トーキング・マイノリティ

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偽りの結婚

2021-06-04 21:40:03 | 音楽、TV、観劇

 かつて著書で、「日本の女が戦争で日本の男に守ってもらわないほうが、敵のもっと「いい男」と出会えるかもしれない」と述べたのは、メディア絶賛のフェミニスト・上野千鶴子だ。
 だが敵のもっと「いい男」と出会えるどころか、難民になっても同胞から食い物にされる女性も多いのだ。5月30日放送のBS世界のドキュメンタリー「偽りの結婚〜追いつめられるシリア難民女性〜」は、そんな女性たちを取り上げた特集で、以下は番組サイトからの引用。

シリア内戦の行方が見えないなか、追いつめられた難民女性の間に、児童婚や結婚の名を借りた売春など様々な問題が生まれている。ヨルダンでシリア難民女性に密着取材した。
 シリア内戦の行方が見えない中、国外に逃れた難民は495万人にのぼる。隣国、ヨルダンでは追い詰められた難民女性の間に児童婚や結婚の名を借りた売春などが横行し深刻な問題となっている。イスラム教シーア派では合法的とされる慣習である「ムトア婚」の名の下に、売春が行われているという。
 番組では、シリア難民女性とヨルダン女性協会など救済に乗り出した人々を密着取材。シリア難民女性の過酷な実態をヨルダンで見つめる。

 実はこの特集は2017/05/24に放送されており、私が見たのは再放送だった。特集で初めて「ムトア婚」を知った視聴者が多かっただろうが、番組やネットでは一般に“一時婚”と邦訳されている。総じてスンナ派ではムトア婚を認めないようだが、シリア難民女性とムトア婚を行うのはサウジやアラブ首長国連邦などのスンナ派金満国の男たちで、パレスチナ人もいたそうだ。
“一時婚”のとおり一時的に幾ばくかの金銭を払い、十代の若い女性と結婚するといった印象を受けるが、明らかな児童婚であり、始末が悪いことに約束した金銭を払わない不実な男も少なくないようだ。困窮を強いられる難民の中には娘にムトア婚をさせる親もいて、実質的な娘の身売りである。

 トップ画像は14歳でムトア婚をした女性で、隣りの子供はムトア婚の夫との間に生まれた娘。彼女の母がムトア婚を決めたのだが、夫を内戦で亡くし、生活手段がない女性にはムトア婚にすがる他ない。ムトア婚でも約束した援助をするなら結構だが、それも果たさず数週間で行方不明になる男たちも多いという。要するに性行為のために一時婚をしたのだ。
 画像の女性の夫もまもなく行方をくらまし、そのため彼女はすっかりうつ病になってしまったそうだ。子供を育てるのは専ら祖母だが、さすがに彼女も娘にムトア婚をさせたことに罪の意識を感じている様子。

 シリア難民女性にムトア婚を斡旋するのもシリア難民女性が多いという。難民女性にも子供がおり、子供たちを養うためにムトア婚斡旋を手掛けるそうだ。悲しいことだが、金銭のためには同胞女性を売る難民もいる。特にシリアはアラブきっての美人国で知られ、美少女目当てに周辺アラブ諸国から男どもが群がっているらしい。
 困ったことにムトア婚はヨルダンに止まらず、他国でも起きている。「性行為のため少女と30分だけ結婚する「ムトア婚」がイラクで横行!9歳少女も被害か、激しく乱暴…仲介人は聖職者!」(2019.10.08)という記事は、殆どの日本人はタイトルだけで仰天するだろう。

 中東以外にも“一時婚”が行われていることを、アルファブロガー鈴木傾城氏の記事で知った。インドの低カーストの貧しい若い女性が、アラブの金満国の男たちの標的になっているとか。東南アジアの歓楽街には中東からも客が来ているので、買春ツアーは中東でも広く行われているようだ。
 一方、サウジにはミシャー婚という合法化された婚姻がある。婚姻における妻の経済的な権利を要求しないこと、夫と同居しないことなど多くの義務と権利を放棄することを条件として結婚する形態で、「旅人の結婚」などと呼ばれるそうだ。ムトア婚とどう違うのか、異教徒にはよく分からない。

 戦争が起きずとも貧困で売られる女性は現代でも大勢いる。戦前の東北など娘の身売り多発地帯だった。敵のもっと「いい男」と出会える可能性はゼロとは言わないが、同胞にも守られない女性がいる現実を直視できぬ者を女性解放論者扱いする国が日本なのだ。

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