goo blog サービス終了のお知らせ 

トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

男が男を愛する時

2006-09-13 21:16:11 | 読書/欧米史
 古代ギリシアでは男同士の同性愛は白眼視されるものではなかった。ただ、相手は成人男子でなく少年への愛が公認されていた。名は忘れたが、ある古代ギリ シア研究者によると、成人に声を掛けられない少年は大変屈辱だったとか。現代ならたちまち未成年への性的虐待で犯罪行為となるが、性的モラルがあまりにも 異なるのは違和感を感じる。

 ギリシア神話の最高神で女漁りの激しいゼウスでさえも、美少年ガニメディウスに目をつけ、彼が友人と遊んでいるところを鷲に姿を変えてさらい、天上界に拉致している。空中で鷲の姿のまま、この少年を犯したというから、まさに神業というものだろう。天界に連れてこられた少年はお酌係とされた。
  この少年はトロイ人であり、スパルタ王妃ヘレネと駆け落ちし戦争の原因を作ったトロイの王子パリスも「その姿、神に似た」と謳われるほどの美貌。後のロー マの祖となるアイネイアスも面食いの女神アフロディテがトロイの男との間に儲けた息子なので、トロイには美形が多かったのか?いずれにせよ、戦争に負けギ リシアに囚われたトロイ人は男女共に奴隷にされたので、美少年ならギリシア人の慰み者とされたかもしれない。

 かなり前、ある音楽雑誌にロック界にはゲイが多いが、アレキサンダーカエサルを 挙げ、ゲイ=軟弱という見方に反論する意見が載っていた。寄稿者は「この二人は多くの女達と関係を持ったが、真に愛したのは同性だった。だからゲイは軟弱 とは限らない。彼らは戦争の天才なのだから」と自論を展開していた。これを見た私はギリシア系の前者はともかく、ローマ人のカエサルは違うのではないか、 と思ったが、どうも記事は間違いではなさそうだ。ギリシアほど公認されていなかったが、ローマもキリスト教が根付く後世と違い同性愛は犯罪ではなかった。 カエサルも両刀使いの噂が絶えず、「あらゆる女の男であり、あらゆる男の女よ」と元老院で揶揄されたこともある。五賢帝の一人ハドリアヌスにいたっては寵愛した美少年を側に侍らしていた。

 私は昔、西欧人は肉食人種だから性的欲望も激しく、だから同性でも手を出すのではないか、と思ったこともあるが、他の文化圏でも同じような現象があるのを後に知った。イスラム世界だと後宮や軍隊というかたちをとる。オスマン・トルコの精鋭イェニチェリは有名だが、容貌も重視された彼らはスルタンの身辺に常に侍る存在だった。ムガル朝宮廷にも多くの少年が後宮で奉仕していたし、サファヴィー朝ペルシアでは美貌の少年を斡旋する置屋のような職さえあった。当然ながら王や大臣のような支配階級は少年を愛でる風潮に染まっていたという。「アラビアのロレンス」の著書『智恵の七柱』(東洋文庫)の冒頭には若いベドウィン戦士間の親愛振りが描かれ、ロレンスは彼らの行為は娼婦と交渉するよりよい、との感想も書いている。ロレンス自身も一生独身で、同性愛者の噂が絶えない人物だが。

 東アジアではどうか。中国語の「義兄弟」とは男同士の同性愛関係を指すという。これが特に盛んなのは福建省だと『宦官』(中公新書)に載っていた。船に女は乗せられないので、船乗りが多いこの省が目立つのも不思議はない。三国志の「水魚の交わり」にせよ、夜も昼も問わず寝食を共にする関係とは、かなり危ういものだ。日本の戦国時代も織田信長が有名だが、寵童がいるのは当り前だった。

 プラトン著の『饗宴(シンポジオン)』には、大哲学者ソクラテスへの、古代地中海世界の三大美男の一人と言われる弟子アルキビアデスの告白が見える。素面で想いを吐露するのは気恥ずかしかったのか、酒の力を借りての告白なのだ。その一部を抜粋したい。
ソ クラテスが話す時、それを聞く私の胸は自我を捨て去った時にのみ味わうことの出来る解放感に浸り、涙がとめどなく頬を伝わって流れ落ちる…(他の演説で は)ソクラテスの話を聴くときの様に、これまでの確固とした自信が音を立てて崩れ落ち、自由のない奴隷にでもなったかのような苦しみを味わうことはない。 彼はしばしば私に、私の人生のようなものが生きるに値しないとまで思わせたのだ。そうでしょう、ソクラテス。私が嘘を言っているのではないことは、あなた が誰よりも知っているはずです。

 そして、私に対する彼の影響が、私の少年 時代では終わらずに今もなお続いていることが、より一層私の心の平安を乱す理由になっている。成熟した大人になった今でも、彼の声に耳を傾けるやいなや少 年の私を襲ったのと同じ感情に襲われるのだから…しばしば私はソクラテスが地上から消えた時を想像してみる。だが、それが現実化しようものなら、今よりも もっと苦しむのはハッキリしている。
 という訳で、諸君、このソクラテスにはどう対処してよいか、私には全く分からないという訳だ―


 ここまで来ると、お見事としか言いようがない。それにしても、アテナイきっての位人臣を極めたモテ男が、常に貧乏な醜男学者にこのような想いを抱くのだから、凡人には分からない世界だ。

よろしかったら、クリックお願いします


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
想定外 (Mars)
2006-09-15 20:22:45
こんばんは、mugiさん。



「男が男に惚れる」という表現はありますが、性的な欲求とは別次元のお話ですね。うーん、どうなのでしょう。ロ○コンでも白眼視されるのに、○色では、、、。理解の範囲を超えそうです(汗)。



三国志の話では、確かに男同士でも寝所を共にしますが、その手の話はどうなのでしょう。仰るとおり、kなりあやしいのは事実でしょうけど、、、。国家ではなく個人に忠誠を誓うのが儒教なのかもしれませんが、これも、理解の範囲を超えそうです(汗)。



人は、人生も恋愛も自由にいかないものですが、、、。「It's a hard life」。富も名声もあっても、自由にいかないのが、恋愛なのでしょうか?

(ところで、あのPVはどう思われますか?確かに曲は素晴らしく、ビジュアル的にも、おもしろいと思いますが。一番はド○ロのギターの兄さんが喜んでいるのでしょうか??)

返信する
分からない世界 (mugi)
2006-09-15 21:42:57
こんばんは、Marsさん。



古代ギリシアでも精神的、プラトニックな同性に対する愛情を讃えていましたが、性的な面を否定はしていないのが現代と違いますね。

性的対象となったのが少年時代だけとは限らず、成人しても断ち切れなかった事もしばしばだったようです。

現代は未成年への性的虐待が厳しく問われる時代ですが、それでも○色を行う者がいるから、これは分からない世界です。



「It's a hard life」の歌詞や曲は素晴らしいのですが、あのPVはどうもねぇ…

メンバーでもマーキュリーの衣装は評判悪く、「巨大海老のよう」と言われたとか。あの衣装を着られる精神がすごい。

唯一の救いはド○ロのギターの兄さんが登場する事で、あの異様な雰囲気を抑えられていると思いますね。
返信する