MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#1938 東京五輪の損得勘定(その1)

2021年08月17日 | スポーツ


 例年以上の酷暑の中、新型コロナウイルスの感染拡大が続く東京で開催された東京オリンピックも8月8日に閉会式を終え、何とか(無事に)その幕を閉じました。

 禍中の新型コロナウイルス対策とそれに伴う大会の1年延期によって、今回の東京オリンピック・パラリンピックの開催経費は、昨年末の時点で1兆6440億円に膨らむとされています。公表されている計画では、大会組織委員会が7210億円を担い、東京都は競技会場の建設費用や輸送用車両など7020億円、国は新国立競技場の整備費(国の負担分)784.5億円を含む2210億円をそれぞれ負担するということです。

 一方、これらの大会経費とは別に、東京都や国が支払う「関連経費」も忘れるわけにはいきません。東京都は、暑さ対策や既存施設のバリアフリー化などの改修工事にかかる掛かりまし経費を7000億円以上と見積もっています。また、国も(警察官の人件費など)警備にかかる費用などを、加えて負担しなければなりません。スポンサー収入やチケット収入などで賄うとされている組織委員会分の費用はひとまず置いておくとして、それを除いた東京都と国の「大会経費」と「関連経費」の合計額はる。都が1兆4519億円、国が1兆3059億円となる計算です。

 なお、この金額は都と国の一般会計から支出されることになり、その財源がいずれも税金であることは論を待ちません。その負担額は、1人あたり東京都民で10万3929円。4人家族なら1世帯約42万円を都民税などで五輪のために払うことになる。これは、たとえ都民でなくとも、国民1人あたり1万408円の割り当てになるということです。最終的に無観客を決めた今回の大会。政府や東京都は「オリンピックは自宅で、テレビで」と訴えていますので、これが都民と国民の「テレビ観戦料」ということになったわけです。

 とは言え、暗い話ばかりではありません。綱渡りでも開催できたおかげで、日本選手団は金メダル27個を含む史上最多の58個のメダルを獲得。国民も連日のメダルラッシュに大きく沸きました。新聞やテレビは「お祭りムード」を煽り続け、話題が話題を呼んで競技の視聴率もうなぎのぼりとなる中、この観戦料を高いと見るか安いと見るかは人それぞれでといったところでしょう。

 ただ、(少なくとも)これだけは言えるのは、五輪開催前にそこまでの負担を覚悟していた東京都民はそんなには多くないはずだということ。これから先、組織委員会や東京都、そして国はその経費をきちんと精査し、それぞれ責任の所在を明らかにする必要があると言えるでしょう。

 さらに、今回のオリンピック開催によって都民や国民の肩にのしかかる負担は、これだけにとどまりそうにないという指摘もあります。8月10日の「日刊ゲンダイDIGITEL」の配信記事によれば、約3兆円を発表されているこれらの開催経費には、組織委の赤字補填やコロナの水際対策などは加味されておらず、これを含めた総費用は4兆円規模に膨らむ可能性があるということです。これは、日本が獲得したメダル1枚当たりの金額に換算すると、約690億円という法外な金額になるそうです。メダルの数で金額を割るというのもどうかとは思いますが、いくら「おカネには変えられない」と言っても、コストとしてはかかりすぎではないかと感じる向きも多いことでしょう。

 実際、開会式直前に決定された「無観客開催」の代償として、組織委が900億円と見込んでいた入場料収入は全体の約97%が失われ、約20億円程度に激減したと記事は伝えています。お金は出ていくばかりで入ってこない。組織委員会が経費で建設した競技場や通信インフラなど、スポーツの振興に資する一定のレガシーは残るとしても、海外からの観光客の受け入れを断念したことで、観光需要や国際ビジネスの拡大によるインバウンドの増加など、当初期待された経済効果の多くが「期待外れ」に終わったとの指摘もあります。

 オリンピックという世界一のスポーツイベントが、コロナに苦しむ人々の心に明かりを灯し、社会を盛り上げたことは(おそらく)事実でしょう。しかし、祭りの後に何が残ったのかと聞かれれば、少なくとも「見込んだようにはいかなかった」というのが正直なところかもしれません。
 国や人によって考え方は大きく異なり感染の状況も刻々と変化する中、誰がやっても難しい運営だったとは思いますが、それでも個別の判断の過程を検証しきちんと評価していくことが、未来の日本により良い結果をもたらすのではないかと改めて感じているところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿