MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2118 ロシアのタフさを甘く見ない方がいい(かもしれない)

2022年03月24日 | 国際・政治


 去る2月24日に始まったロシアによるウクライナへ侵攻から早1か月がたとうとしています。武力による現状変更に賭けるロシアに対し、アメリカ、EU、日本、そしてカナダ、オーストラリアなどが連携して経済制裁を行っており、先頭の手を緩めないプーチン大統領へのプレッシャーを強めています。

 世界第2位の経済大国である中国は参加していないものの、現在行われている経済制裁がかなり思い切ったかつてない規模の内容であることは間違いありません。西側有力国家のほとんどが制裁に参加している事実は、ロシアにとっても十分な脅威となっているでしょう。

 その内容は、プーチン大統領とその周辺の人物、政権に近いオリガルヒ(新興財閥)などが持つ海外資産の凍結に始まり、関係者へのビザの発行停止、主要銀行との取引停止やSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除などに繋がっています。

 さらに、既にアメリカとイギリスは、ロシアからの原油と天然ガスの輸入禁止に及んでいるほか、ドイツもガスパイプライン計画ノルドストリーム2の承認作業の停止を発表。日本政府も国際決済網からの排除に加え、サハリンで開発中の世紀湯開発事業からの撤退などを視野に入れているようです。

 またG7は、ロシアに対する最恵国待遇の取り消しでも既に一致しており、ロシアの国際社会における孤立は深まっていく一方であると言えるでしょう。ロシアの主要都市で、マクドナルドやスターバックス、ユニクロなども閉店・休業を余儀なくされる中、結果として、ロシア経済は世界から完全に切り離されつつあると言っても過言ではありません。

 確かに、ロシア経済は西側の制裁で窮地に陥っている。しかし、だからといってロシアを(あまり)甘く見ない方がいい…外交事情をよく知る人の中にはそういう指摘をする向きも多いようです。

 そんな一人である、元外務省主任分析官でロシア通として知られる佐藤優氏が、総合経済誌「週刊東洋経済」の3月26日号に「現実的脅威となったロシア 感情を排し冷静に分析を」と題する論考を寄せているので、参考までに小欄に概要を残しておきたいと思います。

 国際秩序を武力によって変更しようとするロシアの行動に対し、日本、米国。EUは団結してロシアを最も強い言葉で非難し、最大限の制裁を加えている。しかし、こうした制裁によって、プーチン政権が倒れるようなことは(恐らく)ないだろうと佐藤氏はこの論考に綴っています。

 欧米や日本は、経済制裁でルーブルが暴落し、一般国民の生活が苦しくなれば、その不満がプーチン政権に向かうと考えているようだが、この発想自体が間違っている。そもそもロシアでは、一般国民(民衆)と政治エリートと知識人(知識階級)は別の階級を構成しており、それぞれが交わることはないというのが氏の認識です。

 だからといってこの3つの階級は対立しているわけではなく、「住み分けている」ということ。民衆は政治を「悪」と考えており、例え選挙制度があっても民衆には「我々の意代表を議会に送り出す」という意識はあまりないと氏は説明しています。

 空から候補者が降ってくる。それは、「悪い候補者」と「ひどく悪い候補者」と「とんでもない候補者」で、その中から「ひどく悪い候補者」と「とんでもない候補者」を排除するのがロシアの民衆にとっての選挙だということです。

 ロシア人は(概して)我慢強いと佐藤氏は言います。ソ連末期には物不足で、長い行列に並ばないと石鹸やマッチすら変えない時期があった。砂糖を買うために配給権が必要だったし、トイレットペーパーは年に1~2回しか売り出されなかったので、普段はトイレでは新聞紙を使っていたということです。

 そんな中、1991年にソ連が崩壊し、価格は一転自由化されて商品は陳列棚に並ぶようになった。しかし、今度は価格が高くて民衆には手が届かなくなり、実際、1992年のインフレ率は年間で2500%にも及んだと氏はしています。

 しかし、それでもロシアの国民たちは抗議活動を起こさなかったし、エリツィン政権の権力基盤が揺らぐことはなかった。(それでも以前よりはまし…ということで)西側が誰も手を差し伸べない中、厳しい環境を民衆は耐え抜いたということです。

 一方、こうしたロシアの民衆には不思議な権力観があると氏は指摘しています。

 普段は、「プーチンは強権的だ」「いつまでも同じ奴が大統領なのには飽き飽きした」「プーチンがクリミアを併合したりするものだから、制裁を受けて苦しい生活が続く」などと愚痴を言っている人たちが、外国人がプーチン氏を批判したりすると「我々の大統領を侮辱するな」と食って掛かってきたりする。それは、家の中では父親の悪口を言っていたとしても、そとで他人から侮辱されると不愉快になるのに似た感情だと氏は話しています。

 (なので)経済制裁で国民生活が厳しくなると、その怒りはプーチン政権に対してよりも、制裁をかけている国とその指導者に向かう可能性が高い。そして、外国に依存せず(社会主義体制下でそうだったように)国内で国民生活に必要な物資を清算すべきだという機運が高まるのではないかというのが氏の見解です。

 危機がロシアの民衆を頑なにし、その団結をより強いものにする可能性があるということでしょうか。損得勘定でもないし理屈でもない。経済制裁の効果を伺うにしても、我慢強さと共感がもたらす彼らのタフさを十分に理解しておく必要があると考えるロシアの専門家としての佐藤氏の指摘を、私も大変興味深く読んだところです。



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