MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1252 黒田バズーカから5年

2018年12月22日 | 社会・経済


 日銀の黒田東彦総裁は10月18日に日本橋の本店で開催された秋の支店長会議において、物価上昇率の2%目標実現に向け現在の超低金利を当分の間、維持する方針を改めて示しました。

 黒田総裁は、低金利下で金融機関の収益悪化が懸念されていることに関しては「金融システムは安定性を維持している」と(現時点では)問題はないとの認識を示したうえで、(政府と足並みをそろえ)インフレターゲットを見据えた金融政策を続ける意向を示したと報じられています。

 「黒田バズーカ」と呼ばれた異次元の金融緩和が始まった2013年からすでに5年が経過し、日本の通貨供給量は当時の3倍を大きく超えています。

 本来であればその分が消費や投資に回り成長が加速化されて然るべきなのですが、この間、日経平均株価は約2倍に上がったものの肝心のGDPは総裁就任時の498兆円から549兆円へと約1割の伸びにとどまっています。

 2年で達成するとしていたインフレ率2%の達成時期は6回も先送りされ、5年経った現在でも消費者物価指数は1.0%にとどまる現状をどうとらえたらよいか。黒田氏は「人々の間にデフレマインドが根付いてしまい転換に時間がかかっている」と釈明していますが、果たしてそれは本当でしょうか?

 財務省が公表した法人企業統計(金融業・保険業を除く)によると、2017年度の経常利益は前年度比11.4%増の83兆5543億円となり、過去最高を更新しています。

 これに伴い、企業が蓄えた内部留保は前年度比9.9%増の446兆4884億円にまで膨らみ、6年連続で(こちらも)過去最高額を更新しています。内部留保は、安倍政権発足前の11年度末と比べ、実に160兆円以上積み上がった計算です。

 一方、企業が生み出した付加価値のうち、従業員の人件費(給与、賞与、福利厚生)に充てた割合を示す「労働分配率」は、2012年度以降右肩下がりに落ちています。2017年度は前年度比1.3ポイント減の66.2%と1970年代と並ぶ歴史的な低水準を記録しており、企業業績が従業員に十分に還元されているとは言えない現状が見て取れます。

 実際、株価の上昇などにより景況感は必ずしも悪くない日本ですが、消費については依然として低迷を見せています。総務省が発表している家計調査を見ても、勤労者世帯の可処分所得は21世紀に入ってからだけでも47万円減少しており、全世帯の消費支出も41万円減少していることがわかります。

 さらに言えば、日本銀行が四半期ごとに公表する資金循環統計によれば、家計の金融資産額は2018年6月末でGDPの約1.7倍に当たる1848兆円に膨らんでいて、このうち現金・預金が971兆円と約半分に及んでいることが判ります。

 また、高額の預貯金を抱えている世代は60歳以上がほとんどで、しかも借金を差し引いた純貯蓄で見ると9割近くを60代以上が保有しているとするデータもあるようです。

 少し口悪く言えば、高齢者は老後が不安だからと言ってせっせと預貯金に励み、一方、現役世代は住宅ローンや子育てに追われながら資産を安全確実に運用する必要もあって、預貯金から一歩も出られない状況と言えるかもしれません。

 異次元の金融緩和によって生み出された多くの資金が使われることなく(こうして)預貯金に眠る状況について、日本経済新聞の連載コラム「大機小機」に「過剰貯蓄はここにも」(2017.11.15)と題する興味深い記事が掲載されていました。

 記事は、増加する企業収益が賃金や設備投資に十分に回っていない現状の背景には、1990年代の金融危機やリーマン・ショックを経て慎重化した企業経営と、人口減少の下で期待成長率が低下していることの二つがあると見ています。

 一方、家計に目を転ずれば、貯蓄率は高齢化の進展で低下しているが、将来への不安を抱く子育て層の貯蓄志向の高まりがうかがえる。

 そしてさらに、彼らを支えるはずの政府は恒常的な赤字を雪だるま式に肥大化させており、日本経済全体の貯蓄投資バランスをみると、政府部門の赤字を主として企業部門の黒字が賄うという構図が生まれているということです。

 政府部門の内訳をみると、中央政府の国債費を除く財政収支である基礎的財政収支は、赤字幅が縮小しつつあるとはいえ黒字化の展望が開けているとはいい難いと記事は指摘しています。しかし、これに対して地方財政は歳出・歳入両面での改善が進み、基礎収支の黒字が継続しているということです。

 実際、地方公共団体の貯蓄である基金残高は大きく増加しています。先日公表された地方公共団体の基金の積み立て状況に関する総務省の調査によれば、過去10年間で基金残高は7.9兆円増加し21.5兆円に達しているとされています。

 もちろん自治体だって財源が余っているわけではありません。少子高齢化による将来の歳入減少・歳出増加を見込んで、社会保障費の増加や公共施設の老朽化に伴う維持更新費の増加への備えをしているということでしょう。

 さて、こうして見てみると、企業、家計ばかりでなく、地方財政までもが将来不安から貯蓄を増やしていることが判ると記事は説明しています。

 そこで記事はまず、企業に求められるのはいたずらに内部留保をため込むことではなく、積極的な研究開発投資や人材投資を通じて競争力を維持・強化し、自らの将来不安を打ち破ることだとしています。

 また、自治体は社会保障の効率化による歳出抑制や、長期展望に基づく公共施設の維持・管理計画の策定などに取り組むことで、自ら将来不安を解消していく必要がある。また東京に税収が偏在しており、その是正に取り組むことも必要だということです。

 それでは、将来に不安を抱える家計が「消費」を増やしていくためにはどのような方策があるのでしょうか。

 労働分配率を上げ企業利益を適切に賃金に反映させるようにすることは勿論ですが、それにも増して、(高齢者を中心に)人々を消費に向かわせる時代の空気を作ることの重要性を、こうした現在の状況から改めて感じるところです。



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