MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1939 東京五輪の損得勘定(その2)

2021年08月18日 | スポーツ


 8月8日に17日間の熱戦の幕を閉じた東京オリンピック。同日夜に国立競技場で行われた閉会式では、(規則に従い帰国した選手も多かったとはいえ)世界のアスリートたちがお互いの健闘をたたえ合う微笑ましい姿が数多く見られました。NHK総合で生中継された閉会式の視聴率は個人視聴率で30%、世帯視聴率では45%を超え開会式に次ぐ高視聴率となりましたが、(一方で)閉会式の演出やパフォーマンスへの評価は決して高いものではなかったようです。

 ネット上では、現在もその内容に対する酷評が続いており、2時間以上続いたインパクトの少ない進行に、「飽きた」「つまらん」「電通最低」といった手厳しい声が相次いでいます。確かに、「公園を歩く」といったコンセプトのパフォーマンスや女優の大竹しのぶさんの突然の登場など、演出にもディレクターの意図がよくわからなかったものが多く、(言われてみれば)会場の選手たちも寝転んで退屈そうにしていたような気がします。

 一方、そうした中でひと際目を引き、ネット上の評価も高かったのが、3年後に開催されるオリンピック・パリ大会の紹介映像だったというのは皮肉と言えば皮肉です。フランス各地や国際宇宙ステーションなどで演奏する「ラマルセイエーズ」や、エッフェル塔と空軍のジェット機が織りなすスピード感あふれる映像の数々。オルセーやオペラ座、凱旋門、コンコルド広場などのパリの名所をBMXで巡るテンポの良い構成など、そのセンスの良さに(「さすがフランス」と)世界の人々が目を見張り、3年後の開催に期待を膨らませたことでしょう。

 コロナ禍のもと、初めて開催された感染症厳戒態勢の中での今回の東京オリンピック。各国のアスリートの活躍は素晴らしかったけれど、こと、大会の準備や運営に関しては、結局、準備段階から最後の閉会式まで、あまりピシッとしない、締まらない印象を残したことは否めません。振り返れば今からおよそ10年前、「お・も・て・な・し」の殺し文句のもと官民挙げて始まった日本の五輪招致活動でしたが、時の流れとは残酷なもの、(蓋を開けてみれば)紆余曲折の中でなかなか思惑通りにはいかなかったということでしょう。

 8月21日の「週刊東京経済」誌はこの機会をとらえ、「東京五輪で得をした人、損をした人は誰か」と題する興味深い記事を掲載しています。

 首都圏や北海道の会場は無観客で、チケット収入は激減。81社に及んだ五輪スポンサーのほとんど五輪に関連する宣伝活動を見送るなど、終わってみれば今大会は、組織委員会や協賛企業にとって「持ち出し」ばかりの異例の大会になったと記事は指摘しています。五輪・パラリンピックの大会運営経費は昨年末時点で(公称でも)1兆6440億円。開催地立候補時点での8000億円の見込みから2倍に跳ね上がっている。その内訳は、組織委員会の予算が7060億円、東京都や国が全面的に負担する競技場の建設費や輸送費、セキュリティ費などで特や国が負担する分が9380億円だということです。

 特に収支では、開会式直前期決定された「無観客開催」が、大きな打撃となる見込みだと記事はしています。約900億円と見込まれていたチケット収入は「何十億円」という規模にまで激減し、組織委員会の赤字は避けられない。記事の説明によれば、組織委員会が赤字になってもIOCには負担義務がないことから、一義的には主催都市である東京都が負担する仕組みだということです。

 東京都が誘致に名乗りを上げたのは、財政上の貯金にあたる財政調整基金が潤沢にあったことも背景にあった。ところが、コロナ前に9000億円ほどあった調整基金も、コロナ禍の営業補償などで2021年度には2837億円に激減していると記事は話しています。都は国に対し応分の負担を求める考えを示しているが、(そこは小池知事と菅首相の微妙な関係もあって)国は消極的な姿勢を崩していない。いずれにしても、最終的には納税者が負担することに変わりはないということです。

 一方、開催を支えた協賛企業、スポンサーの損得勘定はどうなのか。
 開催直前になっても国民の間には反対論が根強く、多くの五輪スポンサーは腰砕けになったと記事は指摘しています。7月中旬にはトヨタ自動車が五輪に関連するテレビCMをやめると表明するや、ほかの企業も右に倣えと追随した。多くの企業が、CMだけでなくネットや新聞・雑誌での広告を控え、トップスポンサーのトヨタやパナソニック、ブリジストンなどの首脳が開会式を欠席したのも記憶に新しいところです。

 スポンサー企業は五輪の宣伝効果を見込み、合計3700億円にも及ぶ多額の資金を投じてきたと記事はしています。もとより、企業がそうした資金を出すのは五輪に関連した宣伝活動を行うためだけではなく、五輪関連事業への出席やチケットの割り当てなどの特典があるから。そこに重要顧客を招くことで販売促進にも活用できると踏んでいたからだということです。
 ところが、コロナによって関連行事がほとんどなくなったうえに会場も無観客となり、その当てはすべて外れてしまった。組織委員会や東京都の要請に応得た多くの企業が(経営上)無駄金を投じることになったというのが、今回の五輪に関する記事の認識です。

 結論として言えば、①政府も東京都も持ち出しがかさみ、②そのツケは日本国民や東京都民が背負うことになり、③スポンサー企業も協賛費用がかさんだだけでメリットが得られなかった。また、④無観客開催で海外からの旅行客がもたらすインバウンドは期待できず、⑤コロナの蔓延で日本の社会や文化の紹介もままならなかった…ということ。これでは(どう贔屓目に見ても)、「興行」としての東京オリンピックが所期の目的を達成し、投資に見合った成果を上げたとは言えないでしょう。

 さて、こうした話を聞く限り、まるで「いいとこなし」のように見える今回のオリンピックですが、その中にも(果たして)「得」をした人はいるのでしょうか。

 結局のところ、バッハ会長率いるIOCは何ら懐が痛まず、まずは「一人勝ち」といえるかもしれません。開会式や閉会式で特に評判の悪かった電通もそれなりの大きな商売にはなっているでしょうし、(当初はあれほど開催に否定的だった)テレビ局などのメディアも(政府の「観戦勧奨」のお墨付きもあって)、蓋を開ければ連日の競技の盛り上がりに鼻息は荒いようです。スポーツ用品の売り上げはそれなりに好調と聞きますし、勿論それ以前に、競技会場や選手村、道路その他のインフラ整備は建設事業者に大きな利益をもたらしていると思われます。

 世の中には様々なお金の使い道がありますが、こうしたお金が(どのような形にせよ)国民に還元され「投資」として生きるならば、意味のない単なる「死に金」とも言い切れません。願わくば、総額で数兆円にも及ぶとされる今回の東京五輪関連の出費が、国内の消費を拡大し日本経済を活性化する方向で機能してほしいと感じるところです。



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