拾い読み★2015-008≪コラム記事≫

“京大右腕”ロッテ・田中、スロー調整で臨む３つのワケ

　京大から初めて誕生したプロ野球選手として注目を集めるロッテのドラフト２位・田中英祐投手（２２）が６日、京都市内で自主トレを公開。降りしきる雨の中、約２時間汗を流すと、４年間過ごした京大グラウンドに一礼し別れを告げた。９日から新人合同自主トレに臨むが、多くのルーキーのようにキャンプインの２月１日にピークを合わせた調整は考えていないというから驚く。そこには高学歴右腕ならではのスローペースの理由があった。　（片岡将）

　２８社で計８０人の報道陣や多くのファンが見守る中、田中は大学に隣接する吉田神社に参拝。８５９年に創建され、平安期に全盛を極めた藤原氏の氏神として崇敬を集めた社に奉納した絵馬には「日々成長」と抱負をしたためた。大学時代ではおなじみの練習メニューだったという境内脇にある約４０メートルの坂道を３回ダッシュした。

　「毎年ここから始まる。これから野球を職業にすることで、１日１日の重みが変わってくる。日々に何かしらの意味を持たせて成長できるように。胸に秘めていた思いを、あえて口にしました」。絵馬に記した思いを説明した。

　年末年始も軽めの筋力トレーニングやランニングなどで体を動かしていたという。だが、高学歴新人は９日からの新人合同自主トレに「まずは自分の基礎体力がどういう位置づけなのかを見たい。ブルペン入りの日程はまだ考えていません。（キャンプインの）２月頭にピーク？　どうですかね。流れを見ながらです」。他の新人投手のような「２月１日ブルペン入り」というアピールには関心がないようだ。

　ワケがある。１つは目下“最大の敵”である卒論の存在だ。工学部で理論化学を専攻する田中が追求するテーマは「ＳＦＡ（表面力測定装置）における溶媒和構造の逆計算理論」という難解なもの。すでに必要な実験は終了、その大枠を提出したが担当教授から指摘を受けた修正点や論文の追加が必要という。

　そのため３月の提出期限に向け自主トレはもちろん、春季キャンプ地の沖縄・石垣島にも執筆用のパソコンを持ち込む予定。論文に割く時間が増えれば増えるほど、練習や休息の時間は減っていくため、ペースが落ちるのは避けられないのだ。

　また、球団関係者は「田中には特に『他と自分を比べて焦るのだけはよくない』と口を酸っぱくして話しています」。右腕が新人の中で自分のペースを乱すことを懸念した球団から、スローペースでの調整を助言されているのだ。

　本人も自覚はある。２日に実家のある神戸市内の生田神社で大吉のおみくじを引き「印象に残ったのは『他人の言動に惑わないこと』。焦りすぎないように。他人に惑わされないようにしないと。指標にはしますが」と話したが「これでも１０年傾斜で放っているんでね。プルペンで投げていないといっても、すぐに慣れると思いますよ」。

　多少の遅れなど取り返せる。積んできた経験への自信とプライドが、あえてスローペース調整で臨む３つめの理由だ。

　■田中英祐（たなか・えいすけ）　１９９２（平成４）年４月２日生まれ、兵庫・高砂市出身。米田西小４年時に野球を始め、白陵中１年から投手に。白陵高では１年秋からエース。京大工学部（工業化学科）に現役合格し関西学生リーグで最速１４９キロの直球を武器に京大史上最多の通算８勝（３１敗）をマーク。１８０センチ、７５キロ。右投げ右打ち。独身。年俸１５００万円。背番号は「３１」。

(夕刊フジ)





東大卒・小林至氏が京大・田中に助言「力みは禁物。したたかさ持ってほしい」

　史上３人目の東大卒プロ野球選手（現在までに５人）として１９９２年から２年間ロッテに投手として在籍した小林至氏（４６）。夕刊フジで「スポーツ経営学講義」の連載をスタートさせた先輩インテリ投手が、後輩へ熱いメッセージを送った。
　
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今は「京大出身」が前面に出すぎていて、本人は「１人のアスリートとしてみてもらいたい」という思いが強いはず。田中君は実力がはるかに上ですが、僕にもそういう思いがありました。「野球で認められたい」という一種のコンプレックスがあるんですよ。
　しかし、力みは禁物。相手打者の方が「こいつだけには打ち取られたくない」と意識過剰になります。相手の心理を逆手に取るくらいのしたたかさを持ってほしい。
　高校、大学時代の練習量は絶対的に足りていないと思います。しかし、そこを“のびしろ”ととらえ、プロで成長していってほしい。努力と工夫次第で１軍で活躍することも可能でしょう。彼のように野球エリートでない選手が活躍できるとなれば、プロ野球界にとっても多様性を示す意味で良いことだと思います。
（夕刊フジ）