日々の生活に追われていてすっかり大切な恒例イベントを失念していた。ジェーンの誕生日だ。平たく言うと彼女は前職での同僚でかつ人生の大先輩。でも「同僚」とか「大先輩」という名称にはとうてい当てはまらない大きな存在、ジェーンはジェーンなのだ。
ある時から我々の間では7月1日をQueen's Birthdayと名付けジェーンのご降臨を有志でお祝いする儀式。ジェーンという人物は、1960年~70年代にかけてNYでファッションモデル、その後ローマを拠点にイタリアのデザイナーのメゾンでスタイリストをしていた。そして名だたるファッション誌で名物ファッションエディターとして活躍。現在は、TVコマーシャル、映画のスタイリスト。アジア圏でファッションの世界で彼女を知らない人はまずいない。というかパリ、ミラノのデザイナー大御所で彼女を知らない人はいないと言っても過言ではない。
ともかく今年も元同僚たちの号令で急遽バンコクで誕生日パーティを催すことになった。出席者は台湾、香港、タイ、そして私がインドからかけつけ、誰に指示されるともなく全員が自然に役割を担う。スパ予約、ホテル手配、レストラン予約、車手配。そして私は酒係。
大好きなスコタイホテル
7月3日タイの総選挙でバンコクのレストラン&バーは二週間続きで週末は禁酒日Dry Day。事前にそれが分かっていたから私はデリー空港の免税店でシャンパンを購入して持ち込んだ。
夕食は、バンコクチームがアレンジした素敵なレストラン。酒は出せない、と分かっていながらもそこは超強引な我々とホスピタリティの国タイランド。美味しい料理は勿論のことワインもしっかり頂いて、真夜中まで過ごした。
ジェーンが「息子」と呼ぶFord。エル誌タイ版の編集長。
雑誌という世界、特に私たちが関わっていたファッション、ライフスタイル、カルチャー誌は、読者にある意味夢を与えるミッションがある。その現場は、想像を絶する汗、汗の体力勝負の作業。そして同時に非常に数字にシビアなビジネス。美しい服を来てパーティに明け暮れているように見えるのは雑誌側の見せ方で実はパーティに出かけてから会社に戻り、そこから仕事が再開。深夜作業は普通。
それよりもそんな一冊、一冊を作っていく作業の中で培われていくチームの中の絆は、恐らくどんな企業にもビジネスにもない深く強いものだと思う。そして、その世界に夢や希望を持って飛び込んでくる目をキラキラさせた若者たちと仕事をすることは、他の業種にない、大先輩たちをぞくぞくさせる素晴らしい経験。
ま、ということでジェーンは心から喜んでくれた。昔話に花を咲かせて大爆笑で始まり、それぞれが今日のこと、そしてこれからのこと、色々なことを話した。恒例の激論というかジェーンから「喝ッ」も入れられて。最後は、明日のこと、来年のこと、未来の話で終わった。誰もが自分自身とこの絆の未来を信じて疑わないそんな素敵な夜だった。
翌朝は、グループを離れて私はバンコク在住の友と早朝6時半集合、ルンピニパークを2周走る。そしてホテルのジム、プールの「朝練」でBig & Power Breakfast。その間、延々と喋り倒し。素敵な時間はいつもあっという間に流れる。
午後からジェーン達と麺屋に行こう!という話になり(朝ご飯から2時間も経ってないのに)町中へ。
牛肉米粉&魚蛋河粉(←広東語風にいうとタイ語でなんていうのか知らないけどウマ~い)
ちょい怖いおばちゃんの写真入り英語メニュー「No Branch =支店はありません」きっぱり。
買い物してSpaでまどろみ、夕方からは部屋でシャンパン開けてそれぞれの未来にもう一度乾杯。
翌朝は、3時半のモーニングコールで4時出発。総選挙でタクシン元首相の妹が圧勝のニュース一面の新聞を手に新たな時代が幕開けするバンコクの夜明け前の街を空港に向けて走る。
食べて、笑って、おしゃべりして、走って、汗かいて、すごい充実の時間が過ぎた。不可能なことをすべて可能にした48時間だった。(そもそも一週間前の「号令」だったのにもかかわらず、この週末にバンコクに多忙な全員が顔を揃えることができたこと自体がミラクル。このパーティの発案者が残念ながら急な出張で不参加。多分彼女が自分のLuckを私たちに差し出してくれたのではないかと思う)
いつもいつも笑って過ごしてきた訳ではなく、苦しいこと、悲しいこと、辛いこと、悔しいこと、それぞれの人生の局面に立ち会い、知らない間に関係を築いてきたのだなあ、と改めて確信した。彼女ら、彼らは「同僚」「先輩」「友」何かそういう種類の関係ではない。過ごした時間の長さではない、過ごしてきた時間の質が違うのだ。そして深く太い絆が築かれているからこそ、この奇跡のような時間が存在した。そして更に絆は深まったと思う。自分にとって必要だった時間。
次はいつどこで、なんて誰も言わないし、約束もしない。けど、きっといつかどこかでまた会える。絆ってそういうものだと確信しながら白み始めたバンコクの空に飛び立った。
ありがとう、ジェーン!
それから素敵な時間を共にすごしてくれた心の友に感謝。