MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2465 若者を疲弊させる「ステルス天引き」

2023年09月13日 | 社会・経済

 厚生労働省が8月7日に公表した5月分の勤労統計調査結果によると、基本給や残業代などを合わせた働く人1人あたりの現金給与総額は平均で46万2040円。昨年同月に比べて2.3%増え、18か月連続でプラスとなったとされています。このうち、夏のボーナスなど特別に支払われた給与は18万9812円と去年6月に比べて3.5%の増となり、人手不足の労働市場の下、賃上げの動きが続いていることが判ります。

 一方、物価の変動分を反映した実質賃金は去年6月と比べて1.6%減少し、15か月連続でマイナスを続けているということです。労働団体の「連合」の調査では、春闘での賃上げ率が平均で3.58%と、今年はおよそ30年ぶりの高い水準となりましたが、それでも物価の上昇には依然追いついていない状態が伺えます。

 消費者物価(生鮮食品を除く総合)は2022年4月に前年同月比2.1%となった後、9月に3%台、12月に4%台まで上昇ペースが加速。2023年2月以降は、政府による電気・都市ガス代の負担緩和策によって3%台前半まで低下したものの、15カ月連続で(日銀が物価安定の目標とする)「2%」を上回っています。

 加えて、財務省が公表した2023年度の国民負担率では、所得に対する社会保険料の負担割合の見通しは18.7%に達しているとのこと。30年前の負担割合がわずかに11.5%であったことからも、賃金に大きな変動がない一方で国民負担率が確実に高まっている状況が見て取れます。

 例え多少給料が上がっているとしても、国民は確実に貧しくなっている。そうしたしわ寄せは、特に給料の低い若い人たちや非正規で働くシングルマザーなどの(立場の弱い人たち)の身の上に大きくのしかかっているのでしょう。

 そうした折、8月8日のYahoo newsに、コラムニストの荒川和久氏が『給料があがっても可処分所得が減り続ける 「バラまかなくていいから取らないでほしい」という切実』と題する一文を寄せているのを見つけたので、参考までにその一部を小欄に残しておきたいと思います。

 日本の20代の可処分所得の中央値はたったの235万円(2022年)。20代の半分が、月当たり20万円にも満たない可処分所得で暮らしていると、荒川氏はこの論考で指摘しています。

 可処分所得とは、所得から非消費支出(所得税、住民税や社会保険料)を差し引いた金額のこと。つまり、給料は増えても、それ以上に差し引かれる金額が増えているために手取りが減っているのが現状だと氏は言います。

 2000年時点では引かれる金額は年間52万円程度だったが、それが2022年には倍以上の109万円にも膨らんでいる。ただでさえ給料絶対額が多くない20代にとって、年間100万円以上も天引きされているのはつらすぎる状況だということです。

 これは対所得比にすれば、2000年は16%だったものが2022年には32%になっているということ。昨今、企業の賃上げのニュースが連続しているが、仮に賃上げで額面給料が上がっても、なんだかんだで引かれる金額がそれ以上なのであれば、それは実質給料の引き下げと一緒だというのが氏の見解です。

 そして、これは20代だけの問題ではなく、30代以上の独身者も既婚者も(給与所得者の場合)これら「ステルス天引」きによって手取りが増えない状況が続いている。所得が増えれば増えるほど天引き額も大きくなり、可処分所得は一向に増えていかないということです。

 本来、個人の所得が増えれば、税金を支払ったとしても可処分所得は増え、その中でまかなう消費支出も増えていく。個人の消費が増えれば、企業の売上もあがり、企業の利益があがれば、また給料をあげられるという好循環になるはずだと氏は言います。

 しかし、今の日本で起きているのは、給料は上がっているのもかかわらず手取りが減っていて、結果買いたい物を我慢し、行きたいところにも行けず、消費支出が低迷するという悪循環だというのが氏の認識です。

 少子化問題に伴い、若者の非婚化が取りざたされているが、(言うなれば)今や結婚もまた「消費活動」のひとつとなっている。そして「消費」とは、お金と時間と肉体と精神を使って充実を得る行動のことだと氏は説明しています。

 かつて結婚が生産的だった時代にはお金は必要なかったかもしれない。むしろ結婚によってお金を生み出す構造でもあった。しかし、もはや(消費と化した)結婚には、お金こそが必要となるということです。

 若者の手取りが減り続けているのと連動して、未婚率が上昇しているという完全に「負の相関関係」が成立していることについて、我々は深刻に受け止める必要があると氏は話しています。

 でないと、今のこの事態が、新たな「若者氷河期」を生み出してしまいかねない。何も政府支出からバラまけという話をしているのではない。バラまいた上で、それ以上に徴収するようなまやかしはもう沢山。バラまかなくていいから国民負担を(これ以上)増やさないでほしいとこの論考を結ぶ荒川氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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