MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2342 公務員の給料と官僚離れ

2023年01月18日 | 社会・経済

 「キャリア官僚」と呼ばれる国家公務員の総合職の2021年度の申込者数は1万7411人。10年前の2011年度と比べ約4割落ち込んでおり、若年人口の減少率(2%程度)を大きく上回っているようです。

 近年の若者に、公務員はなぜ就職先として選んでもらえないのか。2021年に人事院が大学生を対象に行った意識調査では、「深夜や早朝に及ぶ勤務が多そう」という項目に、学生の55%が「そう思う」または「ややそう思う」と答えたということです。

 実際、安倍政権下の「働き方改革」により民間企業で残業時間の厳格な管理が進む一方、2020年の国家公務員(本省職員)の年間残業時間は358時間。2014年の364時間と比べても、ほぼ横ばい(人事院調べ)とされています。

 残業時間は月平均でおよそ30時間ほどに見えますが、カウントされているのは「上司の命令によって勤務した時間」だけで、霞が関のブラックな職場環境は広く知られているところ。数字からは、国会待機などの多くがサービス残業となっている実態も透けて見えます。

 一方、霞が関からの人材流出も止まらないようで、(内閣人事局によれば)2019年度に自己都合で退職した20代の総合職は86人。2013年度は21人だったということなので、4倍以上に膨れ上がっているのが現実だということです。

 こうして進む学生の官僚離れの状況に関し、12月19日の「PRESIDENT ONLINE」に経済ジャーナリストの磯山友幸(いそやま・ともゆき)氏が『「自動的な給与増」を変えない限り、東大生の「官僚離れ」は止まらない』と題する一文を寄せていたので、その概要を小欄に残しておきたいと思います。

 このほど公務員に支給された冬のボーナス。人事院勧告を受け3年ぶりの改定となったが、平均の増加額はわずかに500円。平均年齢の低下などもあるとはいえ、岸田文雄内閣が民間企業に求めている大幅な賃上げとは比べるべくもないと磯山氏はこの論考に記しています。

 公務員の給料に対しては中小企業などに比べて高い「役人天国」だという批判も根強いが、基本、民間水準をベースに決める制度とされている。ここのところ、新型コロナウイルスで激減した民間ボーナスなどを参考に公務員給与も「緊縮」状態が続いていたが、問題は今後、世の中が「賃上げ」ムードになってきた際、公務員給与も「民間並み」に引き上げられるかどうかというのが氏の見解です。

 消費者物価の上昇が3%を超える今、実質賃金を増やしていくには5%程度の賃上げが民間企業では「必須」になるに違いない。人手不足もあり、中小企業の間でも賃上げに踏み切るところが出てくるだろうと氏は言います。そうした中、防衛費や経済対策などの財源問題がひっ迫する政府において、人件費の増加の議論ができるかどうか(公務員給与の増額を言い出せるかどうか)は予断を許さないということです。

 国家公務員の人件費は概ね5兆3000億円余り。5%増やすには新たに3000億円近い財源が必要になると氏は言います。自衛官だけでも2兆円近い。しかも、人手不足の中で待遇を見直していかなければ、人材確保が現実的に難しくなるだろうというのが氏の見解です。

 さて、そこで問いたいのは、そもそも公務員の給与・ボーナスの水準を「民間並み」とすることに合理性はあるのかどうかということ。公務員の仕事は、直接、経済的に収益を生み出すわけではないのだから、インフレになったからといって収入が増えるわけではない公務員に給与増の原資は生まれてこない。なかんずく、財政赤字が続く国家がインフレに直面している中では、自動的に公務員給与を引き上げていくことは難しいというのが氏の指摘するところです。

 であれば、こうした行き詰まりをきっかけに、公務員給与のあり方を抜本的に見直す契機にすべきではないかと、氏はここで提案しています。この際、「終身雇用」を前提とした「年功序列型賃金」を見直し、給与減少もあり得る人事体系にすることで、優秀な人材や重要なポストの給与を大きく引き上げることを検討したらどうかということです。

 実際、官庁に奉職した若手世代が大量に辞めて民間に行く一方で、一度辞めた官僚経験者が「出戻り」するケースなども増えているという。そうした「出入り自由」の組織にするには民間と給与水準が同じというだけではなく、昇進や給与などの制度が民間並みである必要があるというのが氏の考えです。

 これまで霞が関は東大出身者を中心に、高学歴で優秀な人材を集めてきた。そして、そうした人材が民間に流出するようになったのは「官僚の給与が安いから」という説明が好んでなされる。しかし実際には、旧態依然とした昇格制度や組織の高齢化、硬直的な働き方に幻滅する人が少なくないと氏は指摘しています。

 意思に反してクビになることはなく、降格されることもほとんどない。毎年給与が増えていく公務員の人事制度が硬直化していることが、優秀な若手に愛想を尽かされている原因だというのが氏の見解です。

 民間では年功序列型賃金が崩れて久しい。民間の給与が上がるといっても全員が等しく賃上げされる時代は既に終わっていると氏は言います。日本国の経済規模が右肩上がりに大きくなる時代が終わる中で、(もちろん)公務員給与も「民間並み」で一律に引き上げていく時代は終わったと考えるべきだとこの論考を結ぶ磯山氏の指摘を私も興味深く受けとめたところです。

 



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