MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2377 東京で出産・育児ができるのはどんな人たち?

2023年03月08日 | 社会・経済

 東京都の小池百合子知事は都の2023年度当初予算の編成に当たり、(年初に話題を呼んだ)①「18歳以下の子どもへの月5000円の一律給付」を皮切りに、②「0~2歳の(第2子の)保育料(初速制限のない)一律完全無償化」、③「都内の私立中学校に通う生徒の授業料への年間10万円の助成」など、金にものを言わせた「分厚い」少子化対策を次々と打ち出しています。

 広く知られている通り、実際、東京都の少子化は全国最悪とされ、域内の合計特殊出生率はわずかに1.08。全国平均の1.30を大きく下回っており人口の維持が可能となる2.07には遠く及ばない状況に、東京都が危機感を抱くのもわからないではなりません。

 しかしだからといって、全国の各地から結婚や出産適齢期の独身女性が大量に流入し、彼女らを(あたかも「ブラックホール」のように)飲み込んでいく東京に、本当に(東京が団地ブームに沸いた高度成長期のような)子だくさんの未来が訪れるのか。もとより少子化は東京都の対策だけで解決できるような問題ではなく、もう少し構造的なもののような気がするのは私だけではないでしょう。

 それにしても、東京都の合計特殊出生率はなぜこれほどまでに低いのか。東京は本当に日本の少子化の元凶なのか。1月24日のYahoo newsに、コラムニストの荒川和久氏が『結婚も出産も豊かな貴族夫婦だけが享受できる特権的行為となったのか?』と題する興味深い論考を寄せているので、その一部を紹介しておきたいと思います。

 小池都知事の月5000円児童手当が話題だが、ご存じの通り、東京都は日本全国一合計特殊出生率の低い地域とされる。しかし、勘違いしてはいけないのは、東京の合計特殊出生率が低いのは決してそもそもの出生力が弱いからではないと、荒川氏はこの論考に記しています。

 そもそも合計特殊出生率とは15 歳から49 歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの。1人の女性が、その年の年齢別出生率で(各年齢で)出産し続けると仮定し、一生の間に子供を生む子供の数を(便宜上)計算した数字に過ぎません。

 と、いうことで、東京都の合計特殊出生率が低いのは、当該出生率の分母が(都内に暮らす)未婚も含む15-49歳の全女性を対象としているためで、未婚率が全国でも飛びぬけて高い東京では当然出生率は低くなるというのが氏の指摘するところです。

 その証拠に、出生率にはもうひとつ指標があって、単純な「粗出生率(人口千対出生率)」で見ると東京は7.1と全国9位に位置付けられる(2021年実績値)。出生数ベースでみても東京は日本全体の約12%を占めているので、東京の動向いかんで日本全体が大きく左右されることは間違いないと氏は説明しています。

 それでは、その東京都の23区内でもっとも合計特殊出生率が高いのはどこなのか?氏によれは、その答えは「中央区」だということです。2021年は1.37で、23区中のトップであるばかりか、市部を含んだ東京全体でもトップを走っている。しかも、2020年は1.43であり、2015-2018年はずっと1.42-1.44という高い水準をキープしているということです。

 因みに、東京23区の2021年合計特殊出生率のランキングのトップ3は、①中央区、②港区、③千代田区とのこと。この3区は、言わずと知れた日本で最も平均所得の高い自治体で、ここ数年、海浜部を中心にタワーマンションの建設・分譲が進んだ地域としても知られている地域でもあります。

 さて、それではそこでどんなことが言えるか。それは、東京は「所得が高くなければ子どもを持てない」という状況にある(のではないか)ということだと、氏はこの論考で指摘しています。

 氏によれば、出生率1位の中央区は、過去はむしろ下位の方に位置していたとのこと。2006年過ぎから急上昇し、下町の各区をゴボウ抜きしてトップに立ったということです。

 これは、何か特別な少子化対策をしたからというわけではない。単純に子育て世代の転入が急激に増えたからだと氏は説明しています。実際、中央区の平均年齢は、23区の中でもとびぬけて若返っている。特に0-9歳の子どもの人口が多いのは、区内のタワマンに引っ越してきた高所得パワーカップルが子どもを産んでいるからだということです。

 一方で、かつてベスト3の常連だった、江戸川区、足立区、葛飾区といった下町3区の出生率は(2015年ごろをピークに)ここ5年間で急激に減少に転じていると氏は言います。中央区や港区とは対照的に、これらの区は平均所得も低く、家賃相場や住宅購入の相場も安い地域。つまり、所得の低い人達の出生率が下がっているという見方もできるというのが氏の見解です。

 「結婚は贅沢な消費」と言われて久しいが、日本の中でも最も平均所得の高い東京では、結婚に限らず出産も「金がある者、いわば裕福な貴族夫婦だけができる特権的行為」になっているのかもしれないと、氏は話しています。

 つまり、「貧乏人の子沢山」どころか、「金持ちの子沢山」ということ。となれば、(所得制限をかけないことが賞賛されている)月5000円の児童手当についても、気が付けば児童手当がなくても困らない豊かな家庭にたくさんの支援が行くことになりはしないかというのが氏の懸念するところです。

 東京で仕事をし、東京で結婚・出産したとしても、家族が増えてからは、家賃負担をおさえるため(もしくはより広い家を求めて)埼玉や千葉などに移住する家庭も多い。実際、東京から転出しているのは子育て世代がメインであり、お金のために移住したのに、お金がもらえないと嘆きたい気持ちもわかると氏は言います。

 さらに言えば、日本全国の他の地区の人たちからみれば、平均所得がもっとも高い東京都民だけが「手当」を次々ともらえるというのはどうなの?という意見もあるだろうということです。

 これらはなかなか難しい問題ではあるものの、バラマキの不公平感に文句を言う以前の問題として、(政治も私たちも)昨今のお上の「お救い金」に慣れてきって、いろいろと思考停止になってしまってはいないだろうかと、氏はこの論考の最後に疑問を投げかけています。

 政治家やお役所が(その都度)お金を配れば、それで問題は解決するのか。(恩に着せるにはそれでいいかもしれないけれど)若い人達が働いた分だけ十分な所得が確保できて、結婚や出産という安心な未来設計ができるようなそもそもの経済体制の整備こそが望まれるし、政府や自治体のやるべきことはまさに「そこ」なのではないだろうかとこの論考を結ぶ荒川氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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