MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2021 日本経済のリベンジはなるのか

2021年11月20日 | 社会・経済


 9月17日に日本銀行が公表した資金循環統計(速報)によると、今年6月末時点の国内の家計金融資産残高は1,992兆円で、過去最高を記録したとされています。7月以降の株価の上昇などを考えれば、おそらく現在は2000兆円を超えていることでしょう。

 昨年9月末時点で前年比2.7%増の1901兆円、今年3月末の時点で1,946兆円でしたので、昨今のコロナ禍にもかかわらず1年間で概ね10兆円(国民一人当たりに直すと7~8万円)というハイペースで増加傾向にあるようです。

 もっとも、日本人がお金を貯め続けているのは、ここ最近のことではありません。年度末ベースの家計金融資産残高が1000兆円を超えたのは1990年度末のこと。金融資産取り崩しの要因である高齢化が進む中にもかかわらず、(「失われた」と評される)約30年の間に約2倍になったことがわかります。

 直近30年間の名目経済成長率(日本全体の所得の伸び)が年率0.4%程度、定期預金の利率が0.01%程度であることを考えれば、これは驚くべき増加量と言っても過言ではありません。(いつ来るとも分からない「いざという時」のために)ため込まれるばかりで使われず、市場に循環しない大量の金融資産が、国民の懐の中で大量に眠っているということでしょう。

 コロナの中で、こうして身動きが取れなくなっている日本の資金の状況について、「週刊東洋経済」の10月23日号では東京財団政策研究所主任研究員の早川英男氏が、「資金循環が示す日本経済の今」と題する論考を寄せています。

 日本銀行が公表している(前出の)「資金循環統計」は、その時点の日本経済の縮図といわれ、最近の集計結果はコロナ禍における資金の流れの顕著な変化を示していると早川氏はこの論考に記しています。

 最近の動きで言えば、まず目につくのは、家計が保有する現預金の急増といえる。コロナ前の2019年末から今年6月末までの1年半で約65兆円も増えており、このところの(毎年20兆円程度の)増加ペースと比べても大幅に増加しているということです。

 その背景の1つに、家計の収入の減少以上に多額の給付金が政府から支払われたことがあるのはほぼ間違いないと氏は指摘しています。

 大企業の正社員や年金生活者にまで「特別定額給付金」の名目で一律10万円が支給された。一方、こうして家計の可処分所得は増えても、緊急事態宣言などが繰り返される中では感染リスクを伴うサービス消費などは強く制約され続けている。現預金保有の急増は、十分に消費ができなかった結果でもあるというのがこの論考における氏の認識です。

 しかし、今月初頭、全国一斉に緊急事態宣言は解除された。今後は、外食や観光などを中心に個人消費の回復が期待され、その時には、これまでに貯まってきた多額の余剰資金が「リベンジ消費」の起爆剤になるはずだということです。

 一方、企業(非金融法人)では、借り入れと現預金保有が両建てで大きく膨らんだ点が特徴的だと氏は話しています。

 実際、この1年半で、借り入れは50兆円弱、現預金も50兆円強増加している。このうち、借り入れについては昨年春の混乱時には大企業も増やしたが、やはり飲食・宿泊業などが政策的支援の下で拡大させた影響が大きいということです。

 中でも「信用保証付き」の借り入れは(この間)20兆円以上増え、偉業倒産が異例の低水準にとどまらせている。しかし、今後これらの企業が着実に返済を進められるかには大きな課題が残るというのが早川氏の懸念するところです。

 他方、企業の現預金保有の増加については、輸出の増加などに支えられて、製造業を中心に大企業の業績が急回復した影響が大きいと氏は説明しています。

 収益の回復と比較すると設備投資の回復はまだ鈍く、人件費は削減されている。こうして余った資金が、「現預金」の形で積みあがっているということです。

 これは、アベノミクスの時期に、企業収益の増加が経済全体の好循環につながっていないと批判されたことの裏返しのように見えると氏はしています。

 目先の景気は、前述のリベンジ消費などにより回復ペースが加速すると期待されているが、仮にこうした企業行動に変化がないとすると、その後は再び長期停滞に舞い戻ってしまうリスクがあるということです。

 そして、最後に政府部門(一般政府)を見ると、国債など(地方債、財投債、短期国債を含む)の発行額が、この1年半で70兆円弱も増えていることを忘れるわけにはいかないと氏は話しています。

 これは言うまでもなく、コロナ対策のために大規模な財政出動が繰り返された結果であり、予算額に比べ国債発行額がやや少ないのは予算の使い残しが巨額であるためだろう。いずれにしても、直ちに緊縮在税に向かう環境でないことは明らかだが、中長期的な財政健全化の途の検討を急ぐ必要があるというのが氏の指摘するところです。

 さて、(2020年度の経済対策予算の使い残しが30兆円に及んだことからもわかる通り)、資金は(おそらく)既にかなり潤沢に供給されているのでしょう。今、問題なのは、世帯や企業に抱え込まれたそれを、力強く循環させるためのエンジンとなる、魅力ある消費や投資があるのかないのか、そしてどこにあるのかということでしょう。

 アフターコロナの社会に生きる人々が、一体、何を求めどういった生活や企業展開を目指すのか。エネルギー問題やデジタル・トランスフォーメーション、人工知能や宇宙開発など、課題や話題が様々に浮かぶ中、未来の利益を見つめる目利きたちの正念場はもうしばらく続きそうな気配です。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿