ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

「学校の怪談!」 2話

2023-07-15 10:28:43 | あの頃
 夕食後のくつろいだ時間、
お茶の湯飲みを片手にし、もう一方にリモコンを持ち、
面白そうなテレビ番組を探していた。
 すると、「学校の怪談」が話題のバラエティーが映った。
それを、ボーッと見ながら、
似たような学校での体験を思い出した。
 

 小学5、6年の担任は、
大学を出たばかりの男の先生だった。

 近くでアパート暮らしをしていた。
休みの日に、友達何人かで突撃訪問した。
 「よく来た。よく来た」と、
敷いたままの布団をたたんで、
私たちを部屋に入れてくれた。

 そんな気さくな先生が、
宿直当番の日に、男子数人を夜の学校へ招いてくれた。
 
 暗くなるまで、校庭で野球をした。
その後、学校のお風呂に入れてもらった。
 夕食は、『小遣いさん』が用意してくれたことを、
鮮明に思い出した。

 宿直室という和室の部屋で、
ワイワイガヤガヤと時間を過ごした。
 その時、「学校の怪談」が話題になった。

 校舎は鉄筋コンクリートの3階建てだった。
3階の一番遠い所にトイレがあった。
 「そこに幽霊が出る」と、
子ども同士で言い合っていた。

 それを聞いた先生が、
「本当に幽霊が出るかどうか、見に行ってこいよ」
と、言い出した。
 話し合いの結果、
2人1組で順番に3階の角にあるトイレまで、
幽霊がいるかどうか、見に行くことになった。

 私はSちゃんと2人で、最後に出発することになった。
暗い廊下を、懐中電灯1つで進んだ。
 恐くて、足がなかなか進まなかった。

 まだ半分も行ってない時、
Sちゃんが小声で言った。
 「行ったことにしない?
・・・ここにいて、しばらくしたら戻ろう!」。
 Sちゃんの足は、ガクガク震えていた。
私は救われた。
 すぐに答えた。
「ウン! そうしよう!」。
 
 暗やみで、しばらくの時間を耐えてから、
ゆっくりみんながいる宿直室へ戻った。
 「幽霊、いなかったよ」。
2人一緒に口をそろえて言った。

 その後、暗い廊下やトイレの中の様子を、
報告し合った。
 私もSちゃんも口裏を合わせることに、
必死になった。
 背中にいっぱい汗をかいた。

 思い出すだけで、今も少し心が痛む。


 校長として勤務したS区は、
昭和20年3月10日の『東京大空襲』で多くの犠牲者を出した。

 私が赴任した小学校の周りにも、
沢山の焼夷弾が降った。
 逃げる人々が校舎内や校庭の防空壕へ避難した。
しかし、校舎も防空壕もB29爆撃機の攻撃で焼かれた。
 多くの方が折り重なるようにして亡くなった。
 
 戦後、同じ場所に校舎は再建されたが、
私が赴任する数年前まで、児童が利用する正面玄関の床には、
人が焼け死んだ黒い焦げ跡が残っていたと言う。

 そんな無念な最期をとげた方々には、
大変失礼な話だが、許してほしい。

 そんな歴史がある学校である。
大空襲の犠牲者にまつわる「学校の怪談」が、
いろいろとささやかれ続けてきた。

 校長の私は、そんな話にまったく耳をかさなかったが、
それでもなんとはなく耳に入った。

 その1つが、心霊スポットであった。
校舎1階の廊下の角を曲がった辺りがそれだと言う。

 その角は、別棟の物置へ行く扉があり、
施錠を解くと、外へ出られた。

 その頃、校舎内での喫煙が禁止になった。
その扉から外に出た物置の横だけが、喫煙所になった。
 愛煙家は、わざわざそこでたばこを吸った。

 まだ私もたばこを止められずにいた。
1日に数回、その喫煙所まで行っては煙をはいた。

 それは、夏の蒸し暑い日だった。
遅くまで仕事に追われた。
 帰り道での歩きたばこは止めようと、喫煙所へ向かった。

 学校には警備員さんだけで、もう誰も残ってなかった。
薄暗い廊下だった。
 歩きながら、心霊スポットを思い出した。
決して信じていた訳ではない。
 なのに、突然冷たい空気を全身で感じた。
鳥肌になった。

 そんな馬鹿なと思いつつ、
廊下の角の扉から外へ出て、
物置横でたばこをくわえた。

 その時だった。
閉めたはずの扉が、バタンと音をたて閉まった。
 瞬間、薄暗い先の扉をパッと見た。
人影などあるはずもなかった。
 静かだった。 

 急に恐くなった。
でも、「そんな馬鹿な!」と心を落ち着け、たばこを吸った。
 風もない。
他に残っている人もいない。
 なのになぜ扉の閉まる音が・・・。
ドキドキ、ドキドキが止まらない。

 まだたばこは半分も残っていたが、
もみ消した。
 恐る恐る扉に近づき、ノブを回して廊下へ戻った。
しっかりと施錠し、校長室へ向かった。
 また、一瞬冷たい空気が全身を通り過ぎた。
鳥肌がたった。
 
 まさかまさかと思いつつ、学校を後にした。
駅までの道は明るく、人々が行き交っていた。
 やっとドキドキを忘れた。

 この体験は、今日まで封印してきた。
きっと私の思い過ごしと、今も信じている。
 



      アジサイは 夏の花
                   ※次回のブログ更新予定は7月29日(土)です

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