この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#53「出淵博のこと」Ⅲ(T君のこと)(♪同じ家に何故君は、生まれて来てはくれなんだ。)

2005年04月08日 | 随想

               「小さい時に遊んでた、
                学生時代につきあった、
                いろんな友はあったけど、
                みんなみんな今はない、
                ああ懐かしい 古い顔

                夜遅くまで座り込み
                楽しく飲んだものだっけ
                あの懐かしい飲み仲間
                みんなみんな今はない
                ああ懐かしい古い顔

                恋もしたっけ素晴らしい
                美人だったあの人も
                今は会えない人の妻
                みんなみんな人の妻
                ああ 懐かしい 古い顔

                心知った友達は
                兄弟よりも懐かしい
                同じ家に何故君は
                生まれて来てはくれなんだ、
                ああ懐かしい古い顔」

この歌はT君が教えてくれた歌である。

出淵博が昭和34年(1959年)に大学を卒業しNHKに放送記者として入社し、最初の任地である京都に出発す前に、お別れだということで数人の彼の友人を彼の家に呼んでくれた。
寮での友人ということで、T君と私もこの席によばれた。

最後に私達は出淵の好きだった「雪の降る町を」を皆で歌った。

T君は上に書いたような「ああ懐かしい古い顔」という歌を歌ってくれた。
とてもいいう歌だと思った。私の求めに応じて、会が終わってからT君は紙に歌詞を書きとめ私に渡してくれた。
私はその後、よくこの歌を口ずさむ。

出渕博著作集2の中の年譜で、学生寮の時の友人としてI君と私の名前が載っている。
私の名など載せて頂いているのは光栄だ。きっと編者の一人の英文学者の山内久明氏がこの出淵の壮行会の時の写真を持っていて、I君と私の名前を載せてくれたのではなかろうかと思う。山内久明氏は出淵の尊敬する上級生で山内氏のことは出淵からよく聞かされていたが、山内氏にお目にかかったのはこのときが最初だった。山内氏はたしか大江健三郎の親しい友人であったと出淵から聞いていたと思う。
この会の後で、山内氏の下宿も私の下宿も本郷にあったということで、駅から大学の近くまで山内氏と夜道を出淵のことを話しながら帰って来た。山内氏は出淵が私淑するだけあってた、実におだやかな人であった。出淵にとっては兄のような存在だったのだろう。

T君は私がT「君」などと呼ぶのはおこがましい。この年譜でもT君は「現駐ロシア大使」と書かれている。公の場で私が「君」などと呼べる相手ではない。しかしここではこう呼ばせて頂こう。私も彼のことをテレビやニュースで見ながら蔭ながら彼の活躍を祈って来た。

寮では出淵と私が上級生、T君は下級生の一人であった。札幌出身の長身で白皙、情感豊かな秀才であった。T君はストレートで大学に入ってきたので、その時は我々より3歳年下であった。こんな表現はキザであるが、出淵と私にとっては本当に可愛い下級生の一人であった。

気難しくあまのじゃくの私は同じ部屋で生活する下級生にとっては扱いにくい上級生であったことであろう。私はきっといろいろとみんなに迷惑をかけたことだろうと思う。その中で出淵はよくカバーしてくれた。彼は下級生にあくまでも優しく下級生達はみんな出淵を慕っていた。

寮の仲間のことを思い出すと、本当に懐かしくてたまらない。いろいろなことを思い出す。

出淵の壮行会から2~3年くらいたって、T君が外交官試験に合格し外務省に勤務する前に、わざわざ当時京都に勤務していた出淵と私に会いに来てくれた。私の当時住んでいた会社の独身寮に泊って行ってくれた。

もう40年も前のことだ。
出淵博著作集を読んでいて、私もいろいろと懐かしい昔のことを思い出す。懐かしくてたまらない思いだ。
 T君が歌ったように
               心知った友達は
               兄弟よりも懐かしい
               同じ家に何故君は
               生まれて来てはくれなんだ、
               ああ懐かしい古い顔

という気持ちである。                         (おわり)

 * 画像はいすず書房刊「出淵博著作集2」の中の「出淵博年譜」1ページ目


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