MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2218 出産する人生が思い描けるか?

2022年07月28日 | 社会・経済

 米・テスラCEOのイーロン・マスク氏が「出生率が死亡率を超えることがない限り、日本はいずれ消滅するだろう。(そしてこれは世界にと言っての大損失だ。)」とツィートし、話題を呼んだのは今年5月のこと。同氏としては(データから見て)至極当然のことを指摘したまでなのでしょうが、日本がかかえる深刻な問題を鋭く突いていただけに関係者の衝撃は大きかったようです。

 厚生労働省によると、2021年に生まれた日本人の子ども数は81万1604人。データがある1899年以降の122年間で最少を記録したということです。この数は前年よりも2万9231人(3.5%)も少なく、国の推計より6年早く81万人台前半に突入していることが判ります。

 実際、日本では、これから母親となるはずの若い女性の人口が大きく減少しており、これまでのペースを超えて少子化が加速すれば、マスク氏の懸念のリアリティがさらに高まることは想像に難くありません。

 既に20年以上も前から指摘され様々な対策が講じられてきたにもかかわらず、それでもブレーキがかからない日本の少子化に解決の糸口はあるのか。

 6月4日の日本経済新聞に、『「出産する人生を描けず」 21年の出生率1.30、6年連続低下』と題する記事が掲載されていたので、参考までにここで紹介しておきたいと思います。

 2021年の人口動態統計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.30と6年連続で低下。さらに昨年は、新型コロナウイルス禍で出会いの場が減ったことが婚姻率の低下に拍車をかけたと記事はその冒頭に記しています。

 日本では結婚後に出産する女性が大多数となる。しかし、(コロナの影響などにより)2019年に人口1000人に対し4.8だった婚姻率は、20年に4.3、21年には4.1まで落ち込み、出生率のへの影響が懸念されているということです。

 さらに、若い夫婦の「子どもを持ちたい」という意欲も低下していると記事は指摘しています。これまでは、(日本でも)結婚した夫婦の出生意欲は高いとされてきた。しかし「出生動向基本調査」によると、ここ30年間で夫婦が持つ予定の子どもの数は減り続け、2015年は2.01人と過去最低だったということです。

 その一方で、未婚女性で「結婚せず仕事を続ける」と答える人は増え続けていると記事は言います。その割合は、「結婚しても子どもを持たずに仕事を続ける」とあわせると既に25%を占めており、「未婚女性の4人に1人が『出産する人生を想像できない』と考えていることが見て取れるということです。

 そうした中、政府は(2010年の「出生動向基本調査」をもとに)若い世代の「希望出生率」を1.8とはじいている。しかし、その後に公表された2015年の調査結果を踏まえて再計算すると、希望出生率は1.75に低下していることが判ると記事はしています。

 その原因は何なのか?希望出生率が急激に落ち込んでいる背景には、「経済的な要因」があるというのが記事の見立てです。

 2015年の出生動向基本調査では、妻が30~34歳の夫婦が理想の子ども数を持たない理由として「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と答えた例が8割に達している。若い世代の雇用環境は悪化しており、生まれた年が最近になるほど年収の水準が下がっているということです。

 さらに、日本には、「男性は仕事、女性は家事育児」という古くからの性別役割分業意識や、親が負担を背負いがちな子育て環境が複雑に絡み合った社会構造がある。実際、日本の女性が家事・育児に割く時間は(依然として)男性の5・5倍に及ぶというデータもあると記事は指摘しています。

 子育て支援にかかる日本の家族関係社会支出はGDP比で1.73%(19年度)にとどまり、出生率が比較的高いスウェーデン(3.4%)やフランス(2.88%)に遠く及ばない。こうした数字からは、十分な予算が割かれないまま子育ての社会化が進まず、家庭のなかで女性が負担を背負う構図が浮き彫りになってくるということです。

 このような状況は、働く女性のキャリア形成の妨げや、昇進の遅れなどの形で顕在化する。正規、非正規と同じ雇用環境にあっても男女の賃金格差は現に存在し、課長級、部長級など同じ役職でも格差は目立つというのが記事の認識です。

 さて、日本の少子化問題の解決には、女性の社会的、経済的自立と地位の向上を図り、出産し、子育てをする人生を思い描けるようにすることが求められると記事は指摘しています。

 そのためにも、まずは(日本の)女性が置かれた不利な環境の具体的な改善を急がなければならない。先日の女性活躍推進法に関する省令改正で、今後、大企業は賃金格差の情報開示が求められるようになるが、これを契機に社会がさまざまな男女格差に目を向け、長時間労働の見直しなどの取り組みを加速させる必要があるということです。

 出生率が1.30を割り込む深刻な「超少子化」社会。東北大学の「子ども人口時計」は、子どもの減少率がこのまま続くと、2966年10月5日に日本人の子どもはひとりとなる未来を指していると記事はこの論考の最後に綴っています。

 日本にも「社会が結婚から子育てまで伴走する」という強いメッセージと、それを裏打ちする政策が欠かせない。女性の自立を支え、若い世代が安心して子育てできる社会につくりかえなければ、出生率の改善は永遠に望めないだろうとする記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿