
商工中金が10月8日に発表した「中小企業の経営改善策に関する調査(2015)」によると、調査に回答した中小企業約4500社のうちの3割超が「人手不足」を経営上の課題として挙げており、前回調査(2013年)から2倍以上に増えていることが判ったということです。
今回の調査において「経営面で特に問題だと感じている項目」を複数回答で聞いたところ、調査対象の3分の1を超える35.7%が「人手不足」を挙げており、前回の16.1%から大きく増加したとしています。
これを地域別にみると、東北地方の42.9%が最も高く、次いで九州・沖縄地方の42.1%、四国地方の41.1%と続き、関東地方は35.5%、最も低い甲信越地方で29.6%と地域ごとの濃淡が比較的鮮明になっています。こうした状況に対し報告書は、関東・東海・近畿といった大都市を擁する都市部では概ね全国平均を下回る一方で、東北・九州・沖縄・四国・北陸などでは人手不足に対する問題意識が強く、地方での労働力の不足感が高まっていると指摘しています。
一方、調査の結果を見ると、中小企業が問題視している経営上の最も大きな課題は前回に引き続き「国内需要の減少・低迷」であることが判ります。前回の調査(70.0%)からは大きく比率を下げたものの、調査対象の約半数(49.8%)の企業がいまだ売り上げの不振に喘いでいるとの調査結果を踏まえ、報告書は、景気回復の地方への波及が遅れている現状を反映したものとの認識を示しています。
さらに今回の調査では、今後5年以内に実施を検討している経営改善策を複数回答で尋ねています。その結果を見ると、「後継者の育成」(25.7%)が最も多く、「新規事業への進出」(16.6%)、「総資産の圧縮」「新市場の開拓」(16.1%)がこれに続いており、後継者不足に悩む中、経営の根本的な刷新や新規分野への挑戦を中・長期的な課題と捉える中小企業が多いことが見て取れます。
さて、こうした調査結果を見てくると、日本の(特に)中小企業の経営課題が、この5年ほどの間に「市場の不透明」さや「売り上げの低迷」といったデマンドサイドから、「人手不足」や「後継者問題」といったサプライサイド、中でも「人材」の問題にシフトしつつあることが判ります。
人口構成の高齢化や生産年齢人口の減少に伴う活力の低下への懸念が議論され始めている日本経済ですが、現実の社会では(特に地方を中心に)人材リソースの不足が徐々に顕在化しつつあると言えそうです。
内閣府は、10月17日、将来の生活や居住地域の希望に関する全国世論調査の結果を発表しています。
調査によると、老後は(今とは違う)別の地域に移住して暮らしたいとする人の割合は、全国平均で19.1%と約2割に達しているということです。特に東京都区部などの大都市圏ではその割合は24.8%と全体の4分の1に達し、他の地域よりも顕著に高くなっているとしています。
さらに調査の結果からは若い世代ほど移住に前向きで、20歳代では3分の1を超える35.8%に上っていることが見てとれます。移住先としては地方都市が55.2%で最も高く、農山漁村が20.3%と続き、生活環境に関しては医療や利便性を求める声が強かったということです。
こうした調査結果が示すように、適当な職ときっかけが提供されさえすれば、地方への人口の再流入はそれほど難しいものではないのかもしれません。人材が足りない地方と、地方での暮らしを希望する若者達。その二つの要素をつなぐ鍵は一体どこにあるのでしょうか。
さて、こうした様々な状況を俯瞰して見てみると、地方への移住に不安を感じる若者の背中を押す要素が、まずは何より彼らを求める雇用環境であり、ゆとりある子育てが可能となる環境であり、親の世代の生活や介護などのケアの充実であることは論を待ちません。
折しも、政府は「一億総活躍社会の実現」に向け、新しい「三本の矢」である(1)「希望を生み出す強い経済」、(2)「夢を紡ぐ子育て支援」、(3)「安心につながる社会保障」に取り組むこととしています。
日本経済の行き詰まりを打破し、少子化への流れを止め、そして消滅可能性が高いとされる地方を再生させるために必要とされているのは、実はバラマキ的な交付金や公共事業などではなく、そうした「基本的」で「地道」な政策にあることを私たちは(そして国も自治体も)もう一度心して捉え直す必要があるのかもしれません。
願わくば、こうした基本政策が一過的な人気取りのものではなく、戦略的かつ中・長期的に(しつこく)進められてほしいと改めて感じたところです。
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