ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

カルルス温泉 高1の夏

2023-04-15 12:43:48 | あの頃
 11日は私の誕生日だった。
ついに後期高齢者入りである。
 それを理由にし、今も姉が勤務する登別温泉の旅館に、
一泊することにした。

 登別は、車で小1時間程度だが、
なかなか足を向けることがない。
 久しぶりに名所『地獄谷』でも見学しようと、
早めに出かけてみた。

 行ってみると案の定、すぐに興味が薄れた。
チェックインまでの時間を潰す策を探した。

 思いついたのは、
登別温泉からさらに山奥に10キロ弱の
「カルルス温泉」だった。

 この温泉は伊達に移った年の秋、
日帰り入浴して以来だから、10年ぶりになる。
 数件の温泉旅館と近くにスキー場があるだけだが、
辺りの様子をみようと車を走らせた。

 オロフレ峠に向かう道路から、
『カルルス温泉』の表示に従い左に曲がった。

 すぐ目に飛び込んできたのは、
玄関ガラスも窓ガラスも割れ、
所々は窓枠もはずれた廃墟と化した旅館だった。
 その無残さを直視できなかった。

 道を挟んだ向かいの温泉施設は、営業していた。
しかし、建物の外壁は何カ所も朽ちていた。
 さびれた温泉郷の印象を強くした。

 ゆっくりと車を進めてみた。
点在している民家も半数以上が無人で、
荒れ果てたまま放置されて・・・。
 営業している旅館はあったが。
人気はなく閑散として・・・。

 そんな様子を見ながら、助手席に座る家内に、
私は、言い訳がましく何度も同じことをくり返した。

 「昔のカルルス温泉はこんなんじゃなかった。
確かに昔も山間の温泉だったけど、
もっと活気があった。
 こんなんじゃなかったよ!」。

 言いながら、フロントガラスごしの山々と川の音が、
60年も前のことを、ふと思い出させた。

 それは中学3年の時、仲良しになった男5人で、
高1の夏にここを訪れた時のことだった。

 中学を卒業し、私たちは3つの違う高校へ進学した。
だから、夏休みに入ってすぐ、久々の再会を喜んだ。

 中学の思い出話で盛り上がった。
支笏湖のキャンプが話題になり、
「もう1度、テントで1泊したいね」と話が進んだ。

 「じゃ!この夏休み中に」と決まった。
誰からの提案か、どうしてそこなのか、
経過も動機も思い出せない。

 とにかく、お店からテントを借りて、
キャンプ場などないカルルスで、
2泊3日のキャンプをすることになった。

 終点のカルルス温泉でバスを降りた。
それぞれ分担した荷物を背負って、
温泉宿の間を流れる川のそばを上流へと進んだ。

 平坦な河原があったら、
そこにテントを張る計画だった。
 30分は歩いただろうか、手頃な場所があった。

 川の音が絶えないそばにテントを張った。
風もない静かな山間だった。
 絶好のキャンプ場所に、5人とも興奮していた。

 何を食べたか忘れたが、やがて真っ暗になり、
5人でならんで毛布にくるまり、テントの中で横になった。
 なかなかす寝付けなかったが、いつしか雑談も終わった。

 ところが、深夜、テントをたたく激しい雨音で目がさめた。
暗やみの中、5人ともじっと寝ていた。
 雨は激しくなるばかりだった。

 ついに雨水がテントの隙間から入ってきたよう・・。
毛布まで濡れ始めた。 
 地面に置いたままのリュックにまで、雨水が迫っているみたい・・。
みんな起き上がって、ろうそくの明かりでテント内を見回した。
 ジワジワと雨水がテントに入ってきていた。 

 「しまった。テントの周りに溝を掘り忘れた」。
誰かが言った。
 シャベルなどない。
でも、ずぶ濡れ覚悟で5人ともテントから出た。
 1本の懐中電灯をたよりに、
豪雨の中、素手でテントの周りに溝を作った。
 「うまくいった!」。
雨水の浸入は止まった。

 濡れた服のままテントの中で朝を待つことになった。
横になれなかった。
 濡れていない場所を探して座った。
長い時間だった。
 「これもいい思い出になるサ」。
「そうだよ!」と言いあった。

 明るくなるのと同時に雨が上がった。
濡れていない着替えをもって、
バス停近くの温泉宿へ行った。

 事情を話し、温泉で温まりたいと頼んだ。
冷えた体が温泉の温もりで生き返った。
 湯船に浸りながら、5人は次第に饒舌になった。
ホッとする最高の時が流れた。

 お礼を言い、その宿を出る時、
ご主人からどこにテントを張ったか訊かれた。
 おおよその場所を説明した。

 すると、
「あそこは、危ない。ダメだ。
クマがでるところだ。
 テントをたたんで、
急いで戻ってきたほうがいい」。
 真顔で言われた。

 一気に湯冷めしたように、体中が固まった。
誰とはなく、目があった。
 そして、「はい!」の返事も忘れ、
濡れた服の包みを道路脇に放り投げ、
5人とも走りだした。
 
 息をきらしながら、川沿いの道を駆け上った。
テントまで着くと、熊が現れないことを願いながら、
帰り支度を急いだ。 

 それぞれリュックを背負い、温泉宿が見える所まで戻ったとき、
はじめて川の大きな音に気づいた。

 大きく息をはきながら、「どうする?」と。
「どこか違うところでもう1泊キャンプする?」。
 みんなの気持ちは一緒だった。
「次のバスに乗って、帰ろう」。
 反対する者はいなかった。

 何も話さず、バス停のそばに座って待った。
車内でもみんな無口だった。
 それは、それぞれ帰宅したときの、
1日早い言い訳で頭がいっぱいだったからだ。




エゾノエンゴサク ~水車アヤメ川自然公園

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