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♯1347 携帯キャリアが大量のCMを流すワケ

2019年04月25日 | 社会・経済


 ACジャパンや日本マーケティング協会が参加する「CM総合研究所」が毎年度発表しているCM好感度ランキングによれば、2018度の1位はKDDI(au)で実に4連覇と破竹の勢いです。

 桃太郎(松田翔太)、浦島太郎(桐谷健太)、金太郎(濱田岳)の「三太郎」シリーズが引き続き人気だったほか、神木隆之介さんらが出演する「生徒会長編」なども底上げに貢献したようです。

 ランキング2位はソフトバンクで、堺雅人さんや上戸彩さんらが出演するおなじみ「白戸家」シリーズが安定した力を見せています。白い犬のお父さん(白戸次郎)は、既に国民的なキャラクターと言えるでしょう。

 そして3位はNTTドコモ。熱唱する高畑充希さんが話題になったほか、星野源さんらが登場する「星プロ」シリーズも放送されています。

 因みに4位には求職求人プラットフォームのIndeed(「バイト探しはインディード♪」ですね)で、5位には格安携帯キャリアのY!mobileが付けています。

 トップ5のうち4ブランドが携帯電話関連1位〜3位に大手3キャリア、5位にY!mobileがランクインし、トップ5のうち4ブランドが携帯電話関連となりました。

 これらのCMに共通するのは、料金システムの説明やお得感などにはあまりこだわらず徹底してイメージ戦略を貫いていること。短いCM枠の中で複雑な料金プランや通信の仕組みなどを伝えるのは所詮無理な話なので、キャラクターと設定で世界観を作りあげブランド認知を高めるという作戦でしょう。

 実際、携帯キャリアが高感度で強さを見せている直接的な要因は、流すCM量の多さにもあるようです。

 タレント別テレビCM出稿量は、1位に松田翔太、2位に桐谷健人、4位に濱田岳、と見事に「三太郎」が上位に入っており、ランキングにはその他の携帯キャリアのシリーズCMに出演するタレントが名を連ねています。

 これほどまでに携帯キャリアがCMを流す理由は、ひとつに(日本の株式時価総額トップ10にこの3社が入っていることからもわかるように)各社がとても儲かっているからでしょう。

 法人税で持っていかれるくらいなら、費用は多少かかってもCMを打った方が利益につながるというのは、それ自体、経営上から言っても合理的な判断です。

 ただ、それにしてもこれだけ大量のCMを通年で流すのは、企業に通っても生半可なことではありません。なぜ、携帯キャリア各社はここまで徹底してイメージCMを流し続けるのか。

 そのワケについて、ヤフー・メディアカンパニー・エバンジェリストの井上大輔氏が、経済誌「週刊東洋経済」の3月16日号に「携帯キャリア大量CMの理由」と題する興味深い一文を掲載しています。

 氏によれば、これまでの理論では、マーケティングの基本は「差別化」にあると考えられてきたということです。

 市場が成熟すると商品やサービスは「どれも同じ」になると氏は言います。そここで他にはない「違い」を強調し独自のブランドイメージを作って、それに反応するコアなファンを生み出す必要が出てくる。

 コアなファンが増え、繰り返し利用されることでブランドは成長し固定的な顧客をつかむことができるというのが、長い間信じられてきた伝統的なマーケティング理論だということです。

 しかし、消費者は本当にそうした「違い」に注目しているのか。

 車で言えば、メルセデスベンツとBMWの買い替えは実は頻繁に起こっている。ここにレクサスとアウディを加えた4つの高級車ブランドの中で、顧客は行き来しているのが現実だと井上氏はこの論考で指摘しています。

 それぞれのブランドイメージによって顧客が棲み分ければ相互の買い替えは起きないはず。しかし、現実は(多くの顧客にとって)メルセデスもBMWも「1000万円するドイツのかっこいい高級車」というイメージを共有した非常によく似たブランドに過ぎないということです。

 伝統的な理論では、消費者は文ランド間の差異を近くに寄って「虫の眼」で見ると考えられてきたと氏はしています。しかし実際の消費者は、離れた場所から「鳥の眼」で見ているというのが井上氏の見解です。

 氏によれば、この主張を裏付けるものに「ダブルジョパディ(二重の危険)の法則」というものがあるそうです。

 食品、自動車、医薬品などの50を超える市場で、「シェアが低いブランドは利用者もリピート購入も少ない」という事実が例外のないものとして発見された。これはマーケターにとって(かなり)衝撃的なものだったと氏は説明しています。

 なぜなら、それまでは「数は少ないが熱狂的な利用者に繰り返し購入されることでシェアを獲得したブランドもある」と信じられていたから。そこで、「リピーターを獲得するためには何よりもまずシェアを上げることが求められる」というのでは、何とも切ない話に映ったことでしょう。

 実際、虫の眼でいくら差別化して違いを打ち出しても、そこを支持する熱心なファンの人数はシェアを左右するほどには増えないと、井上氏はこの論考に綴っています。

 大多数の消費者は、鳥の眼でいくつものブランドを(俯瞰的に)見ている。結局は「どれも同じ」なので、マーケティング担当者がどんなに頑張っても「乗り換え」が発生するのは避けられない。

 そして、そこのところを割り切って、乗り換えのタイミングが来るたびに新しい利用者を受け入れ続けることで、ブランドは(ようやく)成長するということです。

 現在の日本ではその代表が携帯電話キャリアに当たると、氏はここで説明しています。

 もしも大量に抱える利用者の乗り換えを食い止める手段があるとすれば(その方が安上がりなので)各社はそうしているだろう。しかしその策はない。だから、常に新しい顧客を呼び込むために、代表的な手段であるテレビCMを大量投入しているということです。

 実際に、流されているCMの内容もサービスの差別化を示すものではないと氏は言います。乗り換えを「食い止める」のではなくて、促すために多額の広告宣伝費を投じてCMを打っている。

 こうした状況から、日本でも有数の広告主である携帯キャリアのマーケティング戦略は、新しい理論に従っているように思えると結ばれた井上氏のコメントを、私も興味深く受け止めたところです。


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