MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1250 ポスト工業化社会の姿

2018年12月20日 | 社会・経済


 今年6月に公表された政府の「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる「骨太の方針2018」)は、2020年までの3年間を生産性革命集中投資期間と定め、あらゆる施策を総動員し「Society5.0」を本格的に実現するための新たな仕組みの導入を図るとしています。

 当該「骨太方針」では、「第4次産業革命」の社会実装により日本の強みである技術力や人材などを最大活用し、誰もが活躍でき人口減少・高齢化・エネルギー・環境制約などの様々な社会課題を解決するSociety5.0を実現するとその決意を示しています。

 ここで言う第4次産業革命とは、ロボット工学、人工知能(AI)、ナノテクノロジー、生命科学、IoTなどの多岐に渡る分野でのイノベーションにより、18世紀の最初の産業革命以降4番目となる産業の新時代を目指す動きを指すものです。

 一方、「Society5.0」は、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を意味しています。

 これまでの情報社会(Society 4.0)では、知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分であるという問題がありました。人間の能力には限界があるため、あふれる情報から必要な情報を見つけて分析する作業が負担であったり、年齢や障害などによる労働や行動範囲に制約があったということです。

 一方、内閣府のホームページによれば、第4次産業革命によってもたらされるSociety5.0では、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難が克服されるとしています。

 人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動運転などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服される。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感が打破され、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会が生まれるということです。

 さて、デジタルテクノロジーやデータリズムを中心とした技術革新(=第4次産業革命)によってもたらされる(Society5.0と呼ばれるような)全く新しい「ポスト工業化社会」とは(具体的に)どのような社会となるのか。

 AIやネットワーク技術などの革新的な技術が行き届いた新たな社会では、働き方が大きく見直され労使間の格差や規模間格差が解消するとともに、(上手くいけば)多くの人が組織に依存した拘束的な働き方から解放される可能性が考えられます。

 また、そうしたことで、人の能力や創造性が経済社会の主役となり、一人一人の労働者がそれぞれの意欲・能力に応じた仕事を得て、その能力を活かして生きるという「人が主役の時代」が訪れると期待する向きも多いでしょう。

 厚生労働省では、今から14年前の2004年に学識経験者名によって構成された「働く者の生活と社会のあり方に関する懇談会」を設け、ポスト工業化社会における働き方に関する議論を行い『転換期の社会と働く者の生活-「人間開花社会」の実現に向けてー』と題する報告書を取りまとめています。

 そこでは、「ポスト工業社会」をそれまでの産業の中心となった機械や設備に替わり、「人間の能力」そのものが経済社会の原動力となる社会と位置付け、働く人々が多彩な能力の発揮することで経済社会の好循環が生まれると説明しています。

 そして、こうした「人間開花社会」を実現させていくためには、資本や組織に従属してきた人々がそれらの強い拘束から解放され、人間性やクリエイティビティを遺憾なく発揮できるようパラダイムの転換を図っていくことが求められると指摘しています。

 報告書は、こうした人間社会の実現には、まずもって一人一人の個人が資質や才能を伸ばし、能力を発揮できるような多元的な教育システムやダイバーシティを尊重する企業や社会の存在が不可欠だとしています。

 単線的な価値観を温存したままでは、人々の多彩な資質・才能は評価されない。多元的な価値観の社会を作れるか否かが、「人間開花社会」実現のために本質的重要性を持つということです。

 さらに、報告書には、豊かな社会の元では人々の意識や関心が多様化し、社会参加意識や貢献意識も高まってくると記されています。

 こうした人々の利害や関心に応じ、様々なネットワークや集団が設立され活発に活動が促進されることで、社会に新たな躍動をもたらしていくことが求められる。具体的には、「知恵」「感性」「思いやり」など定量化しづらい人間の多彩な資質や能力を開発し、多元的な社会を支えることが期待されるということです。

 さて、この報告書のとりまとめから既に14年の歳月が過ぎ去りました。そして今、いよいよ現実のものとして視界に入ってきた「ポスト工業化社会」に向けて、私たちが身に着けるべき能力とは何なのか。

 AIやロボットなどの社会実装によって、人間の仕事が奪われたり格差が大きくなったりと心配されることの多いこれからの社会ですが、こうして考えてみると(そこに)必要なのは「人間復興」的な創造性の開花なのかもしれないと感じさせられます。

 工業化社会で身体に沁みついてしまった画一的、効率的な考え方を捨て、多様性を排除せずそれぞれが創造的、個性的に考えふるまうこと。ポスト工業化社会の幕を開くのは、人間中心の(まさしく)「第2のルネッサンス」のムーブメントなのではないかと、私も改めて考えるところです。




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