MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2013 なぜ感染者数は急減したのか?

2021年11月11日 | 社会・経済


 一時は、感染者の急拡大に医療のひっ迫を招いていた日本の新型コロナウイルス感染症ですが、ワクチン接種が人口の7割に達した10月以降、一気にその勢いが沈静化している様子です。

 11月に入り新規感染者数は今年1月以降で最も少ない水準で推移しており、31の都道府県で減少傾向継続しています。もっとも、千葉県など都市部の16県では、(低い水準ではあるものの)下げ止まり傾向も徐々に現れていて、再拡大が懸念される年末に向け(それでも)なかなか終息とまでは言い切れないようです。

 実際、ドイツでは11月に入り、1日当たり3万人以上の新規感染者が連日生じており、予断を許さない状況だと伝えられています。また、ロシア政府の発表では、ロシア国内の1日当たりの新規感染者は4万人を上回っているとのことであり、11月4日にはこれまでで最も多い1195人の死者数を数えたということです。

 WHOヨーロッパ地域事務局は11月4日、管轄するヨーロッパとロシア、中央アジアなど53か国で先週確認された感染者数は前週よりも6%増加し、死者の数は12%増加したと発表しています。同事務局によれば、ヨーロッパや中央アジアの一部の国でワクチンの接種が遅れており、このままの状況が続けば来年2月までにさらに50万人が犠牲になる恐れがあるということです。

 さて、こうした状況の中、日本の新規感染者数の急減は世界から注目されているようです。なぜ日本では感染が急速に収まっているのか。

 東京大学名誉教授の黒木登志夫氏は11月8日の日本経済新聞の新型コロナ特集(複眼「コロナ感染、なぜ急減」)において、8月下旬から11月にかけての東京における新規感染者の(8.6日で半減という)減少ペースは、数理モデルでは説明が難しい「ありえないような」数字だとしています。

 専門家らで構成する政府の分科会は、人流の減少や死亡報道などを受け個々人が対策を強化したこと強化したことなどをその理由に挙げているが、それだけでは新規感染者の下降の加速を説明しきれないということです。

 さて、第5波と言われた感染の急拡大に対し、(私も含め)日本中の多くの人が対策をとったのは確かです。とはいえ、第1波の際のような極端な行動制限は行わず、巷の人流だってそれなりに活発だった気もします。

 褒められれば悪い気はしませんが、それでも疑問に感じる感染状況の急変に関し、同特集では東邦大学教授の舘田一博氏が興味深い解説を加えているので、参考までに紹介しておきたいと思います。

 「第5波」の感染者急減は一つの要因で説明できないような現象といえる。その要因は様々考えられるが、私はワクチンの効果と基本的な感染対策の徹底が非常に強く出たためではないかと考えていると、舘田氏はこの記事に綴っています。

 新型コロナウイルスのワクチンは2回目接種から約2週間後に効果が強まり、次第に下がっていく。7月から64歳以下の人の接種が急激に進み、国内にはワクチンの効果が最も強い状態の数千万人の集団ができていた(はずだ)と氏は言います。

 これが、ちょうどデルタ株で感染が拡大した時期と重なった。若い人を中心に、多くの人がデルタ株に感染した。若い人は感染しても無症状かほとんど症状のない「不顕性感染」が多く、実際には(この時期)検査で感染が確認された人の3~4倍は感染者がいたのではないかというのが氏の見解です。

 (整理すれば)ワクチン接種が急速に進み、同時にタイミングよく不顕性感染を含めて免疫を持つ人が急増したことで国内で一時的な集団免疫効果が強く表れ、結果として8月半ば以降に感染者が急減した可能性があると氏は状況を説明しています。

 一方、英国やイスラエルなどワクチン接種が先行した国では、ワクチン効果による免疫力が弱まっていた時期にデルタ型が流行し、接種した人も感染する「ブレークスルー感染」が急増した。もちろん日本でも、もっと早く接種が進んでいれば同じような状況になったかもしれないということです。

 さらに日本では基本的な感染対策が文化として定着しつつある。マスクを着用し、密集を避け、十分換気する。緊急事態宣言解除後も会食を控えるなど対策を一気に緩めていないため、人出は増えても感染者数への影響は少なかったのではないかと氏は指摘しています。

 新型コロナワクチンの効果は6~8カ月とみられる。先行接種した医療関係者や高齢者などへの追加(ブースター)接種は12月以降に始まる見込みで、たまたま感染が拡大しやすい冬場と重なるため、高い効果が期待できるということです。

 季節性インフルエンザは、秋にワクチンを接種して冬場に備えるもの。同様に、新型コロナワクチンも接種率だけでなく、今回のように接種するタイミングが極めて重要になるだろうというのが氏の見解です。

 もちろん、新型コロナワクチンの効果を求めるには、多くの人に一気に接種するスピードも求められる。3回目のブースター接種を迅速に行えるよう、第5波の教訓を生かした備えと準備が不可欠だと語る舘田氏の指摘を、関係者はしっかり受け止める必要があると改めて感じたところです。


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