語……胸が締めつけられるシーンもありますが、主人公青澄とツキソメ、そして二人を取り巻くさまざまな人々の、時にストイックなまでの利他主義。理想を掲げながらも現実とのギャップに苦しむ青澄。そして予想外のラスト。うーむむ……ビターSFだから、こういうエンディングもアリです。名作!

ジェイムズ・P・ホーガン 『揺籃の星(上・下)』(1999)

2012年10月10日 | SF 地球

JAMES P. HOGAN Cradle Of Saturn
カバーイラスト=加藤直之
カバーデザイン=矢島高光
(創元SF文庫 SF ホ 1 24)


地球はかって土星の衛星だった!? 土星の衛星に住むクロニア人科学者たちは、地球の科学者にとって到底受け入れがたい惑星理論を展開する。太陽系は何十億年も同じ状態を保ってきたのではない。現に今、木星から生まれた小惑星のアテナは突如彗星と化し、地球を襲おうとしているのだと。物議を醸したヴェリコフスキー理論を大胆に応用、宇宙の謎に迫るハードSF新三部作開幕。

「年は三十を超えたくらいで、繊細な顔立ちは、ほどよい力強さと、女性らしい柔らかさとを兼ね備えていた。ファッションモデルの事務所や美容業界の広告主だったら、大陸中をめぐってでも見つけたいと思う素材だろう。漆黒の髪は肩までのびて、先端にすこしだけウェーブがかかっている。肌は澄んだ暗褐色で、そこにおさまっている、薄い灰色の、オパールによく似た両目は、はじめは肌だの色と合わない気がするのだが、慣れてくると不思議なほど魅力的に感じられるようになる。まるで、おとぎ話に出てくるアラビアの王女か、ラージャ姫のようだ。」と描かれているクロニア人のセリーナと、「髪は明るい茶色で、ほとんどオレンジ色に近く、いくらブラシをあててもウェーブをかけてもどうにもならないほどがっちりと縮れていた。そばかすのある骨張った顔をさらに強調しているのが、つんと立った鼻と、とがった顎と、まっすぐな口だった。体つきは小柄で、腕や足も細く、体質のおかげか、一日中食べ続けても、それがぜんぶエネルギーに変わるので、これっぽっちも体重が増えることはない。仕事に生きる女であり、その意味では優秀だった。もともとはハーヴァード大学の放射線物理学の研究者で、キーンと出会ったのは、彼がプラズマ物理学の研究をしていたサンディエゴのゼネラルアトミック社からハーヴァードへ移って理論研究をはじめたときのことだった。ヴィッキーは、キーンとだいたい同じテンポでアカデミックな科学界に幻滅し、キーンが大学を離れたすぐあとに、彼を追って現実世界へもどり、南のテキサスへ引っ越して、のちにプロトニクス社となる事業を立ちあげた。よちよち歩きのときから自分ひとりで育てた、ロビンという十四歳の息子がいるので、ヴィッキーにとってのキーンは、仕事の同僚というだけでなく、息子の父親のような存在でもあった。」と描かているヴィッキーのどちからかを選ばなければならないとしたら、独立系会社の原子力エンジニアで、バツイチの主人公ランデン・キーンであるあなたはどちらを選びますか? これはそんなSF小説です(ウソw 初期三部作以来、久々にホーガンを読みました。カタストロフィSFのラストを面白かったー、などといったら不謹慎になりそうですが、迫力満点読み応え十分なのは間違いありません。読んでる間の数日間、この世界に浸れましたよ。あらすじにあるヴェリコフスキー理論というのを全然知らず、"ホーガンもまたずいぶんと大風呂敷を広げたもんだなぁ~w"などと思いつつ読了しましたが、下巻の金子隆一氏の解説を読んで納得。これは三部作のうちの第一部。次作『黎明の星』も早急に読まなければっ!

黒沼健 『失われた古代大陸』(1975)

2012年10月06日 | その他

カバー 真鍋博
(新潮文庫 〔草〕一六六A)


巨大な文明を誇りながらも、一夜にして忽然と消えたといわれる謎の大陸〝アトランティス〟と〝ムー〟。この両大陸よりも更に古いとされる〝レムリア〟。これら謎の古代大陸の真相を、先史考古学、人類学、各地に散在する伝説や遺跡をもとに究明してゆく異色の物語。他に、神秘の一語につきる地下王国の世界、メキシコの地中を貫く大トンネルなど興味あふれる数々の物語を収録する。

 アトランティス、ムー、レムリア、これらはもうファンタジーの世界といってもいいくらいの憧憬の異世界です。これらの本に必ずと言っていいほど重複引用されるジェームズ・チャーチワードの"ムー大陸"の研究書。地球空洞論までいってしまうとついてはいけないものの、大変面白く読めました♪

梶尾真治 『クロノス・ジョウンターの伝説』(1994)

2012年10月03日 | SF 地球

左:カバーイラスト Giles A. Hancock/右:カバーイラスト=森流一郎 カバーデザイン=安彦勝博
(2003/ソノラマ文庫 か 2-4)

『新編 クロノス・ジョウンターの伝説』

イラスト ノグチユミコ
デザイン 安彦勝博
(2005/朝日ソノラマ)


 もしも過去に跳べることができたら、今は亡き、愛する人を救いにいける。すでに滅びた物を目の当たりにできる。それだけでなく、過去の世界で、新たな恋に落ちるかもしれない。
 ついに「クロノス・ジョウンター」という機械が開発され、誰もが夢見るそれが現実となったとき、そこにさまざまな物語が生まれた。
 さあ、「時」と「おもいで」の一流シェフの腕前をじっくりとご堪能を。


 泣きましたよ。ええ、泣きましたとも。「吹原和彦の軌跡」に。2話目「布川輝良の軌跡」も、4話目「鈴谷樹里の軌跡」もちょっぴり泣きました。どれも甲乙つけがたい出来ですが、でもやっぱり傑作は1話目かな。だってこの1話目だけは(読んだ方ならわかると思いますが)エンディングが他の二つと違うんです。「吹原和彦の軌跡」は間違いなくタイムトラベルものの傑作ですね。エロスではじまった愛がエロスを内包しつつもアガペーの愛に昇華されるところに胸打たれます。
 2度目の文庫化時、追加収録された「<外伝>朋恵の夢想時間」が『新編 クロノス・ジョウンターの伝説』ではオミットされているのは正解だと思います。読後感が希薄だから。代わりに『新編 クロノス・ジョウンターの伝説』には「時の力と愛の力 ――あとがきに代えて――」が収録されています。
 SFファンってもし誰かに面白いSFとかお勧めのSFを訊ねられた時に、ハテ? と戸惑ってしまうんですよね。このSFあのSFは確かに面白い……でもこの人に理解できるだろうか? と。そんな時にこの『クロノス・ジョウンターの伝説』なら、自信を持ってお勧め出来ますね♪ 人を好きになった時、誰もが感じるであろうあのドキドキ感、せつない感、ワクワク感、そして誰かを大切に思う気持ちが全編に満ちています。さらにSFファンなら読み進めてニヤリとしてしまうであろう、随所で繰り出される名作へのトリビュートのおまけ付。

林譲治 『ウロボロスの波動』(2002)

2012年10月01日 | SF 複数舞台

JYOUJI HAYASHI The Ouroboros Wave
Cover Illustration◎緒方剛志
Cover Design◎岩郷重力+Wonder Workz


西暦2100年、太陽系外縁でブラックホールが発見された。その軌道を改変、周囲に人工降着円盤を建設し、全太陽系を網羅するエネルギー転送システムを構築する――この1世紀におよぶ巨大プロジェクトのためAADDが創設されたが、その社会構造と価値観の相違は地球との間に深刻な対立を生もうとしていた……。火星、エウロパ、チタニア――変貌する太陽系社会を背景に、星ぼしと人間たちのドラマを活写する連作短編集。


ハードSFっ! ハードSFの醍醐味は読み手を置き去りにするところにありますっ! そういう点でこの『ウロボロスの波動』はかなり置いてきぼりを喰らってしまうほどのハードさですw でも面白かったです。初めて読んだ林譲治作品だったんですが、図面があるにもかかわらず本文と照らし合わせてもわかったようでわからないところがあったり……orz こちらの読解力がないのか、ついていけるだけの頭がないのか……orz でもでもでもでも、そういった難解な点があるにもかかわらず面白かったです♪ AADD(人工降着円盤開発事業団)……解説の後ろに小川一水さんのコラムがあって、そこに「人工降着円盤ってなに。」って書かれていますが、まさにそこなんです! 一体何?w

「ウロボロスはCSS建設のための足場のような存在だ。半径二〇二五キロ、幅五メートルの環状構造物は、仮に直径一メートル前後に縮小すれば、リボンの幅は原子が一〇個並ぶほどにすぎない。」(本文)

で、CSSっていうのはチャンドラ・セカール・ステーションの略なんですけど、ここ読んで"ははーん、なるほど"なんて思う人いるんでしょうかね。

個人的にハードSFってホーガンしかり、登場人物の感情模写が希薄なものが多いっていう固定観念があって、この『ウロボロスの波動』もまさにそんな感じでした。子どもの頃はこういうの読むの苦手だったんですが、今は逆に宇宙空間にある人工物やらをリアルに感じられるので結構好きですw 特にこの2123年から2171年までの6つの宇宙史連作もの短編集は、各話読み切りは読み切りなんですが登場人物が重なって出てきたりしもし、ストーリーもしっかりしていますので読み応え十分。『ストリンガーの沈黙』(2005年)、『ファントマは哭く』(2009年)と続くのが嬉しく、必ず読みます。あと表紙の緒方剛志さんのイラストがとてもいい感じですね(ハヤカワSFシリーズ Jコレクションとはカバー・デザインが異なります)♪