月光に冷やされクリアな空気に美しい金属の音色が響く
音色は美しいが、旋律としては失格
リズムに成ってない、ただ打ち鳴らされる音が響く
「はっ」
銀髪の青年が空気すら穿つ槍の一突きを放つ。
音より速く伸びゆく穂先、数瞬後には、美しい音色を奏でる。
槍の穂先を弾き返し音色を響き合わせたのは、黄金のレイピア。
「あらあら、踏み込みが甘いんじゃなくて。サラカエル」
微笑、冷笑、音速を超える槍を放った相手への敬意は全くなし。
「黙れ、リリス。
人の魂を惑わすお前を神に代わって、消滅させる」
一旦飛び退き間合いを取ると、
くるっと回して弾き返された槍を構え直すサラカエルと呼ばれた青年。
銀髪を逆立て、ストイックに締まった顔付きをしている。
俳優にでも成れそうだが、その出で立ちは蒼い詰め襟で古風、似合い、華がある。
「あらやだ、人聞きの悪い。
私は、神のよって枷を嵌められた霊魂を解放するだけ、自由を与えているのよ。
悪いことかしら?」
指を唇に当てて小首を傾げる、その仕草。
恋人に、浮気を軽く許してとねだるようでもある。
「悪!!」
「あっそう」
リリスは交渉の余地のない会話に溜息と共に、肩をすくめる。
「まあいいわ、あなただって、受肉したんですもの。
餓え、病苦、老い、死が背中に付きまとい。
空を飛べなければ、時間も移動出来ない。
そんな神の枷を嵌められた人間の苦しみがその内分かるわ」
「・・・・」
サラカエルの返答は無言、神を侮辱する言葉に返答したくないのか、
反論出来ないのか。
「それと、そんなところに立っていると危ないわよ」
リリスはクスッと悪戯子猫のように笑った。
深夜の郊外、家々の明かりはもう消え始め寝静まり出す頃。
俺は車を走らせていた。
別に深夜のドライブを楽しんでいるわけではない、仕事帰りなだけだ。
もうくたくただ。
毎日毎日毎日毎日、残業残業残業。
いい加減倒れそうだ、いやむしろ倒れて楽になりたい。
そんな鬱なことを考えていたのが悪かったのか。
深夜なので油断して、スピード少し出していたのが悪かったのか。
ヘッドライトに青年が映って、咄嗟にブレーキを踏んだときには、重い衝撃につんのめった。
やややややややややっやっっやっっっっっっっっや
やってしまった。
人生が終わった。
いやそれより、早く助けないと。
生きていてくれさえいれば、何とかなる。
俺がシートベルトをしたまま、ドアノブに手を掛けると
ドアが閉まる音が助手席からした。
「?」
助手席を見ると、見知らぬ少女がいつのまにか乗り込んでいる。
深夜のピアノの発表の帰りかっ、と疑いたくなる黒のドレス。
胸元から覗ける美しい鎖骨に流れる金の滴。
大変なことをしでかしてしまった時だというのに
人命救助より、欲情の気持が込み上げてきてしまう。
さらと髪を揺らして少女がこちらに向いた。
若葉のように初々しく生命に溢れた緑の瞳で俺を見ると、唇を開いた。
「ちょうどいいわ、車を出して」
少女の命令に、俺は今まで馬鹿にしていたM男の気持を十全に悟った。
だが、それに溺れるほど俺はまだ弱くない。
「何を言っているんだ、人を轢いたんだたっ助けないと。
それに君は何だ?」
やるべきことと疑問を同時にぶつけた。
「アレは人じゃないから助ける必要はないわ。
私はリリス、光の蛇」
「???」
「な~にその顔。示して答えてあげたんだから私の命令を聞きなさい。
さあ、車を出して、取り敢えずあなたの家でいいわ連れて行って」
それだけ言うとリリスは、窓の外に向いてしまった。
言うことを聞かないからそっぽを向かれてしまった。
そんな悲しい気持が込み上げた。
それにリリスがいいと言うのだから、いいのだろうと
やはり気が動転していたのか、理屈にならない理屈に納得して、
逃げるようにアクセルを踏み込んだ。
やってしまった。
家に帰って畳にへたり込んで第一に思ったことだった。
人を轢いただけなら事故だが、逃げてしまっては犯罪だ。
なんでだ、まじめに働いていただけなのに犯罪者になってしまったんだ。
「何を黄昏れているの?」
気楽に覗き込んでくるリリス。
こいつ、こいつさえ唆さなければ。
「お前のせいだっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
罪の意識から逃れるため、怒りにまかせ、欲情に逃げようとした。
美しいが小柄な少女、余裕だ、その認識は甘かった。
俺の手が少女の一掴みできそうな肩に届く前に、
喉がぐちゃっとした。
リリスが軽く拳で俺の喉を突いただけなのに、
カウンターとなって酬いの威力となった。
「うごごごごっごごお、うげあがわ」
痛みと呼吸困難にのたうち回る俺を、冷たく見下ろすリリス。
終わった、唯一共犯者という仲間まで失った。
気持が身体を抜け落ち地の底まで沈んでいく。
「くすっ、弱い人、私の美しさにひれ伏さないで、下劣な感情をもよおすなんて。
でも私は、そんな感情に素直な人間も好き。
あなたは一応、悪漢に襲われていた私を助けてくれたナイト。
一度は許してあげるわ」
その言葉に心は軽くなった。
「ほっほんとですか」
人は感情に振り回される人間と子供と馬鹿にする。
でもリリスは好きと言ってくれる。
「ほ・ん・と。
だ・か・ら、御礼を上げる」
御礼、そんなの別にいらない、許して貰っただけで十分。
「そう言わないで、あなたに神の条理を破る力をあげる」
「条理を破る力?」
意味がよく分からない。
「う~、そうねこの世界は神が定めたルールで成り立っている。
そのルールを破っても、反則にならない力かしら」
ルールを飛び出す。
それはサッカーでキーパーでもないのに手を使っても反則にならないとか。
「そう、そうよ。いい例えだわ」
顔を輝かせ俺を褒めてくれる、
それだけで生きていて良かったと感動してしまう。
「でもどんな力を上げるかは、私には選べない。
そんな力を望むかは、あなたが選びなさい。
さあ、思い描きなさい」
どうする?どうする?
そんな怖そうな力なんて、いらないけど。
ここで望まなかったら、リリスは怒る、今度こそ捨てられる。
旧約聖書、イブにリンゴを食べるように唆した蛇の話が思い浮かぶ。
結末を知っている。
でも、俺は望んでしまった。
「そう、それがあなたの思いなのね」
リリスの手に黄金に輝くレイピアが握られる。
「あなたの常識殺します」
俺の心臓は黄金のレイピアに打ち抜かれ、
ガラスをバットで叩き割った爽快な痛みが全身に走った。
つづく
このお話は、完全オリジナルのフィクションです。
存在する人物団体とは、一切関係ありません。
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音色は美しいが、旋律としては失格
リズムに成ってない、ただ打ち鳴らされる音が響く
「はっ」
銀髪の青年が空気すら穿つ槍の一突きを放つ。
音より速く伸びゆく穂先、数瞬後には、美しい音色を奏でる。
槍の穂先を弾き返し音色を響き合わせたのは、黄金のレイピア。
「あらあら、踏み込みが甘いんじゃなくて。サラカエル」
微笑、冷笑、音速を超える槍を放った相手への敬意は全くなし。
「黙れ、リリス。
人の魂を惑わすお前を神に代わって、消滅させる」
一旦飛び退き間合いを取ると、
くるっと回して弾き返された槍を構え直すサラカエルと呼ばれた青年。
銀髪を逆立て、ストイックに締まった顔付きをしている。
俳優にでも成れそうだが、その出で立ちは蒼い詰め襟で古風、似合い、華がある。
「あらやだ、人聞きの悪い。
私は、神のよって枷を嵌められた霊魂を解放するだけ、自由を与えているのよ。
悪いことかしら?」
指を唇に当てて小首を傾げる、その仕草。
恋人に、浮気を軽く許してとねだるようでもある。
「悪!!」
「あっそう」
リリスは交渉の余地のない会話に溜息と共に、肩をすくめる。
「まあいいわ、あなただって、受肉したんですもの。
餓え、病苦、老い、死が背中に付きまとい。
空を飛べなければ、時間も移動出来ない。
そんな神の枷を嵌められた人間の苦しみがその内分かるわ」
「・・・・」
サラカエルの返答は無言、神を侮辱する言葉に返答したくないのか、
反論出来ないのか。
「それと、そんなところに立っていると危ないわよ」
リリスはクスッと悪戯子猫のように笑った。
深夜の郊外、家々の明かりはもう消え始め寝静まり出す頃。
俺は車を走らせていた。
別に深夜のドライブを楽しんでいるわけではない、仕事帰りなだけだ。
もうくたくただ。
毎日毎日毎日毎日、残業残業残業。
いい加減倒れそうだ、いやむしろ倒れて楽になりたい。
そんな鬱なことを考えていたのが悪かったのか。
深夜なので油断して、スピード少し出していたのが悪かったのか。
ヘッドライトに青年が映って、咄嗟にブレーキを踏んだときには、重い衝撃につんのめった。
やややややややややっやっっやっっっっっっっっや
やってしまった。
人生が終わった。
いやそれより、早く助けないと。
生きていてくれさえいれば、何とかなる。
俺がシートベルトをしたまま、ドアノブに手を掛けると
ドアが閉まる音が助手席からした。
「?」
助手席を見ると、見知らぬ少女がいつのまにか乗り込んでいる。
深夜のピアノの発表の帰りかっ、と疑いたくなる黒のドレス。
胸元から覗ける美しい鎖骨に流れる金の滴。
大変なことをしでかしてしまった時だというのに
人命救助より、欲情の気持が込み上げてきてしまう。
さらと髪を揺らして少女がこちらに向いた。
若葉のように初々しく生命に溢れた緑の瞳で俺を見ると、唇を開いた。
「ちょうどいいわ、車を出して」
少女の命令に、俺は今まで馬鹿にしていたM男の気持を十全に悟った。
だが、それに溺れるほど俺はまだ弱くない。
「何を言っているんだ、人を轢いたんだたっ助けないと。
それに君は何だ?」
やるべきことと疑問を同時にぶつけた。
「アレは人じゃないから助ける必要はないわ。
私はリリス、光の蛇」
「???」
「な~にその顔。示して答えてあげたんだから私の命令を聞きなさい。
さあ、車を出して、取り敢えずあなたの家でいいわ連れて行って」
それだけ言うとリリスは、窓の外に向いてしまった。
言うことを聞かないからそっぽを向かれてしまった。
そんな悲しい気持が込み上げた。
それにリリスがいいと言うのだから、いいのだろうと
やはり気が動転していたのか、理屈にならない理屈に納得して、
逃げるようにアクセルを踏み込んだ。
やってしまった。
家に帰って畳にへたり込んで第一に思ったことだった。
人を轢いただけなら事故だが、逃げてしまっては犯罪だ。
なんでだ、まじめに働いていただけなのに犯罪者になってしまったんだ。
「何を黄昏れているの?」
気楽に覗き込んでくるリリス。
こいつ、こいつさえ唆さなければ。
「お前のせいだっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
罪の意識から逃れるため、怒りにまかせ、欲情に逃げようとした。
美しいが小柄な少女、余裕だ、その認識は甘かった。
俺の手が少女の一掴みできそうな肩に届く前に、
喉がぐちゃっとした。
リリスが軽く拳で俺の喉を突いただけなのに、
カウンターとなって酬いの威力となった。
「うごごごごっごごお、うげあがわ」
痛みと呼吸困難にのたうち回る俺を、冷たく見下ろすリリス。
終わった、唯一共犯者という仲間まで失った。
気持が身体を抜け落ち地の底まで沈んでいく。
「くすっ、弱い人、私の美しさにひれ伏さないで、下劣な感情をもよおすなんて。
でも私は、そんな感情に素直な人間も好き。
あなたは一応、悪漢に襲われていた私を助けてくれたナイト。
一度は許してあげるわ」
その言葉に心は軽くなった。
「ほっほんとですか」
人は感情に振り回される人間と子供と馬鹿にする。
でもリリスは好きと言ってくれる。
「ほ・ん・と。
だ・か・ら、御礼を上げる」
御礼、そんなの別にいらない、許して貰っただけで十分。
「そう言わないで、あなたに神の条理を破る力をあげる」
「条理を破る力?」
意味がよく分からない。
「う~、そうねこの世界は神が定めたルールで成り立っている。
そのルールを破っても、反則にならない力かしら」
ルールを飛び出す。
それはサッカーでキーパーでもないのに手を使っても反則にならないとか。
「そう、そうよ。いい例えだわ」
顔を輝かせ俺を褒めてくれる、
それだけで生きていて良かったと感動してしまう。
「でもどんな力を上げるかは、私には選べない。
そんな力を望むかは、あなたが選びなさい。
さあ、思い描きなさい」
どうする?どうする?
そんな怖そうな力なんて、いらないけど。
ここで望まなかったら、リリスは怒る、今度こそ捨てられる。
旧約聖書、イブにリンゴを食べるように唆した蛇の話が思い浮かぶ。
結末を知っている。
でも、俺は望んでしまった。
「そう、それがあなたの思いなのね」
リリスの手に黄金に輝くレイピアが握られる。
「あなたの常識殺します」
俺の心臓は黄金のレイピアに打ち抜かれ、
ガラスをバットで叩き割った爽快な痛みが全身に走った。
つづく
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存在する人物団体とは、一切関係ありません。
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