この本は私が民法を始めて学んだ時の教科書である。当時のいや今から15年ほど前までは我妻教授のこの本が、どこでも法学部の学生の本棚にあったのではないだろうか。私の場合は、熱心な法学部の学生ではなかったにもかかわらずこの本がずっと本棚に残っている。大学を卒業してから新版が発行されたときに新版も買ったが、この元の本は捨てずに残してある。読みやすいように本をばらしてページをばらばらにしている。
いずれも昭和32年〈1957年)10月に購入したと記してある。大学2年の後半の学期のはじめである。昭和30年に大学に入学した私は、3年になっていないといけないはずなのに、まだ2年生である。この経緯についてはまた述べることがあろう。落第(「業界用語」では留年という)したわけではないが似たようなものだ。
我妻教授は昭和33年に定年退官をなさった。そのため残念ながら私は直接先生の講義を受けたことはない。しかしこの我妻教授の「民法講義」はどの先生の講義を受けるときにも教科書として使われたようだ。
卒業してから私は、我妻先生の「民法案内」という本を買って読む機会があったが、我妻先生の授業の雰囲気がわかるような気がした。
私達はこの教科書を使って来栖教授の民法の講義を受けた。しかし、民法の講義を真面目に聞かなかった私が内容をとやかく述べる資格はない。ただ来栖教授の講義の際の余談だけは今でも楽しく記憶しているものもある。
我妻先生の「民法講義」がずっと私の本棚に居続けたのは、まさに「逆アリバイ」のようなものだと言われても反論するすべはない。「本棚のこやし」という言葉がある。なるほどと思う。
*画像:我妻栄著「民法総則(民法講義1)」昭和26年第1刷、昭和32年4月第15刷発行
385ページ
「物権法(民法講義2)」昭和27年第1刷、昭和32年7月第12刷発行 358ページ