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ギリシア人の物語Ⅲ/新しき力 その①

2018-06-13 21:10:14 | 読書/欧米史

『ギリシア人の物語Ⅲ/新しき力』(塩野七生著、新潮社)を読了した。新潮社の公式サイトのタイトルは、「塩野七生 最後の歴史長編は「永遠の青春」アレクサンダー大王を描く圧倒的巨編」となっており、著者へのインタビューが載っている。これで最後の歴史長編となるのは、私も含め長年に亘ってのナナミスト(塩野ファン)には寂しい限りだが、雑誌へのエッセイ寄稿なら、この先もあるかもしれない。
 それにしても、最後に何故にアレクサンダー大王?と思ったファンも少なくなかったかもしれない。軍事の天才で美男であっても私的にはアレクサンドロスは特に好きにはなれなかったし、著者がインタビューで語ったこの言葉には同感だった。
もともとアレクサンダーのことは、それほど好きではなかった。誰かの書いたものを読んで、なんだか優等生みたいなことばかり言うなという印象だった

 古代ギリシア人の歴史を書いたので、最後にアレクサンドロスを取り上げたのかと思いきや、始めからアレクサンドロスを書くのが目的だったそうだ。「この人はマケドニア王ではあるけれど、やっぱり「ギリシア人」だと。となれば、ギリシア人の歴史すべてを書かないといけない」、それで「一巻のはずが三巻に増えちゃった(笑)」という。
 塩野氏最後の歴史長編なので大いに期待して読んだし、何時もながらの“塩野節”は健在だった。Ⅲ巻目のほぼ3分の2はアレクサンドロスに費やされており、アレクサンドロスの物語と言ってもよいほど。インタビュー動画もアップされている。



 アレクサンドロスの生涯を描いた『獅子王アレクサンドロス』(阿刀田高著、講談社文庫)という歴史長編もあり、こちらも面白い。獅子王~の方が長編のためか、主人公をめぐる人間関係、殊に関わりのある女たちがより詳しく描かれていた。だが軍事の戦術・戦略についての記述は少なく、軍事に疎い私には史上名高い戦争シーンでもよく分からなかった。
 対照的に塩野氏はアレクサンドロスの母や妻についてはあまり記述せず、有名な会戦での両軍の布陣や戦闘の経過を描いた地図が幾つも載っているので分り易かった。戦闘シーンでは男性の阿刀田氏よりも女性の塩野氏の方が描き方が上手いと感じる。

 Ⅲ巻目は第1部「都市国家ギリシアの終焉」、第2部「新しき力」の2部構成となっており、第1部は全編の4分の1以下の頁数。それにしても、ギリシアの盟主の座から滑り落ちたアテネの惨状は言葉もない。著書にはその様子がこう述べられている。

だが、前四世紀半ばというこの時期のアテネは、「デモクラツィア」の国であることでは変わりはなかったが、もはやテミストクレスペリクレスが生きていた時代のアテネではなかった。
 長期を視野に入れての一貫した政略(ステラテジー)などは薬にしたくもなく、毎年十人選ばれてくるストラテゴス(現代ならば大臣)の一人としての責任を一身に負う覚悟もないままに、決定は市民集会に丸投げされ、実行に移す段階でも責任者が不明確なのでさらに遅れる、という国になっていた。
 何事でも民主的に決めたいという思いゆえではあったが、かつては存在した柔軟性まで失っていた。活用できた場合は数多くのメリットを産むが、「民主政とて政治システムの一つにすぎない。それが、唯一無二という感じの絶対善である、「民主主義」に変容していたのだった。(127頁)

 まるで現代の何処かの民主主義国を連想させる、と思った読者も少なくなかったかもしれない。軍事力と経済力の衰えた国は、自国の運命さえ切り開けなるのだ。著者が述べたギリシアの歴史とはこうなっている。
民主政を創り出せば、衆愚制も創り出す。市民全員の投票を実現すれば、不正投票も実現してしまう。オリンピックを発明すれば、ボイコットも発明してくれる。
 何かを創り出すからその裏面まで創り出すことになってしまうのだが、「ヨーロッパ」と名づけたらその向うは「アジア」と名づけたのに始まって、後世に生きるわれわれは、良いことも悪いことも、その多くを古代に生きたギリシア人に負っているのである。(152頁)
その②に続く

◆関連記事:「ギリシア人の物語Ⅱ
 「アレキサンダー

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4 コメント

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読んでナイのにコメントするのはおこがましい、が。 (mobile)
2018-06-14 12:24:47
読んでナイのにコメントするのはおこがましいのですが、このような作品もありますので気が向けば・・・。
荒俣宏『幻想皇帝 - アレクサンドロス戦記』
いやいや、塩野七生作品には及ぶべくもありませんが、ご参考まで。
民主主義の限界 (mobile)
2018-06-14 16:45:40
イスラム世界にはこのような問答があるそうです。
(記憶に頼っているので正確でナイのはお許しあれ!)
-------☆☆☆-------
Q『アッラーの前ではみな兄弟、だがこの世には金持ちと貧乏人がいて平等とは思えない。アッラーはなぜ金持ちと貧乏人を創ったのか?』
-------☆☆☆-------
A『たとえば、川に橋を造ろうとすると「ああでもないこうでもない」と話が纏まらない。「俺の近所に造れ」と主張するものがいたり「家の前はイヤだ」と言うものがいたりする。こういう時に金持ちが「よしここに造ろう。金はオレが出す。」と言えばスンナリ決まる。金持ちはそのために創られたンだ。』
Re:読んでナイのにコメントするのはおこがましい、が。 (mugi)
2018-06-14 21:57:23
>mobile さん、

 荒俣宏氏もアレクサンドロスを扱った歴史小説を書いていたのですか。検索したらルイス・フロイスが織田信長に言上したかたちを取っているようですね。荒俣氏の作品はまだ読んだことがありませんが、アレクサンドロス戦記のカバーイラストは酷すぎ。
Re:民主主義の限界 (mugi)
2018-06-15 22:01:34
>mobile さん、

 面白い問答話を有難うございました!以前記事にしましたが、トルコの「神様の分配、人間の分配」という話に通じるものがあります。
「そうとも。神様は富める者も貧しい者もつくるのさ」、と主人公が答えていました。
https://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/0d1ddfda0c3ef9a3bfc74c9fd80fc4e4

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