散歩と俳句とスワローズ

2016年に大野鵠士宗匠と出会い
芭蕉・支考由来の「美濃派獅子門」に入会
日々俳句生活を楽しんでいます

【令和5年5月号・主宰の24句】全方位見ゆる魚の目花筏

2023年05月27日 | 主宰句・主宰句鑑賞
全方位    大野鵠士
【獅子吼1009号(2023年5月号)掲載】

春の朝判を押すかに目玉焼
・季語 春の朝(三春)

駒返る草や段々畑にも
・季語 駒返る草(初春・こまがへるくさ) ※傍題 草駒返る
※年老いた者が再び若い様子になる事を「駒返る」という。
※冬の間枯れていたように見えた草が、春になって再び青々と蘇ってくることを「駒返る草」と言う。

恋猫によべの影なし形なし
・季語 恋猫(初春)
・昨夜はあれほど激しく鳴いていた恋猫なのに、朝の様子は「別の猫」のようにおとなしくなっている。
・影も形もない(全く跡形もない)の慣用句を分解して「影なし形なし」とリズミカルに使っている。

春寒や鎮痛剤を持ち歩く
・季語 春寒(初春)
・最近「帯状疱疹」に罹って鎮痛剤のお世話になった身としては、何の痛みだったのか気に掛ります。

尖りたる付け爪白し冴返る
・季語 冴返る(初春)
・「付け爪」という物には全く縁がないが、尖っているとなると何か不気味なものを感じます。

どの家も老人がゐて梅咲けり
・季語 梅(初春)
・老人と梅がセットで捉えられている。ほのぼのとしているような少し侘しいような。
  
撫で肩を滑らむばかり春ショール
・季語 春ショール(三春)
・華やいだ妙齢の女性の姿を想像するのは私だけではないだろう。

  悼 松本零士氏
春宵の銀河渡らむ汽車の旅
・季語 春宵(三春)
・銀河鉄道999の漫画が懐かしい。風采の上がらぬ主人公に釣り合わない美女がいつも登場していた。

地虫出づ祝詞の声の朗々と
・季語 地虫出づ(仲春) ※主季語 地虫穴を出づ
※この季語の地虫は蟻や昆虫はもとより、蛙や蛇など冬季土中に眠る生物すべてを含む。
※冬の寒さから解放された生き物たちの、春を迎える喜びを本意とする。

鶴引くやミサイルの飛ぶ空なるを
・季語 鶴引く(仲春) ※主季語 引鶴(ひきづる)
・ミサイルの飛び交う時代になってしまった。ウクライナにも、北朝鮮からも。
・この先さらに、戦術核なんて言葉が俳句に出て来ないよう願うのみです。

生生流転戦場の草青めるか
・季語 草青む(仲春)
・生生流転(しょうじょうるてん)
※万物は永遠に生死を繰り返し、絶えず移り変わって行くこと。(広辞苑)
※生まれ変わり、死に変わりして、輪廻の世界で次々と生を繰り返す事を言う(日本大百科全書)

大玻璃を一枚隔て春嵐
・季語 春嵐(三春) ※主季語 春疾風
・吹き抜けの大きな一枚ガラスの外には春の嵐が吹きすさぶ。

追ひかけて咲き追ひかけて椿落つ
・季語 椿(三春)

秘やかにかつ華やかに落椿
・季語 落椿(三春) ※主季語 椿

春疾風鵬の翼の如き雲
・季語 春疾風(三春)
※鵬(ほう) 想像上の大鳥。
 こん(魚偏に昆と書く)という魚が化したもので翼の長さ三千里、九万里の高さまで飛ぶとされる。

鼓草腹鼓には覚束な
・季語 鼓草(三春) ※主季語 蒲公英
・いちおう食事をしたものの、料理が軽すぎて腹鼓を打つほどの満足感には程遠く、という状況か。
※腹鼓は「はらつづみ」と読み、「はらづつみ」は間違い。

空といふ大いなる穴春の雲
・季語 春の雲(三春)
・春の雲の中にぽっかりと穴が開いていて、そこから青空がのぞいている状態を想像したのだが、
 ちょっと見当違いでしょうか?

あたたかや丸い眼鏡を丸顔に
・季語 あたたか(三春)
・温厚な人柄が感じられますが、こんな人物が本当に温厚かどうかは付き合ってみなければ・・・。

花鳥画の格天井よ春灯
・春灯(三春)
※格天井(ごうてんじょう) 角材を45センチほどの間隔で格子型に組み、上に板を張った天井。

本題の前に桜湯出されけり
・季語 桜湯(晩春)

天と地を限りてゐたり花堤
・季語 花堤(晩春)

花冷や皿は織部のへうげもの
・季語 花冷(晩春)
・古田織部を主人公とした漫画「へうげもの」は大ヒット作品であったらしいが、当時はとんと関心が無かった。

墓標てふ千年の花盛かな
・季語 花盛(晩春)
・墓標とは本当の墓に変えて墓のしるしに立てる木や石の事を言うようだ。
・桜の木を墓標にしているのは西行さんの御墓か。ちょっと難しい背景を含んでいそうな一句です。
・願わくは花の下にて春死なんその如月の望月の頃 (釈迦入滅の旧暦2月15日の満月の頃に・・・)

全方位見ゆる魚の目花筏
・季語 花筏(晩春)
・魚眼レンズとは焦点距離*が短く、約180度もの広い範囲を撮影することができるレンズだそうだ。
・魚の眼は体の横に付いているので、死角はあるらしいけれどほぼ全方位が見えているらしい。
・自分が魚になって、水中から水面の花筏を見ている気分を想像してみよう。ちょっと面白い。


2 コメント

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駒返る草 (きりぎりす)
2023-05-29 06:56:12
や、私にも。
リズムがいいですね。
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駒返る草や段々畑にも (健人)
2023-05-29 12:00:42
八音九音の破調の句ですが
こまがえる で軽く切り、
くさやだんだん でごく軽く切り、
ばたけにも と、調子よく読めますね。
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