トーキング・マイノリティ

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親日派と知日派

2019-03-01 21:40:11 | 世相(日本)

 2月24日、日本文学研究者の第一人者であるドナルド・キーン氏が死去した。享年96歳なので、大往生に相応しい。翌日付の河北新報第22面でも、半分ちかくが訃報で占められていた。東北大の要請で客員教授をしていたことは紙面で初めて知ったが、'97年には東北大が前年に新設した「名誉博士」第一号にもなったという。これを以って河北は「東北にも深いゆかり」があったと報じている。
 同じくニューヨーク出身である東大名誉教授ロバート・キャンベル氏による追悼文もあり、「日本の精神文化を文学資料からくみ上げて紹介し、刺しゅうを編むように丁寧に正確で繊細な英訳を積み上げてきた」と評している。

 記事にするのでwikiの解説に目を通したら、“要出典”となっているものの「ロシア系ユダヤ人の両親の家庭に生まれる…」の一文があったのは驚いた。コロンビア大で共に日本語を学んだポール・ブルームという人物から、「フランスに比べて日本は研究者が少ない」という理由で日本を研究することを薦められたという
 この同窓生は実は米国情報機関員で、戦後来日時での裏の肩書はCIA初代東京支局長であったそうだ(但し、CIA局員だったかすら不明で、初代CIA支局長だったとするのは不適切だとする見方もある)。もちろんブルームもユダヤ系であり、ユダヤ人の広い人脈には改めて舌を巻く。

 ユダヤ系知識人にはリベラル派が大半だし、個人差もあるが総じて彼らは日本には厳しく、儒教圏を支持する傾向がある。そんな中でキーン氏やブルームは心から日本を愛したようだ。殊に前者など、東日本大震災後に永住のために来日、日本国籍を取っている。このような日本文化研究者など至って稀だろう。キーン氏の著書は未だに未読だが、これまでの多大の功績から心から哀悼の意を表したい。

 とかく日本では日本通=親日派と思われがちだが、日本に通じていても親日とは限らず、反日や侮日も珍しくないのだ。その類は単なる知日派と呼ぶのが相応しい。そんな知日派の1人で河北新報にもコラムを投稿していたロナルド・ドーア氏が、昨年11月死去している。河北の訃報はこうあった。

「日本研究で知られる英国の社会学者で、ロンドン大名誉教授のロナルド・ドーア氏が13日、イタリア・ボローニャの病院で死去した。93歳。英ボーンマス出身。客員を務める日本学士院に連絡があった。呼吸障害で入院中だったという。
 第2次大戦中に日本語を学び、1950年に東京大に留学。ロンドン大東洋アフリカ研究学院を卒業後、英サセックス大教授などを歴任。近現代の日本における労使関係や教育など、さまざまな分野について、各国との比較研究を行った。カナダや米国などでも教壇に立った。著書に「学歴社会」「日本型資本主義と市場主義の衝突」「幻滅」など」

 ドーア氏のコラムは毎回不遜としか感じられなかったし、見ただけで古いタイプの典型的な左翼学者だった。ただ、英国ではなく何故イタリアの病院で死去したのかが気になる。祖国の諸福祉制度を誇りとしていたはずだが……
 氏のコラムで最も印象的だったのは「外国人からのエール、反体制運動にプラスか」で、2006-03-24付の拙記事でも取り上げている。先ずアメリカによるイランへの莫大な支援表明のケースを挙げ、続いて日本の死刑廃止運動への共感を示している。ドーア氏は香港人活動家B氏から、日本で死刑廃止運動をどのようにして奨励できるかという問い合わせのメールを受け取ったという。これだけで胡散臭いと感じたのは私だけではないはず。

 さすがのドーア氏も、「ヨーロッパ人が死刑が蛮行だと言うと、より国民的価値体系の中核に触れる問題として反発が起こり易いかもしれない」と述べていたが、同時にかなり脇の甘い見解もあった。
B氏と日本の死刑廃止運動との係わりは違う。アメリカとイランとの間のような敵対的国際関係はないし、相手国の政府を困らせる意図から出た策略的な応援と見られる事も日本の場合はないだろう

 他にもドーア氏は日本の保守系政治家の主張を“小人のナショナリズム”と非難したり、「日本は“良心国”として活動を」等言いたい放題の人物だった。大学教授を歴任しても、紳士であるとは限らないという見本例であり、紳士のキーン氏とは好対照。
 また、ライシャワーのような日本通欧米人は親日家と呼ばれていたのに、最近は知日家の表現に変わったことに米国人が不満を漏らしていることをドーア氏が取り上げ、「好かれたくないのか?」と説教するなど、とにかく嫌味な英国人だったのを憶えている。所詮、日本研究家でも社会学者だから当然か。

 ライシャワーやキーン氏は別格であり、日本通欧米人=親日家と見なされなくなったのは、ドーア氏のような学者に責任がある。日本通欧米人が全面信用される時代は既に過去となった。キーン氏の死は哀しいがドーア氏には、やっとくたばったか、という思いしかない。

◆関連記事:「日本は“良心国”として活動を
知日家外国人学者、その正体は…

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (鳳山)
2019-03-03 00:43:01
ヤフーブログ閉鎖に伴いアメーバブログに引っ越すことに決めました。

タイトルは『鳳山雑記帳アメブロ版』です。アドレスはこちら↓
https://ameblo.jp/houzankai/


まだ記事のインポートも終わっていませんが、取り急ぎお知らせまで。
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鳳山さんへ (mugi)
2019-03-03 22:09:47
 ヤフーブログ閉鎖のニュースには本当に驚きました。おそらく他のブログも追随する流れになるかもしれませんね。

 引っ越し先はアメーバブログにされましたか。今後もご健筆を期待しております。
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