【令和5年1月号・主宰の24句・前半】ありありとパン焼く香り秋の朝 鵠士

2023年01月15日 | 主宰句・主宰句鑑賞
紅葉の賀 大野鵠士
【獅子吼1005号(2023年1月掲載)】
 
ありありとパン焼く香り秋の朝
・季語 秋の朝(三秋)
母音のアが7音も使われ、音読すると爽やかで滑舌の良い句です。
意味は明瞭。秋の朝、
パン工房の横を通りかかったのか、香ばしいパンの香りが漂って来た。 

特急に通過信号霧時雨
・季語 霧時雨(三秋) ※主季語・霧の傍題
ローカル駅のホームに次は特急が通過するという信号が出るのだろう。
霧のような小雨が時雨れる中に、赤い信号が出ている状況が静かに描かれている。

露の世にまた後楽の灯の点る
・季語 露の世(三秋) ※主季語・露の傍題
後楽の意味は辞書を引くと以下のような記載がある。
「先憂後楽」天下の安危について真っ先に憂え、楽しむのは人より後にする事。政治家の心構え。
それを理解した上で句の解釈をしようとすれば、どんな意味になるのだろうか?
私の勝手な想像では、
儚い無常な世の中ではあるが、とある奇特な政治家が現れたと理解し、
ウクライナ共和国のゼレンスキー大統領の事かと。全く的外れかもしれませんが。

すがれつつすがれつつなほ虫の声
・季語 虫の声(三秋) ※主季語・虫の傍題

穭田をのろのろとクラシックカー
・季語 穭田(ひつぢだ・晩秋)
穭田は、稲刈り後の切株から新しい茎が田一面に生えた状態を言い、わびしい印象の風景。 
その中の細い道をのろのろとクラシックカーが走っている。ユーモラスな風景が描かれている。
中七下五の繋がりが心地よく感じられる。

化けるもの猫に限らず笑ひ茸
・季語 笑ひ茸(わらいたけ・三秋) ※主季語・毒茸(どくたけ)の傍題

杉焼に昼の宴となりにけり
・季語 杉焼(晩秋) 
杉焼とは、杉の木の香りを移した料理を言うそうだ。私は食したことはありません。
杉の板で作った箱に魚介類、茸 などを詰めてオーブンで焼くか、
杉の板に塩をのせ、それに魚肉、松茸の薄切りなどをのせ火にかけるかする、とあります。
野趣豊かで、なかなか食べられない高級料理ではないでしょうか。

末枯の野や一面の日の光
・季語 末枯(うらがれ・晩秋)
末枯をうらがれとはなかなか読めませんが、
晩秋になり、草葉が上部から又は先の方から枯れて来る事を言うそうです。
草や灌木に用いるとありました。

碧瑠璃の天に捧げむ富有柿
・季語 富有柿(晩秋) ※主季語・柿の傍題
辞書を引くと碧瑠璃は「へきるり」と読み、
あおあおと澄んだ水や空のたとえ。瑠璃のような青さを言うそうです。
瑠璃は青色の宝石を指します。主宰はよく言葉を知っておられます。

これやこの八塩折なる古酒一壺
・季語 古酒(晩秋) 
古酒は一般的には、新酒が出来てもまだ残っている前年の酒をいうそうです。
また、八塩折は八岐大蛇伝説に登場する日本で最初に作られたという酒だそうです。
格調の高いきりっとした一句ですね。

ギヤマンの盃に古酒愛でてをり
・季語 古酒(晩秋)
この句は次の二通りの読み方があると思いました。
「さかずきにこしゅ」又は「はいにふるざけ」
前者が普通でしょうが、後者の読み方も「は」と「ふ」の繋がりが良いかと。 
ギヤマンの意味は、①江戸時代、ダイヤモンドのこと ②ガラス、ガラス細工
この場合は②ですね。

平和とは新蕎麦啜り合へる音
・季語 新蕎麦(晩秋)
ゆっくりと友達と新蕎麦を啜り合う風景は、まさに平和の証かと思います。
コロナ禍の中の得難い楽しみでもありますね。
 

2 コメント

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ありありと (きりぎりす)
2023-01-15 15:14:58
パンを焼く音を’ありありと’…面白い表現ですね。

大好きな蕎麦、醍醐味は大きな音を立ててすする事!
大きな音を立てて啜れば美味しさが一層増すと言うものです。
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コメント有難うございます (健人)
2023-01-15 16:48:31
パンを焼く香りが漂ってきて
その光景がありありと目に浮かんできた。
工房でせわしく働く人たちの物音まで、
ありありと想像される、という深い読みですね。

ズズズ・・・・ッという蕎麦を啜る音。
視覚、嗅覚、聴覚などを総動員して
新蕎麦を味わいましょう。
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