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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯281男女の行動の違い

2015年01月09日 | 社会・経済


 世界にも例を見ない未曾有の少子高齢化が進む日本では、2055年には出生数が2005年時点の40%程度まで低下する一方で、人口に占める高齢者の割合が約2倍に拡大することから、生産年齢人口は現在のほぼ半分に縮小することが確実視されています。

 一方、60%程度とされる女性の就業率には、(海外との比較において)現時点では依然として大幅な上昇余地が残されていると考えられています。試算では、この女性の就業率が男性と同水準(80%)まで向上すれば、就業者は約820万人増加し、日本のGDP は 15%程度押し上げられるという推計もあるようです。

 こうした中、安部晋三内閣が進めるアベノミクスの成長戦略の一角をなすウーマノミクス政策では、出産後の女性の就業を促すとともに、社会のあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合を、2020年までに30%以上にするという目標を掲げています。

 これに伴い、菅官房長官は、平成27年度の国家公務員の採用者に占める女性の割合を30%以上に引き上げるとしているほか、中央省庁の政策の企画・立案を担う「総合職」についても同じく女性の割合を30%以上とするよう、各省庁に求めたということです。

 なぜ(少なくとも日本では)これまで女性管理職が少なかったのか?こうした現状が、人材の育て方が男女で異なるなどの制度上の問題に起因していることに疑う余地はありません。

 しかし一方で、研究が進む行動経済学の視点から、(競争や選抜に対する嗜好などの)男女の行動特性の性差が、こうした状況に少なからず影響しているという見方を示す専門家も多いようです。

 大阪大学社会経済研究所の大竹文雄(おおたけ・ふみお)教授によれば、男女の「競争」に対する振る舞いを詳細に分析すると、(もちろん個人差はあるものの)統計学的に有意な一定の特徴(傾向)がみられるということです。(2014/2/22日本経済新聞)

 例えば、競争的な状況を好むか否かという経済実験を行うと、米国や日本など先進諸国では男性の方が競争を好む傾向が共通してみられると大竹氏は指摘しています。

 ところが、女性が伝統的に経済的な決定権を握っている母系社会のインドのカシ族を対象にした実験では、女性が男性より競争を好む結果が出ている。つまり生来の性差だけではなく、生後の文化的背景も考慮する必要があるというのがこの問題に対する大竹氏の認識です。

 また、大竹氏は興味深い例として、グループの男女構成によって「(公平性の高い)出来高方式」と「(競争性の強い)トーナメント方式」のどちらを選ぶかに違いが出ることを紹介しています。

 男女の混合グループと女性だけのグループで比較すると、メンバー全員が女性のグループではトーナメント方式を選ぶ女性が有意に増えるということです。また、競合相手に男性がおらず女性だけだと分かると、女性も競争嗜好が高まるとしています。

 さらに氏によれば、女子校と共学校に通う女子学生を比較した実験では、女子校に通う女子は共学校の女子よりも競争を好む傾向にあることが明らかにされているということです。

 日本経済新聞の連載「やさしい経済学」(12月「男女の行動の違い」)」においても、一橋大学准教授の竹内 均氏が、これによく似た競争行動における男女の性差を指摘しています。

 9歳と10歳児の児童を対象としたイスラエルの徒競走実験では、男子は一人で走る時よりも二人で競争させた時の方が速く走るということです。ところが女子は、競争させるとかえってスピードが遅くなる。そればかりか、男子ではなく女の子同士で競争させるとさらに大きくタイムを落としたということです。

 竹内氏はこうした実験結果を、「競争」そのものというよりも「勝者」や「敗者」の存在という社会的な関係性や、あるいはクラスメイトたちに見られているかどうかといった周囲の状況などに、女性の方が敏感に反応している結果である(ではないか)と説明しています。

 女性にとっては競争の結果(勝負)そのものよりも、それによってもたらされる影響のほうが、いわゆるプライオリティが高いということになるのでしょうか。

 ウーマノミクス政策を進めるうえでは、男性と同じような競争原理のみに基づくストレートな選抜ばかりでなく、女性の視点を踏まえたより総合的なリーダーシップへの評価を盛り込む必要があるのかもしれません。

 そして女性が活躍する社会では、男性社会の単純な競争とはまた少し違った、ある意味奥深い価値観が生まれてくる可能性も否定できません。

 男性と比較して、女性にとっては「自分自身の社会の中での位置づけ」がより重要であり、その行動に大きな影響力を持っているとする竹内氏の指摘を、そうした視点も含め、今回、大変興味深く読んだところです。



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