インドでワインと言えば、Sulaワイン。創業者のラジブ・サマントは、アメリカ・スタンフォード大学院卒、シリコンバレーでキャリアをスタートさせるも、今ひとつ馴染めずインドへ舞い戻りナシークの先祖代々の土地を利用して農業を始め、紆余曲折あってワイン作りにたどり着く。そしてフランス産のソーヴィニオン・ブランとカリフォルニア産のシュナン・ブラン他を植え、2000年リリースし、スーラブランドと共にナシークの地名はインドワインの産地として知られ始める。
その後、この標高600メートル、丘陵が広がり、大小の湖が点在し、肥沃な黒土のナシークに26ものワイナリーができた。
今、スーラワイナリーは、醸造所見学からテイスティング、レストラン&バー、お土産コーナーを完備した施設でちょっとした観光名所になっている。
ムンバイから3時間余りという距離ということもあって週末は家族連れで賑わう。都市部のレストラン&バーでは当たり前に飲めるとは言っても「ワイン」自体万民にとってさほど身近なものではない。多分、初めてのワインをこのスーラでテイスティングする人も多いのではないだろうか。
インドの輸送産業は目覚ましく進化しているのだけれど運搬された先の酒屋での保存状態がまだまだイケてない。北インドは夏場50℃くらいになるもんだから店頭で品質劣化。
ところが、このスーラはインド仕様、とでもいうのか高温の店頭でも味はほどんど変わらないとても頑丈なワイン。今回、スーラのワイナリーでスパークリングのロゼやシュナン・ブランを味わってみて分かったのは頑丈とは言え、やっぱり産地で飲む方が100倍美味い。
今回のワイナリー巡りの目当ては、スーラのような大きなワイナリーではなく生産量も少ない小規模のブティックワイナリー。
その一軒。最高の状態で飲んでもらいたいからムンバイ、バンガロールなど近距離地区での限定販売で、しかも酒屋よりも貯蔵設備の整ったレストランを中心に卸しているという。見初められて欧州のミシュラン星レストランにも卸したことがあるらしい。
ワインメーカー自身がぶどうの栽培から生産工程の説明から、テイスティングまで丁寧にやってくれる。白赤ロゼ、スパークリング、色々作っていても全てが美味しいということもないんだろうなあ、と多少期待値下げて臨んだのだがその全て堂々の安定した味。彼のぶどうの話と、そしてムンバイ大学でバイオテクノロジーを専攻して「何か人と違う道に進みたかった」ということでフランス、イタリアでワイン留学の後、このワイナリーが技術培養のために招いたイタリアのワインメーカーについて2年みっちり実践を学び今に至るワイン作りへの情熱話もワインの味をより引き立てるいい話だった。
インドワインの産地は、ナシークに次いでバンガロール近郊、ナンディヒルズも有名。さらにデカン高原のハンピにもいくつかあり、当初この一つのブティック・ワイナリーを訪れる計画であったのが「まだまだ質向上が課題のためワインツーリズムで人を迎える段階にない。是非いつかあなたのような方をお迎えできるよう頑張りますから待っていてくださいね」というインドらしからぬ謙虚な姿勢で丁重にお断りされた。
さていつごろ、行きごろ、飲みごろになるかしら。