麦の会著『死刑囚からあなたへ』P.109より抜粋
なぜ死刑は秘密裡になされるのか。
死刑執行は『本人の家族その他の関係者に与える影響、これらの者の名誉・気持を殊更に傷つけないよう……また、本人の心情の安定に留意し』 一切公表しない(法務省見解)とされています。
しかし、公開処刑の時代、ベッカーリアはことの本質を、より正しく指摘していました。
「賢明な裁判官、神聖な司法執行官が、格式ばって、やすらかなようすで、むとんちゃくに犯罪人を死にみちびかせるのを見て、人々は何と考えたらいいのだろう。そうしてこの不幸な者がだんまつまのけいれんともだえのうちに、最後の一撃を待つとき、彼を断罪した裁判官はひややかに、そしておそらくは彼が今行使した権限についてのひそかな満足でハナを高くしながら、生の甘美と快楽を味わうために出ていくのだ。」
(『犯罪と刑罰』岩波文庫九九-100頁)
死刑を存置させても、実際の処刑は出来るだけ人々の目から遠ざける必要が生じてきたのです。1956年(昭31)国会に死刑廃止法案が提出されたきっかけは、実際に処刑に関与している全国の刑務官の声であったといわれます。
死刑制度を存続させるために、死刑は出来るだけ秘密裡に行なわざるをえないのです。
(古志 明)